カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 年末に松本市のH/Pにある「市長への手紙」コーナーへ私がメールさせていただいた、「源智の井戸」の清掃活動についての窮状を訴える投書。
それを市長がご自分で直接読まれ、「現状と課題を整理する様に」とご自身で呼ばれて指示されたのが、井戸本来の担当課ではなく、「地域づくり課」の課長さんと「源智の井戸」のある町会のエリアを担当する「第二地区 地域づくりセンター」のセンター長さんでした。
因みに、「地域づくり課」は松本市の地域づくりの推進と市内35ヶ所の各「地域づくりセンター」を総括する組織であり、その統括下で、各地域の課題の把握・集約・解決に向けた支援と地区関係団体の育成、支援、相談対応をする中で、市と地区関係団体等との連絡調整など各地域の実情に応じた具体的な活動を実際に行うのが、市内35ヶ所に設置されているという「地域づくりセンター」です。

 正月休み開け早々に課長さんから私に直接電話でご連絡を頂き、私と会って実際の状況を直接確認したいとのことでしたので、その数日後にちょうど井戸清掃が予定されていたことから、私にヒアリングされるよりも、ずっと活動をされて来た地元町会の方々に話を聞かれた方が良いのでその旨申し上げ、私が地元有志の方々とを仲介調整した結果、1月中旬の朝7時からの清掃活動を実際ご覧頂いて、その後、「源智の井戸」の在る地元町会の町会長さん、そして清掃活動に毎回参加されてきた86歳の代表者を始めとする地元有志4名の方々と、部外者ではあるのですがボランティアで参加している私も町会役員の方からの依頼もあって、清掃後の話し合いに一緒に同席参加させて頂くことになりました。
そして、その後も井戸の担当課の方々も含めて三回程会議を重ねた結果、市側と地元町会の皆さんとの間で以下の三つの内容が確認、合意されたのです。
 先ずは、市側の来年度予算が通りそうなので、4月以降は専門の業者に委託して月2回「源智の井戸」の清掃業務を実施する。
一方で、松本市も少子高齢化とドーナツ化現象で市の中心街の人口が減っており、人手の無くなってしまった地元町会は清掃活動から“卒業”し、その代わりに日頃の井戸の様子は地元に住んでいないと把握できないため、町会長はじめ地元の方々に出来るだけお願いして、気の付いたことを市の担当課へその都度連絡いただく。
また、月2回の清掃だけでは特に藻の繁殖し易い夏場はカバーしきれない可能性もあるため、清掃活動のボランティアを募集して、業者清掃と並行して4月以降も継続的に月一回定期的にボランティアに依る清掃活動を実施する。
 以上のことが、市、地元町会間で合意され、早速地域づくりセンターが中心となって、ボランティアの募集活動をスタートしました。
市のH/Pでの告知、「源智の井戸」周辺にも募集のチラシを貼って、二次元コードや電話でのボランティア参加の申し込みを開始した結果、責任を感じた地域づくりセンター傘下の各町会長連合会の有志の方々も含め、私の様な「源智の井戸」で水を汲みに来ている利用者など、合わせて20人近い申し込みがあり、私も参加しているこれまでの有志での3月に行う2回の清掃活動に、今回実際申し込まれたボランティアの皆さんにも実地見学と試しに清掃活動にも参加して貰って、引継ぎを兼ねて、今後の清掃活動への理解と参考にしていただきました。
そして、その様子は地元紙やタウンペーパーにもニュースとしても取り上げていただいたので、今後に向けて少なからぬPRにもなりました。
 30数年間も自主的に「源智の井戸」の清掃を続けて来られたという有志の会のお仲間が高齢化で次第に抜けて、遂に86歳の会長さんたった一人になってしまったのを見るに見かねて、去年の5月から手伝うようになった井戸のすぐ近くにお住いの高齢のご婦人。そして「高齢のお二人だけに任せてはおけない」と、有志で昨夏7月から参加された地元町会の役員のお二人。更に、その窮状を伝える地元紙の記事を9月に見て、長年タダで水を頂いてきた利用者としては居たたまれずに直ぐに市役所にメールしたのですが、その後3ヶ月も経って会長さんを紹介され、連絡を取って12月の清掃から加わった私メ。合わせて5名の「井戸と花の会」。
