カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
落語にはその季節季節に相応しい噺、いわゆる季節ネタがあります。例えば春なら花見、夏なら花火とか怪談、秋なら秋刀魚でしょうか。そして冬なら雪や正月だったり・・・。
そうした中で、12月の師走に相応しいのは、14日が討ち入りだった忠臣蔵ネタや、噺の中に除夜の鐘が登場する「芝浜」や「文七元結」。特にこの二つの人情噺は、人気の高い大ネタとして、例えば東京の定席の一つ、上野鈴本演芸場では12月に一週間ずつ、日ごと噺家が替わりながら「芝浜」と「文七元結」が大トリとして掛けられています。
因みに昨年末の鈴本では、『年の瀬に芝浜を聴く会』として12月中席で、大好きな柳家さん喬師匠や、他にも春風亭一之輔、そのお師匠でもある春風亭正朝といった各師匠。そして『暮れに鈴本で聴く 文七元結』と銘打った下席では、柳家喬太郎、古今亭菊之丞、柳家三三といった人気の芸達者な各師匠が登場するとのこと(東京に居れば・・・と、羨ましい限りです)。
本来であれば、どのネタを話すかは、高座に上がって客席の様子を見てから決める・・・というのが原則なのですが、この時だけは最初から、トリでどの噺家がこのネタを演じると事前にアナウンスがされているのです。従って、落語ファンにとっては「待ってました!」ともいうべき日でもあります。
本当に、一度で良いので、さん喬師匠の「芝浜」や「文七元結」を生で聴いてみたいと思っています。
その師走、12月の「松本落語会」の第563回例会は、二代目桂小文治師匠が来演とのこと。プロフィールを拝見すると、十八番の中に「芝浜」とあり、家内も横浜の次女の所に手助けに家政婦に行っていて留守でしたので、もしかすればと期待して聴きに行くことにしました。
「松本落語会」は東京から噺家を招いて毎月例会を開催しており、昨年50周年を迎えたという、地方の落語界では屈指の歴史を誇ります。私メも落語に嵌まってから何回か聴きに行っていますが、こんな地方で、しかも常設の寄席がある訳でも無いのに、50年も続いているというのは正直信じられません。しかも、松本は夜の落語会だと、噺家の皆さんは宿泊してもらわざるを得ず、その分余計に費用が嵩むので、いくらチケットに反映するとしても、噺家の方々も翌日まで二日間拘束される訳ですから、そのスケジュール調整を含め招く側としても大変な筈です。これが長野市の北野文芸座なら、新幹線があるので夜終ってからでも東京へ戻れるのですから、売れっ子の噺家呼ぶのは無理だと思えるのですが、500回記念の例会(何故か501回でしたが)には、柳家さん喬師匠と柳家権太楼師匠が“二人会”として来られたのですから、そこは50年という歴史の「松本落語会」を重鎮の各師匠方も重んじられているのだと思えるのです。
さて、12月の例会は、コロナ禍以前に戻って、12月14日に源智の井戸の横に在る瑞松寺で行われました。ただ、マスク着用はまだ継続されています。会場は畳の部屋ですが、60人程の椅子席です。
今回は、「桂小文治独演会」と銘打って、噺家さんだけではなく、珍しくお囃子のお師匠さんも参加されるのですが、それもその筈で桂小文治師匠の奥様で落語芸術協会のお囃子方の第一人者、筆頭である古田尚美師匠とのこと。そして、小文治師匠のお弟子さんで、前座の桂しゅう治さんも同行。
今回はお囃子さんも同行されているので、趣向を凝らして先ずは鳴り物の紹介。例えば、夏の出し物である幽霊が登場する時の三味線や太鼓など。また、一番太鼓や、終了後の追い出し太鼓など。更には、文楽、志ん生といった昭和の大名人や現役落語家の出囃子の紹介もありました。
さて落語では、最初に前座桂しゅう治さんの「浮世床」から。この噺は「湯屋番」の様な滑稽噺で、例えば「寿限無」などに代表される様な前座噺の短編ではありませんが、大学の落研出身らしくメリハリも効いて達者に演じておられました(注:掲載の写真は小文治師匠のH/Pからお借りしました)。
余談ですが、この前座さんで感心したこと。それは落語ではなく、出囃子の太鼓。現役の落語家であれば、前座修行の寄席で何度もやっているでしょうから出来るのは当然としても、前座は本来ネタ増やしで、噺だって色々覚えなくてはいけないでしょうに、文楽や、志ん生、志ん朝といった今は亡き昭和の名人の方々の出囃子までちゃんと叩いていたのには感心しました。
続いて小文治師匠。ちょうど12月例会のこの日が12月14日で「忠臣蔵討ち入り」だったこともあり、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」に引っ掛けて芝居噺である「七段目」が演じられました。芝居の場面では勿論三味線が入ります。そして仲入りです。
「松本落語会」の例会では、仲入りの休憩中に、その日の演者の噺家さんのサイン入り色紙が抽選で配られるのですが、ナント初めて当たって色紙を頂きました。
仲入り後は、この日の例会のトリは残念ながら、「芝浜」ではなく、途中鳴り物が入ることもあり、また冒頭年末の仕事納めのための大掃除が題材になっていることもあってか、「御神酒徳利」でした。
小文治師匠を聴くのは初めてで、師匠プロフィールの十八番の中にあって期待していた「芝浜」は残念ながらこの日は聴けませんでしたが、なかなかの芸達者な師匠で、また今回お囃子方の奥さまが同行されたので、寄席の鳴り物の知識を拡げることが出来ましたし、また地方寄席恒例の録音ではなく、定席の寄席同様に生のお囃子で上がられる高座の雰囲気を楽しむことも出来た、久し振りの瑞松寺での「松本落語会」でした。