カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 四柱神社の参集殿で定期的に落語会が催されていて、先代から続く昔からの縁で、今でも三代目となる古今亭圓菊師匠が来演されている様なのですが、失礼ながら特に好きな師匠でも無かった(現在の古今亭一門で個人的に聞きたいと思うのは、やはり2代目圓菊師匠の弟子である菊之丞や文菊といった兄弟子の師匠方に分があります)ので、今まで行ったことは無かったのですが、今回の「新春初笑い」と称した1月の例会は、私メの大好きな柳家さん喬師匠が来演し二人会とのこと。
・・・となれば、これは行かねばなりますまい。東京の定席だと、トリを務める主任以外の高座では持ち時間が15分と限られるので、大ネタを本寸法で聴くことは出来ませんが、独演会やこうした地方の落語会ならそうした大ネタを聴くことが出来るのです。
当日聴きに行けるか直前まで予定が分からなかったのですが、毎月2週間ほど手伝いに横浜の次女の所行っている家内が松本に戻っていて、この日留守番をしてくれるというので、思い切って行くことにして、前日四柱神社の社務所に行って前売り券(シニア割引で3000円でした)を購入しました。
 当日、開場に合わせて四柱神社へ。会場は境内の参集殿2階の大講堂です。父は四柱神社の総代でしたので、何度も来ていたでしょうし、その縁で娘たちも高校時代、二年参りの時に巫女さんのアルバイトをさせていただいたので、入ったことがあったと思いますが、私メが参集殿に入るのは初めてです。講堂での定員は120名とのことでしたので、いつもの松本落語会の会場となる瑞松寺の倍でしょうか。
やはり年配の方々中心でしたが、午後2時の開演には9割方椅子席が埋まったでしょうか。

 勧進元である宮司さんの開演前の挨拶があり、2003年から、3代目圓菊襲名前の「菊生」名で、真打昇進後隔月で開催しているという落語会で、宮司さんが圓菊師匠の父・2代目古今亭圓菊師匠と知り合い、同神社で落語会を開くようになったのだそうです。その後、古今亭菊生として3代目が真打ちになったのと、この参集殿が完成したタイミングでまた落語会を再会したとのこと。ですので、結構歴史のある落語会でした。

 さて、四柱神社の宮司さんの挨拶後開演で、先ずは開口一番は前座、林家たたみさんの「庭蟹(洒落番頭)」。
続いて、お目当ての柳家さん喬師匠が登壇すると、「待ってました!」と客席から声が掛かり、いつもの師匠らしく、恒例の「・・・ホントかよ!?・・・と思いますね」と呟いて、早速客先を沸かせます。その後時節の挨拶をされてから、これまたお約束の「では、皆さまごきげんよう!」・・・。そして、今回松本に訪れての感想や長野市出身の小さん師匠との思い出など、独演会や今日の様な「二人会」でしか聞けない、ところどころにくすぐりを入れたエピソードに心和みます。
 「あぁ、生のさん喬師匠は本当にイイなぁ・・・。」
と、定席での主任としての大トリや独演会以外では、なかなか聞けない枕を十二分に楽しみます。
ネタも勿論ですが、声を張り上げるでもなく(声は通るのでちゃんと聞こえるのですが)、この何とも言えぬペーソスというか、ぼそぼそと囁くような枕がさん喬師匠の堪らない魅力です。そして、時々ぼそっと散りばめる“毒舌”的な皮肉もイイ。
そして以前BSだったか、師匠が演芸番組で日本舞踊を踊られたことがあったのですが、話しぶりだけではなく、ちょっとした所作にも気品と色気すら感じられるのも、さん喬師匠が日本舞踊藤間流の名取だからなのでしょう。
「文七元結」や「芝浜」、「唐茄子屋政談」、「福禄寿」といった,
“さん喬噺”とさえ謂われる程の人情噺が評判の師匠であり、それは確かにその通りなのですが、しかし滑稽噺も実にイイんです。例えば師匠の「棒鱈」なんてまさに捧腹絶倒モノです。
TVの演芸番組、またCDなどの録音やYouTubeなども含め、これまで色々聞かせて頂いた噺家さんの中で、私のイチオシ、一番好きな噺家がこの柳家さん喬師匠なのです。
そして個人的には、落語界の次期“人間国宝”は絶対にさん喬師匠しかいないと思っているのですが(既に紫綬褒章を受章されています)、小さん、小三治と同じ柳家一門ばかりが人間国宝では、江戸落語のバランスが崩れるということなのでしょうか・・・。
 さて、この日の最初のネタは、そんな滑稽噺の「ちりとてちん」で、大いに客席を沸かせてくれました。
続いて、この四柱神社の落語界の主役という古今亭圓菊師匠が登場。
前置きで、「今日は古典落語の大御所のさん喬師匠なので」と遠慮されて、釣り仲間という創作落語の旗手、三遊亭圓丈師匠から教えてもらったという新作落語「悲しみは埼玉に向けて」の一席で仲入りです。