その清掃活動を通して、これまでの「源智の井戸」の維持管理に関する経緯経過について、朝7時から地元町会の有志の皆さんと一緒に掃除をしながら、色々とお話しを伺って一番驚いたのは、部外者の私などは「井戸は地元町会の宝の筈」と勝手に決めつけていたのですが、確かに“歴史ある文化財”としての存在自体は“町の誇り”かもしれませんが、井戸周辺の殆どのお宅にはそれぞれご自分の井戸があって、この「源智の井戸」の水は利用したことも無いし飲んだことも無い・・・という、10年来わざわざ車でドリップ用の水を隔週で汲みに来ている私にとっては、或る意味“衝撃的”な事実でした。
そこで、この「井戸と花の会」メンバーでの清掃活動が最後になる3月。その日の朝6時半に家を出る前に、「源智の井戸」の水で淹れたコーヒーを保温水筒に詰め、一緒に紙コップも持参して、掃除の後にこれまでの清掃活動の労いへの乾杯代わりに皆さんに飲んでいただきました。すると、口々に・・・、
 「へぇ~、初めて飲みましたけど、本当にコーヒー美味しい!」
 「そうでしょう?そうなんですヨ!」
皆さん「源智の井戸」の水で淹れたコーヒーの美味しさに、一様に驚かれていました。
そんな「源智の井戸」の水を“使いもしないし、飲んだことすら無い”という地元の方々が、井戸自体の清掃だけでなく、時に観光客などが水を汲んで飲んだペットボトルや食べたゴミなどを捨てて行くのを片付けるなど、井戸の周りもキレイにして、ずっとこの井戸を守って来られたのです。
しかも、この「源智の井戸」だけが「まつもと城下町湧水群」の中で唯一の硬水なのですが、筑摩山系から流れ出る幾つもの河川により形成された複合扇状地である松本盆地で、この辺りに自噴して来る湧水は地下に様々な水脈があるらしく、湧水群や各家庭の井戸のどれ一つとっても水質や味が異なるのだとか。
松本市内で地下水や温泉開発を手掛ける地元企業「サクセン」という会社のH/Pに依ると、
『昭和63年、サクセンにて(松本市からの委託を受けて)この井戸の復元工事に携わり、古くから名水として利用されてきたその理由には周辺とは違う水質にあることがわかりました。源智の井戸の湧出量は毎分約200リットル、水温はサクセン計測実績から平均15.5度の自噴井戸です。水質硬度は113mg/Lです。(硬度=水質を表すひとつの指標で、水に含まれているカルシウムとマグネシウムの総量のこと)源智の井戸の水は軟水の多い日本では珍しく、硬水系の天然水と言えます。』
(注記:市の保健所に委託し、毎年調査して開示されているデータとは数値は異なります)
会長さんなど地元の長老さん方のお話に依ると、一度井戸が枯れてしまい、市指定の文化財だったこともあって、市に陳情して昭和63年(1988年)に井戸の採掘作業をして貰い、従来よりもかなり深く、地下50mまで掘り下げたのが現在の「源智の井戸」なのだそうです。
同じエリアであっても掘る場所によっても水脈は異なるでしょうし、深さによっても当たる水脈も異なる筈。ですので、「源智の井戸」のすぐ隣の瑞松寺や道路を挟んだ眼科医院にも井戸があって水を汲むことが出来るそうですが、そんなに近くても「源智の井戸」とはまた味が違うのだそうです。
 複合扇状地に位置する松本市には、「源智の井戸」を始めとする平成の名水百選に選ばれた「まつもと城下町湧水群」の湧水や井戸が20数か所あるのですが、その全てが市中の狭いエリアに集中しているため、市から維持管理を委ねられている地元町会(注記:例えば湧水群の中には、「源智の井戸」の様な戦国時代からの古い井戸や湧水ばかりではなく、中心市街地再開発に伴い、地元町会が維持管理することを条件に平成の「水めぐりの井戸整備事業」で市が採掘した西堀公園内の「西堀の井戸」などもあります)は、少子高齢化の中で、遅かれ早かれ「源智の井戸」と同じ状況に陥ることは必定だと思うのです。
