カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 6月30日。この日の早朝、家内がまた横浜の次女の所へサポートに出掛けて行きました。
暫くはまたコユキと私メだけの生活です。いつもは家内にべったりのコユキも、この二人しかいない状況を理解すると彼女なりの諦めもつくのか、コユキなりのツンデレ気味ではあるのですが、ゴロニャンならぬゴロワンとすり寄ってきます。但し、大好きな家内が戻って来ると、それまでの恩義(何宿何飯かの義理・・・)など即忘れてしっかり元に戻るのですが・・・。
さて、そんなコユキに独りでお留守番を頼んで、この日の午後私メは一人でお出掛けです。
 この日マチネでの松本室内合奏団の第63回定期演奏会を聴きに、ザ・ハーモニーホール(松本市音楽文化ホール、略して音文)に行って来ました。
松本室内合奏団(英語表記も室内管弦楽団のChamber orchestraではなく Matsumoto Chamber Ensemble)は2管編成の地元のアマオケですが、8年前に一度同じく音文での定演を(その時はプログラムのエルガーのチェロ協奏曲を生で聴きたくて)聴きに来て、その時のチェロ独奏には正直些かがっかりしたのですが、いくら“楽都”松本がスズキメソードの本部とはいえ(夏休みになると、小さなバイオリンのケースを提げた世界各国の子供たちが駅前通りを歩いています)、その後のメインの“ブライチ”でのアマチュア離れしたオケの巧さに正直驚いていました(第1108話)。
そして昨年も、演奏会で取り上げられることの少ない同じくブラームスのハイドン・バリエーションを生で聴きたくて、チケットを購入していたのですが、その時はまだ東京に居た長女の所に行く用事が急に出来てしまい、チケットは妹にあげて自分は残念ながら聴けませんでした。
今回は、SKFにも参加している京都市交響楽団(京響)主席の山本裕康氏が指揮振りで、ハイドンのチェロ協奏曲と彼の指揮でのメインがシューベルトの「グレイト」というプログラム。2月のN響の松本公演以来の久しぶりのコンサートですが、両曲とも楽しみにしていました。
 1曲目のハイドンのチェロ協奏曲第2番ニ長調。生で聴くのは初めてです。ハイドンらしい優雅な旋律。今回のチェロ独奏は京響のチェロ主席を務める山本裕康氏。SKFにも参加されており、松本でもお馴染みです。前回がっかりしたエルガーの時とは違い、さすがでした。なお、今回は指揮がメインなのか、独奏者のアンコール曲の演奏はありませんでした。

 休憩を挟んで、後半にメインのシューベルトの交響曲「ザ・グレイト」。昔は9番もしくは発表順で7番とされてきましたが、今回は8番となっています。
これは、シューベルトは生涯に計6曲の交響曲を発表したのですが、シューベルトが死去して10年後の1838年、作曲家のシューマンがシューベルトの「新しい」ハ長調の楽譜を初めて発見し、彼の依頼を受けたメンデルスゾーンが手兵のゲヴァントハウス管で初演しました。そして、この曲はシューベルトの第7番の交響曲と呼ばれるようになり、後年になって楽譜出版社により先に発表されていた規模の小さい第6番の同じハ短調の交響曲と区別するために、「大」ハ長調という意味で「グレイト(The Great))」と名付けられました。
しかしその後、1865年になってシューベルトのもう一つの2つの楽章だけが完成された交響曲が見つかり、「未完成」と名付けられます。書かれた順番からすると、ハ長調の交響曲より先だったのですが、既に「第7番」はあったため、「第8番」の交響曲「未完成」と呼ばれるようになりました。従って、昔小学校の頃?だったか、音楽の授業での習った「未完成」は、個人的にはどうしても8番というイメージが拭えないのですが・・・。
しかし、作曲順で云えば「未完成」の方が早いことから、グレイトの方は7番とする場合も注釈付きで9番と併記されたり、或いは「未完成」の飽くまで後ということを強調する場合は敢えて9番とも呼ばれたりしていました。
しかし最近では本来の完成順で呼ぶ方が主流となっており、有名な「未完成」が7番、この「グレイト」を8番とする方が多い様で、今回のプログラムもそれに倣い8番と表記されていました。

 指揮者として登場の山本裕康さん。いつものチェロ奏者の時は椅子に座っているのが、指揮台に立つと思いの外小柄。
第一楽章、冒頭のホルンのパートソロから始まります。管楽器の中で一番難しいとされるホルンですが、なかなかお見事。
そして、第二楽章冒頭で主旋律をソロで奏でるオーボエ。ハイドンのコンチェルトの時から感じていたのですが、オーボエが活躍するこのグレイトでは柔らかで滑らかな音色のオーボエの旨さが際立っていました。パンフレットのメンバー表では、プロの助っ人であろう賛助会員は今回1stVn、Cl、Tbにそれぞれ1名ずつでしたので、ホルンもオーボエも皆さんオリジナルメンバーでアマチュアなのでしょうけれど、練習の成果とはいえ本当に素晴らしい演奏でした。
松本が“楽都”と呼ばれるのはSKOが松本に来る前からであり、むしろスズキメソードの本拠地であることが本来はその理由ですが、メンバーの中にはメソードの先生方も弦楽パートにおられる様で、生徒さんと思しきお子さん方がたくさんお母さん方と一緒に聞きに来られていました。ですので、弦が玄人はだしなのは当然としても、管楽器群の演奏にも拍手でした。
このシューベルトの「グレイト」は、ベーム指揮SKドレスデン盤のCDを持っているのですが、以前生で一度聴きたくて選んだのが、信州からではマチネでしか日帰りが無理なので、8年前のインバル指揮都響の東京芸術劇場の大ホールで週末に行われているマチネシリーズでした。その時の都響は倍管でしたが、今回は楽譜通りでオリジナルの2管編成。ですので、作曲された当時は室内管での演奏が本来であり、音響の良いこの700席というどこで聴いてもまるでS席の贅沢な音文ホールには相応しい演目なのかもしれません。

 昔、懇意にさせていただいたマエストロ曰く、
『演奏会に向けた練習時間が長く取れ、全員が真摯に集中した時のアマオケの演奏は、ややもするとビジネスライクで無味乾燥的になりかねないプロオケの演奏をも時として凌ぐ。』
昔、マエストロに対して「えっ、アマオケを振られるんですか?」と怪訝/不遜な態度で失礼な質問をした私に、尊敬するマエストロから諭すように穏やかに言われて自分の無知を猛省したことがあるのですが、この日の演奏を聴きながら今回もその言葉を思い出していました。
勿論、それを引き出すのはオーケストラビルダーとしての指揮者の力量だとしても、この日の山本裕康指揮松本室内合奏団の演奏にも大拍手です。
この日はカーテンコールだけでアンコール演奏はありませんでしたが、例え地方都市でも“楽都・松本”の実力に十分納得し、大いに満足出来た演奏会でした。ブラァボ!