文鎮 Ⅴ
『ベストワンよりオンリーワン』
三十代前半は、そば職人として目覚め、
毎日、一生懸命そば打ちに励んでおりました。
「日本一のそば職人になるんだ。」という思いが
心のどこかにありました。
そんなある日、私の父(3代目)がそばを打ちました、
(父はその頃はもう、年に数回しかそばを打つことがありませんでした。)
父の打ったそばと、私の打ったそばを、
たまたまその場にいた、4~5歳になる私の娘に食べさせると、
「おとうさんの打ったそばもおいしいけど、おじいちゃんの
打ったそばのほうが、もっと、もっとおいしい」って言うんです。
娘の言葉に私は絶句してしまいました。
私も食べ比べてみると、娘の言うとうり
父の打ったそばの方が、味があるというか、
やさしい味がするのです。私の打ったそばは、
形はきれいにそろっているし腰もあるように思うのですが、
味わいがないんです。
「俺は毎日、何回も必至にそばを打っているのにそんなはずは・・・
父は年に何回しか打たないのに、どうしてなんだろう?」
それから、しばらくの期間(1~2年)悩みました。
そんなある日、朝一番でそばを打つ時、木鉢に入れたにそば粉に
心の中で「今日一日よろしくお付き合いください。」と
自然と手を合わせておりました。、
ようやく私は気がついたのです、いままでは
自分が主役になろうとしていたんだ、と・・・
「主役は素材(そば)であって、自分は脇役(お手伝い)なんだ。」
その時、そば粉が私に声をかけてくれたんです。
「ようやくお前も職人の入り口に来たな・・・」
本当に私には声が聞こえた気がしたんです。
そんな時ラジオからこんな言葉が聞こえて来ました。
(SBCラジオのつれづれ散歩道)
「これからはベストワンよりオンリーワンの時代だ」と・・・
そうなんだ、ベストワンじゃなくていいんだ、
それぞれが個性を持ったオンリーワンなんだ。
それから私は、肩の力が抜けて、少しはやさしい味のする、
そばが打てるそば職人になれたような気がします。
そば粉の声を聞いて以来、二十年余り、
毎朝そば粉に「今日一日よろしくお付き合いください」
と、手を合わせ、今日もまたそば打ちができることに感謝し、
そばを食べに来て頂いたお客様に感謝しております。
べん
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先日、
そば打ちを体験してきました。
打ったのは300gの二八蕎麦でした。
打ちたてをうでてもらい食べたお蕎麦は、どのお店で食べるお蕎麦より“美味しい”と感じました。
自分で打ったオンリーワンのお蕎麦だったからでしょうか。