カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
12月21日、まつもと市民芸術館で行われた、まつもと落語フェスティバルでの「桂二葉独演会」。私としては待ちに待った落語会でした。
以前、全く以て“大きなお世話“ながら、第1836話の中でも書いたのですが、
『NHK新人落語大賞受賞をきっかけに、関西のみならず東京のキー局でのレギュラー出演もしている今や超売れっ子ですが、YouTubeで幾つかその後?の高座を聞くと(限られたYouTubeでしか聞く機会がありませんので、聴くことが出来るネタは限られますし、以前に収録された高座が多いので、もしかすると取り越し苦労で実際は違うのかもしれませんが)、枕が毎回ほぼ同じ(近所の“悪ガキ”の男の子との無邪気なやりとり)なのが少々気になりました。
バラエティー番組のレギュラー出演も全国的な人気取りには大切なのかもしれませんが、“大きなお世話”ながら、むしろちゃんと落語の修業を積んで、権太楼師匠が言われた通りもっと持ちネタを増やして、“女流”という修飾語など一切関係無い上方落語の実力派の噺家になって欲しいと、他人事ながら心配し、また大いに「 期待してまーす!! 」
(そして願わくば、大阪はちょっと無理なので東京の定席で、いつか一度は生で聴いてみたいと思っています。)』
今回は「まつもと落語フケスティバル」と銘打たれた公演で、桂二葉独演会と、続いて柳亭小痴楽独演会の二本立て。
小痴楽師匠もNHKの新人落語大賞で初めて視て感心し(その時は次点)、以降二つ目時代と抜擢での真打昇進後と二回、「松本落語会」に出演されたので二度とも見に行きました。
今回も実は12月中旬の「松本落語会」の月例会にも出演され、今回の独演会と月に二度も松本に来演されたのですが、松本落語会は都合がつかず、今回の独演会は家内が次女の所に行っていて不在で、二葉さんの独演会から連続で聴くと昼から夕方まで半日も家を留守にすることになり、ワンコたちの夕食時間に掛かってしまうため止む無く諦めました。
ただ後で知ったのは、この日小痴楽師匠がトリで「文七元結」を高座に掛けた由。いやぁ、小痴楽師匠の人情噺、しかも「芝浜」と並んで12月に相応しい「文七元結」、聴きたかったなぁ・・・。残念でした。
この日の会場は「まつもと市民芸術館」の小ホール。こちらには駐車場が無いので、自宅から歩いて向かいました。
続々と人がホールに入って行くので、全員が二葉さんの独演会かと驚いたらそうではなく、この日大ホールで別に演劇の公演がある様でした。
小ホールは座席数288席との案内ですが、関西だけに留まらず、さすがの全国区の人気噺家。どうやら追っかけの方も含め、ほぼ満席。
さて、この日の高座の最初の開口一番は、前座の三笑亭夢ひろさんで「狸の札」。話しぶりは声も大きくて、前座としてはなかなかお見事でした。後は表情でしょうか。
続いて、桂二葉さんが独演会として仲入りを挟んで三席演じられました。
最初がお馴染みの古典落語から「看板のピン」。
その前の枕。どんな枕か、期待していましたが、YouTubeで視ているいつもの悪ガキではなく、松本に因んだ内容で大いに会場を沸かせてくれました。さすがです。
先ずは独演会の経緯経過で、当初主催者から夏頃の公演を依頼されたのだそうですが、わざと11月以降に設定して貰う様彼女の方からお願いしたのだとか。その理由は「松本一本ネギ」。
お父上が松本平の知り合いから毎年取り寄せるのだそうで、二葉さんも「松本一本ネギ」の大ファンなのだとか。旬のネギを現地の松本で食べたくて、その時期の11月過ぎの高座をお願いしたのだとか。
「下ナントカネギよりも松本一本ネギの方がよっぽど甘くて美味しゅうて、あんまり有名になったら困るんやけど・・・。今日は無理にお願いして安曇野の宿を取って貰うたので、明日、堀金の道の駅に行って、松本一本ネギ買うて帰ろうと思ってますねん!」
また、彼女は至る所で「マサムラのベビーシュー」を絶賛しているのが知られているそうで、この日の楽屋にも差し入れで大量に届いてピラミッド状態とか・・・(しかし、よう知ってはりますなぁ・・・。マサムラのベビーシューは、数年前に雑誌「dancyu」のシュークリーム特集で表紙を飾ったことがありましたが・・・)。
「さすがに、いくらマサムラ好きな私でもそんなにはよう食べられません、八個くらいしか・・・」
そして、話題はレギュラー出演をしている「探偵ナイトスクープ」に話題を振り、ここでも客席を沸かせます。
