カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 さて、時間を少し戻しますが、何と言っても金宇館での一番の楽しみは、今回も信州の旬の食材を使った季節の懐石コースです。毎回、素敵な器に盛られた、一手間も二手間も工夫された料理を目でも味わいながら頂きます。
しかも今回はコースの一品ずつを都度厨房から運んでいただいて、「離れ」のリビングダイニングで気兼ね無く我が家だけでの部屋食です。顔馴染みのスタッフの方や女将さんが都度運んで来られ、一品一品料理の説明をしながらサーブしてくれます。
我が家では会食だけでも可能だった10年以上前から金宇館を利用させていただいており、現在の四代目の女将さんが先代の女将さんと当時は二人だけで配膳など切り盛りされていた若女将の頃からです。またその後、姪が地元の保育園で先生として以前金宇館のお子さんを担任していたこともあって、毎年お世話になっている娘たちや最近では孫たちとも顔馴染み。加えて次女同様に結婚される前の航空会社での勤務経験もあってか、次女とはお互い親近感もあるようです。
 「随分大きくなりましたね・・・」
 「この前、中一の長男に遂に身長を抜かれたんですヨ・・・」
そんなお互いの世間話が何ともアットホームで暖かな感じがします。

 さて、この日の季節の懐石コースのお料理は、先附が甘柿とホウレンソウのクルミ和えからスタートです。
続いて栗に見立てたシイタケの利休揚げ。ホタテのしんじょに三つ葉がまぶされていて、素材を活かした薄味ながら何とも言えぬ味わいでした。
八寸が(上から時計回りに)、みぞれ和え、菊花を添えた春菊のおひたし、生姜の効いた牡蠣のしぐれ煮、シャインマスカットの白和え、オオマサリという大粒品種の塩茹で落花生、栗の渋皮煮。
牡蠣以外はどれも松本や安曇野産という地場の食材での地産地消でした。器にそっと添えられた赤く紅葉した庭の百日紅の葉が、更に季節の彩を演出してくれています。
続いて、創業時から受け継がれて来た漆器を4年前のリニューアルに合わせて塗り直したという漆器での椀物が、今回はジャガイモの素揚げが載せられた銀杏のすり流しでしたが、それにしても一体何個の銀杏を使ったのでしょうか・・・。
お造りは、バラの花の様に盛られたいつもの赤身のヒレの馬刺しを、ニンニク唐辛子味噌で頂きます。
焼き物の魚は、カマスがコショウと生姜を効かせたゴボウのすり流しの上に載せられていて、そのすり流しと和えて頂くのですが、何とも言えぬ味わい。
揚げ物は、ナメコの餡かけでの海老入りのレンコン饅頭。餡の塩梅が濃くも無く薄くも無く・・・絶妙でした。そして焼き物の肉は、信州牛のイチボにボタン胡椒の味噌を付けて頂きます。

