はじめまして
はじめまして,9月より入社しました保坂と申します。よろしく御願いします。 主に設計を担当させていただきます。
今から約10年ほど前に設計を担当させていただいた商業施設についてお話しさせていただきます。
その施設は在来線の駅前,在来線の上には新幹線が走っているところに建設されました。その施設には露天風呂があり周辺の防犯からも2階に計画する必要がありました。また,線路と反対側にはマンションが隣接しており,どうしても線路側に露天風呂を配置することになりました。
2階の線路側は新幹線の往来とともにものすごい騒音があり,この音対策としては通常防音壁にて対策をするのですが,露天風呂ということもあり防音壁では雰囲気が出せません。新幹線が通ると会話すら聞き取りずらい状況で露天風呂の雰囲気を壊さないためにはどうすればよいのか・・・。
私は,遮音について答えが見つからず他のアプローチを試みました。それは音を音で消す”マスキング効果”の利用でした。しかし,マスキング効果は騒音源に対して低周波でなければ効果がでません。また,新幹線が来る時だけ音を出すことは予算的にも困難でした。そんなときにお昼12時に聞こえてくる松本駅の汽笛の音(当時12時流していたと思います)に気づきました。普段気にしたこともなかったのですが無意識にはじめて松本駅に降りた時のことを思い出しました。これをヒントに,音を消すのではなく特定の音を意識させ雰囲気が創出できるのではと考えました。
設計段階では具体的な答えが見つかりませんでした。現場事務所の脇で知り合いから貰った大きな壺に水をはり,ビー玉やらおはじきやらを入れて階段の途中からホースで水を流し色々な音を試していました。私がやろうとしたことは露天風呂に”水琴窟(すいきんくつ)”を作ろうとしたのです。当然現場事務所では不思議がられましたが,半年もやっていると皆が協力してくれて色々な音を試すことができました。現場も終盤に差し迫ったころ,そろそろ具体的な
回答を出さなければならなかったのですが,まだ納得のいくものがありませんでした。そんな中プールで使うタイルの見本焼きを見に多治見に行った時のこと,帰りに寄ったお土産屋さんで現場監督の私を呼ぶ声がしました。「保坂さん。これどうですか。」いそいで近寄ると坪庭用のポンプ式水琴窟が売っていました。しばらくその場で皆でその音色に聞き入り「これだ!!」 と意見が一致しました。
現場監督さんも半年も私が何かやっていることに興味を持ち,いつしかイメージ(音色)を共有してくれていたのです。
みんなでその壺を買い,早速現場事務所に置きました。
ポンプの代わりに露天風呂に入れるお湯の配管を繋ぐので
壺の中の水位が一番音の出る水位を測るためです。
その日から1ヶ月ほど現場事務所に壺を置き,現場事務所に来る職人さんたちの感想を聞きました。
実際に現場に設置して新幹線の通るのを待ちました。新幹線の音は依然として大きかったのですが,壺の音を聞き分けることができました。コストも壺のお金だけですので非常にリーズナブルでした。
竣工から1年後に,1年検査に伺ったところ,露天風呂にいたお客さんに「新幹線の音は気になりますか?壺の音に気が付きましたか?」とたずねてみました。返ってきたのは「あの壺いいよ。俺もほしいから1個譲ってくれ」でした。
私は「私は壺は売っていませんが,売っているお店は紹介します」と返事しました。現場の仲間もほっとした瞬間でした。
現場の人たちとはお施主様も含め,今でもよい友達です。設計を通し人の輪ができたことが私の財産です。
これからも一期一会で頑張りたいと思います。
文章が長くなってしまいましたが,最後まで読んでいただきありがとうございます。
保坂でした。