               (西堀公園の「西堀の井戸」)
その時に「源智の井戸」だけを市が清掃業者に業務委託するということは、今は可能であっても、将来的に20数か所全てを業務委託で対応することは予算的にも市政として無理であり、少子化とそれに伴う人口減少を前提にそうした将来展望をふまえると、もし予算化が無理なら“金を出さずに知恵を出す”ことで、地元の方々も含めて利用者など市民に依るボランティアでの清掃活動を水平展開していくことが必ず必要となる筈なのです。
そのためにも、市側は今回の「源智の井戸」の清掃ボランティアの募集や運営をモデルケースとして、例えば掃除用具の購入一つとっても、湧水群の維持管理に関して今後発生するであろう大小様々な課題や問題に対処していくことが、ひいては松本市の観光資源でもある「まつもと城下町湧水群」を、本当の“市民の宝”として市民自らの手で守っていくことに繋がることと確信しています。
勿論、一朝一夕で達成出来る訳では無く時間が掛かるでしょうけれど、そうなるためにも、10年来、そして今後も隔週で美味しい「源智の井戸」の水を我が家のドリップ用に戴いている利用者の一人として、少なくとも体が動ける間は私自身もボランティアの一員として今後も引き続き「源智の井戸」の清掃活動に参加させていただくことにしました。

 そして、この4月5日。今回の募集で集まったボランティアに依る、第一回目の「源智の井戸」清掃が行われたのです。朝7時に10数人集まっていただき、手分けして清掃作業を進めます。中には防災備品として災害用に購入したというポンプを台車に載せて運んで来てくださった第二地区の役員の方がおられ、ジョレンやブラシで擦って浮かせた藻を金網ですくうのと並行して、藻の混ざった汚れた湧水を一気に汲み出し、湧き出て来る新鮮な湧水に入れ替えたのですが、“三人寄れば文殊の知恵”ではありませんが、人数が多ければ色々なイデアが出るものだと感心しました。また、これまでは有志5人での清掃活動でしたが、10数人もいれば今までは手が回らなかった井戸周辺の水路までデッキブラシで擦って掃除することが出来たので、見違え得る様にキレイになりました。
今回のボランティアは「先ずはやってみよう!」で、多少“走りながら考える”的なスタートではあったのですが、そこは“巧遅は拙速に如かず”で、考えることも重要ですが先ずは“Do=行動すること”の大切さを改めて感じた次第です。
市の担当課の方に依ると、業者の選定も決まり、エクステリア専門業者が4月から月二回清掃に入ることが決まったとのこと。従って、我々ボランティアと合わせて概ね10日毎に計月3回の井戸清掃が行われることになりました。
 今回、地元紙の報じた記事をきっかけに、地元町会の有志の方々と知り合う中で、例えば備品の掃除用具のたった一つの購入でさえ、これまで市の担当課との折衝に長年苦労されて来られたが故に、今後の市側の対応についても地元の皆さんは「何を言ってもダメせ・・・」と非常に懐疑的でした。
しかし、そうした苦労を直接知らぬが故に、「どうせ“ダメ元”でも・・・」と私の投じた市長への一通の投書メールだったのですが、結果として“瓢箪から駒”で、それが一つの小さな切っ掛けとなって、松本市民の宝でもある「源智の井戸」が市民自らの手に依って今後の維持管理に繋がっていくのであれば、たまたまその一石を投じた人間としてこんなに嬉しいことはありません。
そして願わくば、10年後、20年後、私たちが動けなくなっても、次世代の人たちにこの「源智の井戸」の清掃ボランティア活動がしっかりと引き継がれていかれんことを・・・。

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