最後の〆は、栗おこわ。栗は勿論ですが、おこわもほのかに甘味を感じます。
因みに11月になると新そばになって、〆はざるそばになるのだとか。
最後に、デザートで洋ナシのジェラート(こちらは奥さまへ)。
どれもこれも季節の旬の素材本来を活かしながらの、一手間も二手間も加えたこの日の料理の中で、個人的には栗に見立てたシイタケの利休揚げが一番でした。
娘は銀杏のすり流し、奥さまは焼き魚のカマスに添えられたゴボウのすり流しがが一番印象深かったとか。
またどれもこれも、取り分け八寸は酒の肴に実に相応しいのですが、残念ながらこの日もコユキと一緒に寝るために泊まらずに帰らないといけないので、ノンアルビールのみだったのですが、でも合わないなぁ・・・と、結局一杯だけで追加せず・・・何とも残念でした。
 続いて金宇館の食で楽しみなのが、翌日の朝食です。
京都のおばんざい風に、一人ずつのお膳に小鉢に盛られて並べらえた品々。
奥の左側から、ナスの揚げびたしと自家製がんもどきの煮物、お馴染みのニシンの煮付け、とろろ汁、続いて手前に白菜の煮浸し、これまたお馴染みのレンコンの炒め煮。歯ざわりが絶妙です。そして自家製のこの時期の香の物として、松本らしい“本瓜”の粕漬けとカリカリの梅漬け。どちらも懐かしい“我が家の味”に似ていて、“お祖母ちゃん”を思い出させてくれます。
それと、茶碗蒸し風の自家製の豆腐の餡掛けと、大久保醸造のお味噌汁と安曇野産コシヒカリのご飯が二つのお櫃に入って・・・。
おばんざい風の中では、毎度感じるのですがニシンの柔らかいこと。どうやったらこんなに柔らかく煮られるのでしょうか。圧力鍋かと思ったら、そうではなく、半日掛けてことこと煮込むのだとか・・・。
 「毎度、代わり映えしなくてスイマセン」
 「いえ、これを食べるのが毎回楽しみで・・・」
また炊き方もあるのでしょうが、安曇野産コシヒカリのご飯が美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまい、今回もとろろ汁だけでの一杯も含め、三杯頂いてしまいました。
一人でお櫃一つを担当した健啖家の婿殿を筆頭に皆同様で、最終的に二つのお櫃は全部空・・・。
 「今日はもうお昼は要らないよね・・・!?」
昨晩の夕食、朝食、金宇館の食事はどれもこれも本当に素晴らしい。
しかも三歳児の孫には、夕食も朝食もですが、大人用の献立の中から子供でも食べられそうな料理と一緒に、子供向けにわざわざエビフライなどの別の料理も作って出してくれました(孫の残したエビフライを食べた娘と家内曰く、衣も含めて街の洋食レストランでもお目に掛かれない様な絶品のエビフライだったとか・・・)
 今回も十二分に堪能した料理の数々でした。しかも、以前食べた料理とどこか同じ様であっても(例えばレンコン饅頭や、椀物のすり流しなど)似ている様で決して似ていない・・・。毎回食しながら、必ずそんな驚きと発見がありますす。

 金宇館の食事付きの宿泊料金は決してお安くありません。正直、年金生活者の我々にとっては尚更です。会食だけでも受け入れていた昔と比べれば、ご時世とはいえ本館の宿泊料金でも昔に比べれば何倍にもなっています。でも、それだけの料金を払っても、滞在から感じるその料金以上の満足感・・・。
それは決して“コスパ”や“タイパ”という単純な言葉や数値だけでは表すことの出来ない、これまで金宇館が積み重ねて来た三代に亘る百年という時間の上に、更に現在の四代目のご主人や女将さん始めスタッフの皆さんが努力して更に創り上げたであろう、癒しにも似た静謐な空気感とも云える様な、館内に漂う決して飾らない自然な雰囲気の“おもてなし”から受ける満足感・・・とでも言ったら良いのでしょうか。

 今回も大いに満足することが出来た、そんな金宇館の料理でした。そんな想いを溜息にも込めて、
 「ふぅ~、ごちそうさまでした。」

 以前の先代の頃の会食だけでも受け入れていた頃から、我が家では10年以上贔屓にしてきた美ケ原温泉の料理旅館『“鄙の宿”金宇館』。
2019年の3月から一年間掛けて“次の百年に向けて”という大幅な改装工事を行い、2020年の4月にリニューアルオープン。
改装前に父の法要後の会食も何度かお願いしたのですが、改装後は数か月先まで予約で埋まっているという人気の高さも手伝い、松本在住者としては誠に残念ではあるのですが、会食だけでの受け入れはもう不可能で、食事は宿泊客のみへの提供となってしまいました。