 仲入り後は、先に圓菊師匠が「やはり古典落語はイイですね」と前置きされて、今度はご自身も古典落語の中から「安兵衛狐」を一席。
そして、この日のトリとしてさん喬師匠が演じられた人情噺は、大ネタ“八五郎出世”の中の「妾馬」でした。
実は、2017年「松本落語501回」に500回記念として柳家権太楼師匠とお二人で来られた何とも贅沢な落語会があったのですが、そこでトリにさん喬師匠が演じられたのが、やはり同じ「妾馬」だったのです。
ですので、せっかくの“さん喬噺”のこの機会に、定評ある人情噺ではあるのですが、同じネタでちょっぴり残念でした。
でも、クラシックの名演は何度聞いても素晴らしい様に、八五郎が妹のとよに言い聞かせる様に語り掛ける場面など、今回の「妾馬」も実に良かった・・・。
新旧の他の噺家でもこの「妾馬」は聞いていますが、生まれた赤ん坊を八五郎が実際に抱いてあやす場面などは師匠が独自に工夫し挿入した場面の様に感じます。分かっていても、途中ホロリとさせられてあっという間にサゲ・・・。
何度聞いてもさん喬師匠の「妾馬」はイイ!
本寸法で滑稽噺と人情噺の二話、“さん喬噺”を楽しませてもらった落語会でした。
【注記】
当日、怒鳴りつけたい程、落語会で不愉快な出来事がありました。
さん喬師匠の高座中、しかも仲入り前後の二話とも、高座中に携帯の呼び出し音が鳴ったのです。しかも信じられない様に、後半のトリの噺の中で、3度も4度も・・・。
前半の時は、開演前にちゃんと注意もあったのにも拘らずでしたので、いくら何でも本人も反省して、仲入りの間に電源を切るかサイレントモードにしたと思ったのですが、あろうことか後半も・・・。
その不逞の輩は80代の御老人。知り合いと思しき隣の男性も小声で注意を促したり、周囲の客も都度睨みつけたりしたのですが、馬耳東風・・・。最後は掛けた相手が何度呼び出しても出ないので諦めたようで、4度くらいで終わった様ですが、それにしても啞然とするばかりでした。
 「いい加減にしろヨっ!」
と、心底怒鳴り付けたくなりました。こんなんじゃ、松本市民の民度が疑われます。
途中、さん喬師匠が酒席での八五郎に「携帯鳴ってるよ!」と噺の中で云わせて、笑いを取りながら気を使って注意までしてくれたのですが・・・。
その老人は、終演後まだ拍手が続く中、そそくさと逃げる様に会場から出て行ってしまったので、誰も注意出来なかったかもしれませんが・・・。
恥ずかしくて、情けなくて・・・こんなんじゃ、もう二度と師匠は松本なんかに来てくれないだろうと思いました。
せっかくの“さん喬噺”を台無しにされ、本当にがっかりして会場を後にしました。
居合わせた客でさえこうなのですから、超売れっ子講談師の神田白山が、先日ある高座での講談途中で観客の携帯電話が鳴ってしまい、このアクシデントに伯山は怒って講談を中断し、10分間近く注意喚起したそうですが、同じ場面に遭遇して、恐らく演者からすれば怒りは客以上だったろうと感じた次第です。