<別れの風景>
友人のべんちゃんのおふくろさんが亡くなった。
枕経を読み終えたとき、べんちゃんは「おふくろの葬式は音楽葬でやりたい」と言った。
べんちゃんには手仕事きち兵衛さんやギターリスト辻幹雄さんという音楽を介した友人が多い。
その友人たちによる音楽葬をべんちゃんはイメージしたのである。ぼくは賛成した。そして、おふくろさんを見送るためのプログラムを作った。
このところ神宮寺のお葬式は大きく変化している。
10軒あれば10軒とも方法が異なるのである。
本人が生前の意思を残してある場合はもちろんその通りに行い、残されていない場合は家族と相談し、その人が「生きた軌跡」をしっかりとたどることができるオリジナルなお葬式を行うことにしているからだ。
慣習・慣例の中にからめとられているお葬式から脱皮し、個別化することは喪主家にとっても寺にとっても、とても勇気がいることであり、手間がかかる。しかし、何十年も一緒に生きた人を見送るのに手間を省いてはいけない。
きち兵衛さんが歌う「色即是空」(永六輔作詞)にぼくは「般若心経」合わせ、引導を渡した。辻さんはおふくろさんのスライド映像の前で、心に深く沁み込むギターを奏でてくれた。
泣いたところを見たことがない、べんちゃんがいっぱい泣いた。
つられてぼくも泣いた。それは悲しいけれど精一杯のお別れができた
という「納得」の涙だった。
神宮寺住職 高橋 卓志
平成20年2月19日 信濃毎日新聞「タウン情報」(展望台)より
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