 年始に松本に帰省出来なかった次女一家と今年の2月末に金宇館にお世話になったのですが、ちょうどその時に工事中だったのがこの別館でした(第1888話参照)。それまで三部屋あった別館が昨年で閉鎖され、一年間の改装工事を経て、この10月17日に一棟貸しの「離れ」としてリニューアルオープン。
今回の改装工事は、今までの別館3部屋を一棟に纏め、二階建てに2洋室1和室の三つの寝室、そしてリビング部分と今までは無かった別館専用の内風呂を設け、更に別館だけは食事も部屋食にして、これまで要望があっても受け入れ出来なかった8人までのグループも受け入れ可能にするのが目的とのことでした。
 H/Pに依ると、
『この離れは1日1組様限定の貸し切りでご利用いただける建物です。
暖炉のあるリビングダイニングを設け、お食事は朝夕共にお運びさせていただきます。庭を眺める半露天風呂を備え、洋室2室と和室1室の寝室を設けて最大8名様までご利用いただけます。
一階は暖炉のあるリビングダイニングと庭を眺める半露天⾵呂を備え、昭和七年建築当時の意匠をそのまま残し、板張りのリビングと寝室。そして、建築当時の急な階段を上った二階に、和洋の寝室が二部屋。四畳半だった⼆部屋を繋げ、それぞれにゆったりとお休みいただけるダブルベッドの洋室と最大4組の布団が敷ける数寄屋風の和室にしました。』
とのこと。
 
因みに各寝室は洋室が2名ずつで和室が最大4名の合計8名ですが、それより人数が少なくても、勿論料金は高くなりますが、例えば二人だけで「離れ」を独占しての利用も可能とのこと。
そして家族での利用も出来ますので、これまで本館の5部屋の内「湯ノ原」一室だけだった子供の宿泊も、改装後は別館の「離れ」もOKになりました。こちらなら部屋食ですので、どんなに孫たちが騒ごうが泣こうが、他のお客様に気兼ねなく過ごすことが出来ます。
そこで今回は少し贅沢をして、その「離れ」に我が家で泊ることにしました。但し、本館よりも宿泊料金がかなり上がるので、今回は一泊だけですが(但し、私メは今回もコユキを独りにしておけないので、泊まらずに自宅に戻ります)。

 午後3時のチェックインの少し前に着いてしまったのですが、「もう準備は終わっていますから」と、時間前に受け入れて頂きました。そしてラウンジでのチェックイン後、「まだ他のお客様は一人も来られていませんから」と、離れ利用の説明していただきながら、今回は使わぬ一室も含めて「離れ」全部をじっくりと館内見学をさせていただきました。
本館同様に、この「離れ」も館内のあちこちに置かれた生け花と、ご主人がファンで集められたという沢田英男の小さな木彫りの像が“鄙の宿”の静謐な雰囲気を醸し出しています。
そして改装後の本館同様、「離れ」の家具も全て、明治から100年続く木芸工房で江戸指物の技術を受け継ぐ松本の前田木藝工房「アトリエm4」の四代目、前田大作氏の作品とのこと。リビングダイニングに置かれていた椅子の、背もたれの削り出されたカーブが何とも快適そうで、また意匠としてもとても印象的でした(ダイニングの写真はH/Pからお借りしました)。
離れ滞在者専用の板張りの源泉かけ流しの内風呂は、大きな窓が二つあって庭園を眺めながら入浴を楽しむことが出来ますし、時間制限なく貸切状態でいつでも好きな時に自由に温泉を楽しむことが出来ます。
因みに「離れ」では、TVは一階の昭和七年建築当時の意匠をそのまま残したという寝室横のリビングに1台置かれているだけで、二階の和洋の両寝室にはTVがありません。ですので、要らぬお節介ですが、浮世を離れ喧騒を忘れての温泉三昧で、金宇館のコンセプトである“時と泊る”・・・という認識が必要でしょう。
また「離れ」には小さなパントリーがあって、冷蔵庫(ビールや天然果汁のリンゴジュースなどが無料飲料として用意されています)と専用の全⾃動コーヒーマシンもあるので、本館のラウンジに行かなくても後述の広縁に座って庭を見ながら、或いは冬なら暖かな暖炉の柔らかに揺れる炎を見ながらエスプレッソを楽しむことが出来ます。
そのリビングダイニング横の「広縁」と名付けられた庭に張り出した板張りのテラスからは、改装に合わせて作庭された庭が望め、斜面を活かして石庭の様に幾つもの山辺石が置かれています。ただ造園作業に時間が掛かり、植栽工事が全部間に合わず、植栽が可能となる冬になったらまた何本かの木々が植えられる予定だそうですので、完成するとまた印象が変わるのでしょう。
 翌朝、他のお客様は皆さん既に観光に出発されたようですが、我々はゆっくりとチェックアウトの11時まで過ごし、最後に樹齢160年という立派な百日紅の横の門柱の所写真を撮っていただいてから、4代目ご夫婦に見送られて金宇館を後にしました。
今回はチョッピリ贅沢をしましたが、価格以上に満足した、完成前から楽しみにしていた憧れの「離れ」滞在でした。

