先日、安曇野・穂高へ用事があって行ってきた。
有明山に雲がかかって晩秋の風情!
今年も昨年につづき、蕎麦が不作だ!
原因の一番に上げられるのは、夏の集中豪雨と
異常高温の影響によるものだ。
もちろん、日本列島も広いので、場所によっては
天候の影響をあまり受けない所もあったようだが?
いずれにしても、蕎麦に限らず夏の異常高温で
多くの農作物が被害にあっている。
このように二年続けてそば粉がこの様な状態になることは、
初めての事で、正に異常気象と言わざるを得ない。
今年も原料相場は高騰しており、原料の確保に
頭を悩ませています。
今までは、毎年当たり前のように、秋になれば新そばが出て来て、
お客様に提供するという事が自然に行われてきましたが、これからは、
その年の状況で、よく考えて行かなければと思っています。
昨年も、このような状況で頭を悩ませましたが、
「ピンチの時にこそチャンスがある・・・」と
いう発想で何とか一年を乗り越える事が出来ました。
今まで積み上げて来た経験を生かし、蕎麦のいろいろな部分や
複数の産地の粉をブレンドする事で新しい発見をすることが出来ました。
大切なのはバランスだと思います。
「良い材料は殺さないように・・・
あまり良くない材料は生かすように・・・」
これは、かの北大路魯山人が言われた言葉だそうですが、
ようやく最近、私にも少し分かるようになってきた気がします。
悪い部分ばかり見るのではなく、たとえ少しでも
良いところを見て、生かすことが大切だと思います。
認め合えば、そこに信頼関係が生まれる・・・
これは、人も物も同じことかもしれません。
べん
「幻の蕎麦」
もう、ずいぶん前の話になりますが、私が中学生だった頃
今の天皇陛下が皇太子の頃、浅間温泉のある旅館に宿泊したことがありました。
その節、当店の蕎麦を出前で召し上がって頂いたことがありました。
その時の蕎麦を私も味見させてもらいました、
舌の上でとろけてしまいそうな、上品でやさしい味・・・
いままでに食べたことのない、忘れられない味でした。
最近になって、親父さんにその時の蕎麦の話を聞きますと、
「別に特別な蕎麦じゃない、普通の蕎麦だったと思う」と言う。
しかし、今でも私はあの時の蕎麦の味は、
もう一度食べてみたい幻の味であり・・・
いつの日か作ってみたい幻の蕎麦である。
「普通の蕎麦」
まだ、私が蕎麦を打ち出して数年の頃だったと思います。
その頃、当店の職人だったシゲちゃんが調理場から店内の一点を見ていた。
そこを通りがかった私は「シゲちゃんどうしたの・・・」と聞いたら、
いやー「俺も何十年この仕事をしてきたが、あんなに見事に蕎麦を食べる
お客さんに出会ったのは初めてだ」と見入っていた。
私も、そのお客さんの蕎麦を召し上がっている姿に目を奪われました。
「蕎麦を食べるリズムが一定で無駄がないんです、流れるように自然で、
美しいんです」私は思わず、お客さんに声をかけてしまいました。
「お蕎麦はいかがでしたか?」
すると、う~ん、と首をひねって・・・
「そうだな~ここの蕎麦は、生まれて初めてここの蕎麦を食べて、
そして、あちこちでいろいろな蕎麦を食べて・・・死ぬ前にもう一度
ここの蕎麦を食べて死にたい!」そういう蕎麦だな~と 一言。
「ごちそうさま!会計して下さい」 そして、二~三歩 玄関の方へ歩いたあと・・・
「あなたは真面目に仕事をしていますね! 私はこういう普通の蕎麦が
あってもいいと思う。頑張って、これからも蕎麦を作り続けてください」と言って・・・
颯爽と玄関の戸を開けて去って行きました。
私は、先程言われたお客さんの言葉に、ガーンと頭を殴られたようで
しばらくの間金縛り状態で、お客さんの名前を聞くことも考えられませんでした。
私は、この時から「普通の蕎麦を作り続けていきたい」 と、心に刻みました。
べん
前後裁断
過去を悔むより
先を不安に思うより
今あることを考える