カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
さて、時間を少し戻しますが、何と言っても金宇館での一番の楽しみは、今回も信州の旬の食材を使った季節の懐石コースです。毎回、素敵な器に盛られた、一手間も二手間も工夫された料理を目でも味わいながら頂きます。
しかも今回はコースの一品ずつを都度厨房から運んでいただいて、「離れ」のリビングダイニングで気兼ね無く我が家だけでの部屋食です。顔馴染みのスタッフの方や女将さんが都度運んで来られ、一品一品料理の説明をしながらサーブしてくれます。
我が家では会食だけでも可能だった10年以上前から金宇館を利用させていただいており、現在の四代目の女将さんが先代の女将さんと当時は二人だけで配膳など切り盛りされていた若女将の頃からです。またその後、姪が地元の保育園で先生として以前金宇館のお子さんを担任していたこともあって、毎年お世話になっている娘たちや最近では孫たちとも顔馴染み。加えて次女同様に結婚される前の航空会社での勤務経験もあってか、次女とはお互い親近感もあるようです。
「随分大きくなりましたね・・・」
「この前、中一の長男に遂に身長を抜かれたんですヨ・・・」
そんなお互いの世間話が何ともアットホームで暖かな感じがします。
続いて栗に見立てたシイタケの利休揚げ。ホタテのしんじょに三つ葉がまぶされていて、素材を活かした薄味ながら何とも言えぬ味わいでした。
八寸が(上から時計回りに)、みぞれ和え、菊花を添えた春菊のおひたし、生姜の効いた牡蠣のしぐれ煮、シャインマスカットの白和え、オオマサリという大粒品種の塩茹で落花生、栗の渋皮煮。
牡蠣以外はどれも松本や安曇野産という地場の食材での地産地消でした。器にそっと添えられた赤く紅葉した庭の百日紅の葉が、更に季節の彩を演出してくれています。
続いて、創業時から受け継がれて来た漆器を4年前のリニューアルに合わせて塗り直したという漆器での椀物が、今回はジャガイモの素揚げが載せられた銀杏のすり流しでしたが、それにしても一体何個の銀杏を使ったのでしょうか・・・。
お造りは、バラの花の様に盛られたいつもの赤身のヒレの馬刺しを、ニンニク唐辛子味噌で頂きます。
焼き物の魚は、カマスがコショウと生姜を効かせたゴボウのすり流しの上に載せられていて、そのすり流しと和えて頂くのですが、何とも言えぬ味わい。
揚げ物は、ナメコの餡かけでの海老入りのレンコン饅頭。餡の塩梅が濃くも無く薄くも無く・・・絶妙でした。そして焼き物の肉は、信州牛のイチボにボタン胡椒の味噌を付けて頂きます。
最後の〆は、栗おこわ。栗は勿論ですが、おこわもほのかに甘味を感じます。
因みに11月になると新そばになって、〆はざるそばになるのだとか。
最後に、デザートで洋ナシのジェラート(こちらは奥さまへ)。
どれもこれも季節の旬の素材本来を活かしながらの、一手間も二手間も加えたこの日の料理の中で、個人的には栗に見立てたシイタケの利休揚げが一番でした。
娘は銀杏のすり流し、奥さまは焼き魚のカマスに添えられたゴボウのすり流しがが一番印象深かったとか。
またどれもこれも、取り分け八寸は酒の肴に実に相応しいのですが、残念ながらこの日もコユキと一緒に寝るために泊まらずに帰らないといけないので、ノンアルビールのみだったのですが、でも合わないなぁ・・・と、結局一杯だけで追加せず・・・何とも残念でした。
続いて金宇館の食で楽しみなのが、翌日の朝食です。
京都のおばんざい風に、一人ずつのお膳に小鉢に盛られて並べらえた品々。
奥の左側から、ナスの揚げびたしと自家製がんもどきの煮物、お馴染みのニシンの煮付け、とろろ汁、続いて手前に白菜の煮浸し、これまたお馴染みのレンコンの炒め煮。歯ざわりが絶妙です。そして自家製のこの時期の香の物として、松本らしい“本瓜”の粕漬けとカリカリの梅漬け。どちらも懐かしい“我が家の味”に似ていて、“お祖母ちゃん”を思い出させてくれます。
それと、茶碗蒸し風の自家製の豆腐の餡掛けと、大久保醸造のお味噌汁と安曇野産コシヒカリのご飯が二つのお櫃に入って・・・。
おばんざい風の中では、毎度感じるのですがニシンの柔らかいこと。どうやったらこんなに柔らかく煮られるのでしょうか。圧力鍋かと思ったら、そうではなく、半日掛けてことこと煮込むのだとか・・・。
「毎度、代わり映えしなくてスイマセン」
「いえ、これを食べるのが毎回楽しみで・・・」
また炊き方もあるのでしょうが、安曇野産コシヒカリのご飯が美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまい、今回もとろろ汁だけでの一杯も含め、三杯頂いてしまいました。
一人でお櫃一つを担当した健啖家の婿殿を筆頭に皆同様で、最終的に二つのお櫃は全部空・・・。
「今日はもうお昼は要らないよね・・・!?」
昨晩の夕食、朝食、金宇館の食事はどれもこれも本当に素晴らしい。
しかも三歳児の孫には、夕食も朝食もですが、大人用の献立の中から子供でも食べられそうな料理と一緒に、子供向けにわざわざエビフライなどの別の料理も作って出してくれました(孫の残したエビフライを食べた娘と家内曰く、衣も含めて街の洋食レストランでもお目に掛かれない様な絶品のエビフライだったとか・・・)
今回も十二分に堪能した料理の数々でした。しかも、以前食べた料理とどこか同じ様であっても(例えばレンコン饅頭や、椀物のすり流しなど)似ている様で決して似ていない・・・。毎回食しながら、必ずそんな驚きと発見がありますす。
金宇館の食事付きの宿泊料金は決してお安くありません。正直、年金生活者の我々にとっては尚更です。会食だけでも受け入れていた昔と比べれば、ご時世とはいえ本館の宿泊料金でも昔に比べれば何倍にもなっています。でも、それだけの料金を払っても、滞在から感じるその料金以上の満足感・・・。
それは決して“コスパ”や“タイパ”という単純な言葉や数値だけでは表すことの出来ない、これまで金宇館が積み重ねて来た三代に亘る百年という時間の上に、更に現在の四代目のご主人や女将さん始めスタッフの皆さんが努力して更に創り上げたであろう、癒しにも似た静謐な空気感とも云える様な、館内に漂う決して飾らない自然な雰囲気の“おもてなし”から受ける満足感・・・とでも言ったら良いのでしょうか。
今回も大いに満足することが出来た、そんな金宇館の料理でした。そんな想いを溜息にも込めて、
「ふぅ~、ごちそうさまでした。」