 一周忌法要には間に合わなかったのですが、婿殿が夜勤明けの体で次女たちと合流すべく、横浜の病院から松本へ直行して来てくれました。
今回も勤務カレンダーに合わせて、婿殿は僅か二泊だけの松本滞在でしたが、彼を“おもてなし”するため“蔵の街”松本中町の「草菴 本館」に伺いました。
 こちらの「草菴」は、信州の地場の季節の食材での郷土料理が食べられるので、例えば娘の大学の恩師の先生が東京から会議で松本に来られた時や、知己の欧州在住のマエストロが演奏会の指揮で来られた時など、以前から我が家では県外からのお客さんをもてなす時に使っている和食料理店です。
次女一家も横浜からですが、都会から来られたお客さんは和洋中華、どれをとっても松本以上の店が都会では選べる筈なので、そうした方々に“松本の食”を堪能してもらうには、勢い信州蕎麦か或いは信州らしい地場の食材を活かした郷土料理しかありません。
この「草菴 本館」はそんな時に使える有難いレストランで、会社員時代には職場の30人を超える宴会でも何度か使ったことがあるのですが、二階には椅子席や畳の個室も大小何部屋かあるので、我が家の様に小っちゃな孫たちがいる家族にとって、特に畳の個室なら多少泣き叫ぼうが這い回わろうが他のお客様の迷惑にならないので便利です。
中町通りに面した別館の「井Say」と隣接した「草菴 本館」があり、草菴は中町から小池町に抜ける通りに面した本館専用の別のエントランスから入ります。
別館の「井Say」は蕎麦や一品料理などが主体のカジュアルなレストランで、本館の「草菴」では一品料理もありますが、5000円からの懐石コースもあり、今回選んだのは8000円のコースで、先付 前菜盛合せ お椀 お造り 凌ぎ 焼物肉 焼物魚 蕎麦 デザートの9品ですが、都会の人に海無し県の信州で鮮魚を食べて貰ってもしょうがないのでお造りは馬刺しへ、そして蕎麦好きの次女夫婦たちのためにお蕎麦もコースの椀そばではなくざるそばへと、予約した際に事前にお願いして変更して貰ってあります(追加料金を払って、一人8500円くらいでしょうか)。