「結果、皆さんどうなったって思いますぅ?ね、気になりまっしゃろ!?そしたら・・・、放送視とくんなはれ!」
イヤぁ、以前ブログで『枕が毎回ほぼ同じ(近所の“悪ガキ”の男の子との無邪気なやりとり)なのが少々気になり』、また『バラエティー番組のレギュラー出演も全国的な人気取りには大切なのかもしれませんが、“大きなお世話”ながら、むしろちゃんと落語の修業を積んで』とか書きましたが、ホント“大きなお世話”でした。枕も十二分に工夫され、この日もご当地ネタを盛り込みながら、客席を大いに沸かせてくれました。
そして肝心の落語そのものも、連続ネタおろしに挑戦するなどして幅も拡げておられますので、落語そのものでも本人が嫌がる“女流”という形容詞を軽く跳び越えて、古典落語に拘る噺家として順調以上に成長されているのが分かりました。大変失礼いたしました。
さて、肝心のネタ。
この日、最初が博打打ちの古典落語「看板のピン」。大いに客席を沸かせた後、続けて「蜆売り」。
初めて聴く噺でした。これは上方落語の中の人情噺で、親方が昔掛けた情けが仇となって、結果家族を助けるために真冬に凍えながら蜆を売っている坊やを助ける噺。十日戎で賑わう今宮神社が噺の中に出て来ますので、年末年始のこの時期に掛けるネタなのでしょう。
後でネットで調べて知ったのは、この「しじみ売り」は、何でも桂福団治師匠に稽古をつけてもらって、11月末にネタ卸しをしたばかりとのこと。二葉さんにピッタリの蜆売りの子供の声と親方や姉さんとのやり取りを、見事に声色を変えながらしんみりと聞かせてくれました。
そして仲入り後は、いつもの声の甲高さをもじって「上方落語の白木みのるって、ゆうてますねん」といういつもの話題に触れて笑わせたかと思ったら、「まだ知っとる人いるんや・・・、安心しました。」と自虐的に沸かせてから、トリのネタは「くしゃみ講釈」。
この仲入り後の講釈師のネタに合わせて、高座には仲入り前は無かった机“演台”が上方落語らしく置かれました。二葉さん曰く、これは落語では「見台」と言い、必ず置かれる講談では釈台と言うのだそうです。
今回のトリに掛けたネタが、その講談を題材にしたネタ「くしゃみ講釈」でした。そのためネタ中に講談師が登場し演じますので、仲入り後に演台が置かれたのです。
因みに、人気の神田伯山などの講談師が高座で必ず左手に持つのが張扇(はりおうぎ)と呼ばれる竹の芯に厚紙を巻いたもので、場面転換や修羅場読みなどに釈台を叩きながら調子を取るのに使われ、右手には扇子を持つのだそうです。
二葉さんがこの日のトリに選んだネタの「くしゃみ講釈」は、米二師匠から稽古をつけて貰って5月にネタ卸しした噺だそうですが、しっかりと自分のモノにしていました。
やはりこの人には、アホな滑稽話が良く似合う。上方落語界の白木みのるという彼女の甲高い声がナントも心地良い。それでいて、皮肉一杯の毒を吐いて笑わせてもくれる。そして例えとちっても、それさえも笑いのネタに変えてしまう。この日の桂二葉という噺家。もしかすると、柳家さん喬師匠の「棒鱈」を聴いた時と同じくらい大爆笑したかもしれません。
そして、一年半前に書いた『NHK落語大賞を受賞した時に、審査員だった柳家権太楼師匠が言われた様に、もっともっと持ちネタを増やして“女流”という修飾語など一切関係無い上方落語の実力派の噺家になって欲しい。』
今回初めて生で聴いた彼女は、その通りの噺家への道をしっかりと歩んでいると確信出来ました。
大賞受賞後、「ジジイども見たか!」と啖呵を切った桂二葉。この日、田舎の松本まで来くれた独演会を、まさしくジジイが見させて貰いました。
これまで生で聴いた落語は決して数多くはないのですが、少なくとも今まで聴いた中では一番楽しめた落語会でした。
最後に、余談ながら、仲入り前はピンク系の淡い着物で、仲入り後は赤紅色とでも言ってイイのか、着替えての登場で、他の女流噺家の様に袴を履かれてはいませんでしたが、むしろ却って色っぽくて可愛らしく感じられてとても素敵でした。
追い出し太鼓の後、ホールを出ると、一早く桂二葉さんがホールに来られていて、帰られるお客さんに挨拶をされたり、取り囲んだこの日のお客さんのリクエストに応えて、ポーズを取って写真撮影に応じられたりしていました。そんなところにも、上方から飛び出して今や全国区となった彼女の人気の一端が垣間見えた気がしました。これからも是非精進して頑張ってください。
「お気張りやす!!」
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