「ある、お客様との思い出」
長年に渡って当店に通って頂いておりましたOさんが
先日、八十歳でお亡くなりになりました。
Oさんは、私がこの仕事に入ってから、四十年程
毎週のように、ご夫婦で食事に来てくださいました。
聞くところによると、小学生の時、父親に当店に
食事に連れて来てもらって以来、今日まで通って来て
頂いているとのことなので、七十年近くになります。
当店が今年、創業百十六年目になりますので、
その半分以上通って頂いたことになります。
本当にありがとうございました。
Oさんは、いつも無口なダンディーな方で、
明るく若々しい奥様と共に、とても素敵なご夫婦
でした。私などは三十数年前にそばを打ち出して
以来、毎週食べて頂いているわけですので
時には、首をかしげたくなるそばに出会ったことも
あったと思いますが、そんな時でも、
何も無かったかのように、次の週も
いらしゃってくださいました。
そういう意味では、Oさんに、私はそば職人
として育てて頂いたと思っております。
私から聞かない限りは、滅多にそばのことなど
言う方ではありませんでした、それだけに
いらっしゃると緊張する時もありました。
最近は、以前のように毎週来られることも
少なくなり心配になる時もありましたが、
今年になって急に体調を崩されて、
一月末に永眠されました。
最後にお会いしたのは年末にいらしゃて頂いた
時ですから本当に急なことで信じられません。
お通夜にそばを打ってお持ち致しましたら、
葬儀の時に奥様が「そばを棺の中に入れました、
きっと最後にそばを食べて、満足して逝ったと
思います。」と話してくれた時には、涙があふれ
出るのを、おさえることができませんでした。
葬儀の夜、奥様が息子さん、娘さんご家族と
一緒にそばを食べに来てくださった時、きっと
Oさんも一緒にいらしゃたんじゃないかと・・・
思いました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
べん
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