 家内の説明を受けて、娘がスマホで料理内容とかを事前にチェックしていると、「草菴って、王滝グループって書いてあるけど・・・」とのこと。
 「えっ、ウソ!?」
驚いてネットで調べてみると該当するローカルニュースの記事があり、
『飲食チェーンの王滝(松本市)は13日、飲食店運営や仕出し事業の草菴(そうあん)(同)の全株式を取得し、2024年3月に完全子会社化した。
後継者不足に悩む同社がメインバンクの長野銀行(同)に相談し、同行から王滝に打診があった。王滝は、草菴の本格的な和食料理やサービス力を評価して事業継承することを受諾し、草菴社長を顧問に迎え、従業員全員を継続雇用した』とのことでした。
今年の3月に経営形態が変わっていたとは全然知りませんでした。そのためこれまでの「草菴」なら、スタッフの方が自ら野山に出掛けて採取するという春から夏は山菜、夏から秋はキノコなど、松本市内で獲れる旬の食材に拘った料理がコースの中に食材としてふんだんに使われていたのですが、「もしかすると経営方針が変わって、今までの料理内容が変化しているかもしれない・・・?」と一抹の不安を感じながら中町へ向かいました。
因みに、今回はせっかくの懐石料理なので、私メもお酒を楽しむべく、車2台ではなく家内が運転する1台に皆乗って貰って、私メは一人渚駅から上高地線の電車に乗り、松本駅から歩いて中町の「草菴」へ向かいました。
 パルコ通りから伊勢町、本町、中町へ。余談ですが、先に着いているであろう彼らを余り待たせぬ様に、信号機の無い横断歩道を渡ります。長野県は停車率がずっと全国1位ですので、横断歩道手前で車が必ず停まってくれます。但し、観光シーズンは県外車も結構入り込んでいますが、県外ナンバーの車は殆ど停まってくれないので、ちゃんと車が停まってから渡る様にしないと危険で注意が必要です。
駅から歩いていて驚いたのは、この日は日曜日だったのですが、歩いている人たちが欧米系や中国系など殆ど外国人だったこと。中町に在る(開店して年も浅く、地元でのそう有名店とは思えぬ)広島風お好み焼きのお店は行列が出来ていましたが、全員外国人観光客でした。彼等にとっては、例え松本で広島“風”のフードを食べようが“日本食”には変わらないのでしょう。

 さて、この日の「草菴 本館」の季節の懐石コース。
先附は地元でジコボウと呼ぶハナイグチとアミタケのみぞれ和え、シャインマスカットのクルミ和えなど二品、季節の八寸が地鶏の手羽先や虹鱒の唐揚げ、信州サーモンの手毬寿司、新栗の渋皮煮などが並びます。お吸い物の椀には地元の松茸があしらわれていました。
そしてお願いして変えて頂いたお造りの食用菊の花びらを散らした信州らしい赤身、桜肉の馬刺しです。肉の焼き物で、信州牛のローストビーフに添えられていた焼いたイチジクの甘かったこと。そして魚の焼き物には焼いた蕎麦団子と毎回お馴染みの焼いたマコモダケが添えられていて、それぞれ味噌を付けて食べるのですが、イネ科の水生植物の真菰の茎の部分である、マコモダケ(真菰筍)のコリコリとした歯触りと甘さが印象的でした。そして、ちょうど新そばに切り替わったというざるそばでコースの〆。
経営母体が変わったと聞いて心配していた料理内容ですが、幸い信州の食材を活かすという季節の献立は守られた様で、殆ど変わっていませんでした。
 帰り掛け、配膳をしていただいた女性スタッフと見送っていただいたフロア責任者のいつもの男性スタッフの方に、
「ご馳走さまでした。経営母体が変わったと聞いて、正直、料理内容も変わったかもと心配していたのですが、殆ど今までと変わっていなかったので安心しました。また来ます!」
「はい、何も変わらず今まで通りですので、是非またお越しください。お待ちしております!」

 次女一家も喜んで満足してくれた様で、もてなす側の我々も安心した「草菴 本館」のいつもの信州の季節の懐石コースでした。
私自身も大いに満足して、まだインバウンドの観光客で賑わう夜の松本の街中を一人歩いて渚に帰りました。

 終活を意識した松本でのマンション暮らしでは、庭が無いことなどへ一抹の寂しさもありますが、それにも増して何物にも代えがたい喜びは北アルプスの峰々が毎日眺められることです。

 生まれ育った下岡田の神沢地区や沢村エリアからは、筑摩山地と呼ばれる美ヶ原や鉢伏山は見えても、城山山系に遮られて北アの峰々は全く望めず、会社員時代に以前住んでいた沢村からの松本駅への通勤路で、深志高校を過ぎて塩釜神社辺りになって漸く右手に常念岳が顔を覗かせてくれると、堀金尋常小学校の斎藤校長先生ではありませんが、常念を見て「ヨシ、今日も頑張るぞ!」と思ったものでした。

