松本市で唯一残っていた鍛冶屋さん、中沢刃物製作所が
この春惜しまれながら店を閉めることになった。
この黒打のそば包丁は22年前に、私がサンフランシスコに
そば打ちパフォーマンスに行った時期に中沢さんから買ったものです。
その頃は、何回か中沢さんの仕事場でお話を伺う機会がありました。
仕事を拝見しながら聞く、鍛冶職人さんのお話はとても楽しかった・・・
中沢さんがもう何か月かすると良い鋼が輸入できなくなるので、
今のうちに買っておいた方がいいよ・・・と、勧められて購入したものでした。
そうはいっても、この黒打のそば包丁は1,100gもあり、未熟者の私には
簡単に使いこなせる訳もなく、アメリカへ持っていくのは諦めました。
結局、この黒打包丁に慣れるのに二カ月ほどかかった記憶があります。
この包丁は四十年近く使っているもので、やはり中沢さんが作ったものです。
これは、昨年亡くなった私の親父さんが特注で中沢さんに作ってもらったものです。
中沢さんから聞いた話では、重量を軽くするため刃を薄くしたと言っていました。
ちなみに、重さは・・・760gです。二本同じものを作ってもらい、
もちろん今でも現役で活躍しております。
アメリカ・ニュージーランド・台湾等、海外でそば打ちをする時には、
いつも、この包丁にお世話になっています。
このそば包丁は、秩父のそば打ち名人島岡さんが関市にご自分の
そば包丁を買いに行かれた時に、私にも一本買ってきていただいたものです。
ちなみに重さは、670gです。
それぞれ特徴も重さも違いますが、できる限り一日一回は
使うようにしております。
来月で創業百二十年を迎えることになった当店には・・・
創業当時のそば包丁が残っております。
実は、このそば包丁二十年ほど前に私が押入れを整理していた時に
一番奥から錆だらけで出て来たものなのです、確か昭和五十年の
新聞紙にくるまれていたのを私が錆を落として、今は店に展示してあります。
このそば包丁は相当長い年月使われていたのではないかと思われます。
ひょっとすると、七十年~八十年位・・・このシワが何ともいえませんね~
そば包丁一つとっても、それぞれの歴史や特徴がありますが
道具はできるだけ毎日使うこと、それが出来ないときは
触れるだけでもするように心がけております。
良いものを作るには、「材料・道具・職人」の信頼関係がないと出来ないと思います。
昨日は、ラジオ・新聞等で中沢さんがお店を閉められるというお話を伺い・・・
中沢さんに作って頂いたそば包丁をもって、ご自宅にお邪魔して
懐かしい、いろいろなお話をさせて頂きました。
職人の大先輩として、そんな思いを教えてくれた「中沢玉樹さん」
体調を壊されこの度、八十才を機に店を閉められることになりましたが
お身体にご自愛され、これからも奥様と共に長生きをされることをお祈りしております。
中沢さんの作ったそば包丁は、これからも私共の手元で生き続けていきます。
長い間、本当にお疲れさまでした。
このそば包丁のキーホルダーは、十七年前店を改築した時に
友人の木彫り職人、手仕事屋きち兵衛さんに中沢さんのそば包丁をもとに
作って頂いたものです。 今では手元に残る貴重な一つになりました。
べん