 そんな、憧れの常念を始めとする北アの峰々を、人生後半に毎日眺められることの喜び!・・・これこそ“松本に生まれた幸せ”そのもの・・・です。
そんな北アの峰々の美しさの一つが、千変万化で一つとして同じものが無く、しかも正に秒単位で紅色が刻々と変わって行く夕映えの北アルプスです。
 夏、夏至前後の二ヶ月間、松本市の山辺から中山辺りで、槍ヶ岳に沈む夕日を眺めることが出来る(第856話参照)のですが、太陽が一番北へ上るその夏至が最も高く、その後また南へ下がって行きます。松本平からだと、夏には常念岳辺りまで来ていた夕日が、次第に南側に移動し、この時期、秋は乗鞍岳くらいまで南下して来ています。
個人的は、北アルプスの峰々全体が黒い屏風の様になって、その背後がバラ色に染まる夏がやはり一番好きですが、山容に特徴ある乗鞍岳が深紅に染まった秋の様子もなかなか素敵で、息を飲むような感じがしました。
 同じ様な内容で夏の様子を前にもご紹介したことがありますが(第1927話)、今回はそんな秋の夕映えの北アルプスの様子をご紹介させていただきました。
(掲載した写真、最初の1枚は9月17日、次の1枚が10月25日、残り2枚が翌日の10月26日で、大滝山から乗鞍方面からと最後の写真が常念岳から燕岳方面です)

 次女と孫たちが、亡き母の一周忌法要に合わせて、毎月育児の手助けに行っている奥さまが戻って来るのと一緒に松本へ来てくれました。
そこで、もう90歳を超えて足が弱くなって来られない家内の実家のお義母さんに初めて曾孫の顔を見せるために茅野に行くことになり、せっかくの茅野ですので、孫たちを白樺湖ファミリーランドで遊ばせてからお義母さんを実家に迎えに行って、どこかのレストランでランチを一緒に食べることにしました。

 先ずは10時半頃、白樺湖に到着して、ファミリーランドの無料駐車場に車を停めました。
「白樺湖ファミリーランド」は、白樺湖畔に立地している「池の平ホテル&リゾーツ」が運営するホテルに隣接し、メリーゴーランドやジェットコースター等の乗り物、パターゴルフ、プール、乗馬体験、アスレチック等が出来るアミューズメント施設です。
運営する池の平ホテルは、1955年開業と云いますから、我々と同世代。会社に入った頃、忘年会で泊りがけで行った記憶がありますが、正直余り良い印象は残っていません。奥さまに依れば、昔ファミリーランドに小さかった頃の娘たちを連れて来たこともあった由。
そんなこともあってか、近年では小さな子供のいる家族向けのためのキャラクタールームなどを備え、どちらかというとファミリー層狙いで、あの手この手で誘客している印象がありました。
しかし開業が私と同世代ですので施設が大分老朽化したこともあって、最近大幅リニューアルをして、新たに10階建ての本館が新築されてからは、TVCMから受ける印象では、むしろ“高級リゾート感”を(勿論宿泊料金も大幅アップし)前面に(或る意味“必死”に)押し出している様に感じられます。
ファミリーランドには結構車が停まっていましたが殆どは県外ナンバーで、皆さん勿論小さな子供さんたちを連れたヤングファミリーです。
この日は平日でしたが、入場料は全ての施設の入場やアトラクション全て乗り放題という平日フリーパスが大人料金だと5100円から入場券だけの1700円まで、内容によって料金が幾つにも分かれていました。
孫たちは上の子がまだ3歳で引っ込み思案で、アトラクションも乗るかどうかも分からないため先ずは入場券だけを購入し、乗りたいアトラクションがあったらその都度チケットを購入することにしました。
すると、案の定メリーゴーランドなどのアトラクションは「やだ~!」の一言で全て拒否・・・。そこで、少し離れた所にある森林鉄道に皆で乗ることになり、歩いて行くと1時間に一本しか運転が無くちょうど出発したところ。そこで止む無く、近くのポリーランドという北欧アスレチックとミニ動物園(どうぶつ王国)へ行って時間を潰して森林鉄道に乗車することにしました。すると、どこかの幼稚園か、保護者同伴でお揃いのジャージを着た大集団の子供たちが居て、アスレチックや動物園は園児で大混雑。そのため滑り台などの遊具は3歳児の上の孫は遊べず、結局見ているだけ。
そのため早めに森林鉄道の所に行って順番待ち。お陰で先頭の席に乗ることが出来ました。パターゴルフコースを囲むように線路が敷かれていて、色付き始めた林の中を10分程走る森林鉄道は結構楽しめた様です。
その後遊園地に戻って、アミューズメント館内にある室内のキッズルームへ。こちらは滑り台など幼児向けの室内遊具があり、まだ歩けない1歳児の下の孫も含めて楽しめました。最初からここに来れば良かったのです。
そして孫たちが気に入って終わりそうもないので、その間に家内がお義母さんを迎えに行ってくることになりました。
でもさすがに飽きて来たので、孫たちをベビーカーに載せて白樺湖畔の遊歩道を少し散策してみました。
残念ながら到着した時から一帯は霧に覆われていて、青空は望めませんでしたが、紅葉の色付きを増した高原の湖は幻想的な雰囲気でした。
因みに標高1400m、周囲約4㎞のこの白樺湖は、茅野市と北佐久郡立科町の境にあって、八ヶ岳中信高原国定公園に属する蓼科高原の池の平地区に在る高原の湖ですが、実はため池です。
元々は農業用水を確保するために建設された人工のため池で、そのため、この白樺湖は湖の周囲一帯全て茅野市北山柏原財産区が所有していて、水利権、漁業権、管理権の全てを持っているのだそうです。
なお、東山魁夷の「緑響く」で描かれて最近人気の御射鹿池も、同じこの北山地区に在るため池ですが、北八の麓、標高2100mに在り、この時期紅葉で人気の「白駒の池」は天然の堰止湖です。
 一時間ちょっとしてお義母さんも到着して合流。孫たちも教えられて「ひぃ~ばぁちゃん」と呼びながら、一緒にホテルの本館1階にあるダイニングレストランへ。
朝夕はバイキングで、ランチはアラカルトの由。孫たちがキッズルームで喜んで遊んでいたこともあり、知りませんでしたが14時のオーダーストップの10分前の入館で、急いでメニューを決定。そんなランチタイムを過ぎていたこともあり、広いレストランには我々含め3組ほどしかお客さんがいませんでした。窓も大きく自然光がたっぷり入る館内は明るくて、円形にカーブした窓側席からは白樺湖が見下ろせます。
失礼ながら料理も然程期待していなかったのですが、意外と本格派でビックリ。特にお子様ランチは、横浜に住む次女にして今までの中でもトップクラスとの評価でした。
 それにしても驚いたのは、殆どは県外からの家族連れのお客さんだろうと思いますが、平日というのにファミリーランドの混んでいたことと、新しく本館が出来た効果か、池の平ホテルの人気ぶり。
しかも白樺湖周辺は殆どの施設が老朽化して全体に活気は無く、中には閉鎖して廃墟となったホテルや旅館も湖畔には何軒もあるのです。
池の平ホテルも、昔の(泊った時に個人的に感じた)安っぽかったイメージとは様変わり。ホテルのエントランス付近にいるベルボーイやドアマンが、何だか小田急系列のリゾートホテルを連想させるようなブラウン系の制服と帽子で、昔を知る人間には何となくしっくりきませんでした。
恐らく40年振りくらいに来た池の平ホテルとファミリーランドですが、その様変わりに感心し、特に県外からの家族連れのお客さん向けの観光スポットとしての人気にビックリした次第です。

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