カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
7月11日。久しぶりに新宿末広亭に7月中席の高座を聴きに行ってきました。
田舎の松本でも、地方落語としては歴史のある「松本落語会」の月例会や若手二ツ目が演じる四半期毎の「まつぶん寄席」などで生落語を聴くことは出来るのですが、昔ながらの定席の寄席で聴くのは、作秋の初寄席だった末広亭に続きこれで漸く二度目になります。
今回聴きに行くにあたり、上野や浅草など四つある東京の定席で、各7月中席の昼席での落語の出演者をそれぞれ見比べながら選んだのが、今回も同じこの新宿末広亭の中席(毎月11日~20日までの10日間)でした。
「さっき、昼のニュースで今日の東京は36度の猛暑なので、不要不急の外出は避ける様にって云ってましたが・・・。お客さん方、寄席なんかに来るのは、どう考えてもその不要不急の最たるモノ・・・じゃないですかネ!?」とは、まさに仰る通りなのですが、しかし昔ながらの寄席の雰囲気を今に伝える定席唯一の古い木造二階建ての末広亭ですが、館内は涼むにちょうど良い程に冷房がしっかり効いていて、お陰で快適に寄席を楽しむことが出来ました。
先に、末広通りで軽く昼食を済ませてから新宿末広亭へ。通常木戸銭3千円のところ、有難いことに65歳以上はシルバー割引でシニア料金2700円です。昼席は12時開始の16時過ぎの終演ですが、この日もそうでしたが夜席まで入れ替え無しで聴くことが出来る日の方が多いので、休憩を挟んで夜席終了の20時半まで“たったの”2700円で涼みながら過ごせるなら、こんなコスパの良いエンタメは他には無いのではないでしょうか!?(と思うのですが、平日のためか、それとも猛暑のせいか、この日の昼席は結構空きがありました・・・)
前回初めての寄席もこの末広亭で、せっかくの初寄席でしたので高座だけではなく寄席の雰囲気も楽しみたいと上手の畳の桟敷席で聴いたのですが、いくら座布団で胡坐をかいて座っていても、さすがに5時間近くも畳に座っているのは些か苦痛でしたので、今回はゆったりと椅子席で聴くことにしました。
昼の中席は12時開始ですが、既に開口一番の前座話も含め三組目が終わるところで、桂文雀師匠の出番から聴くことが出来ました。この日が初日となる中席昼の部の演目の中で、この日高座に掛けられた落語のネタのみを記します(クラシックコンサートで終演後にロビーに掲示されるアンコール曲の様に、寄席では掛けられたネタが後で発表されることはありませんので、もし違っていたらスイマセン)。
桂文雀 「真田小僧」
柳家三三 「お血脈」
桃月庵白酒 「笊屋(米揚げ笊)」
金原亭生駒 「替わり目」
柳家喬之助 「お花半七(宮戸川の前半)」
柳家権太楼 「無精床(不精床)」
(仲入り)
桃花楼桃花 「子ほめ」
春風亭正朝 「狸の札」
柳家小ゑん *創作落語(天文愛好家らしく七夕の織姫 彦星のネタ)
金原亭馬生 「尿瓶」
定席の落語では、主任を務めると最後のトリとして本寸法ネタを30分演ずることが出来ますが、それ以外だと当日の流れにより多少前後するものの通常15分が持ち時間となりますので、大ネタを掛けるのは無理。従って、本当に好きな噺家をじっくりと聞きたいのであれば、定席での主任を務める席か、或いは独演会に行く必要があるのですが、なかなかそれだけのために上京するのは難しい(イヤ本当に好きな人は、それだけのためであっても通われるのでしょうが・・・)。
(「新宿末広亭」紹介記事からお借りした高座写真)
今回の新宿末広亭の中席の昼の部に出演される噺家の中では、生で初めて聞く芸達者の柳家三三師匠、前回生で初めて聞いた人気の桃月庵白酒師匠、仲入り前に好きな噺家の一人である柳家権太楼師匠、そして人気の女性噺家桃花楼桃花師匠、ベテランの春風亭正朝師匠、そしてトリが十一代目金原亭馬生師匠という顔ぶれです。
この中席を選んだ決め手は、三三師匠、白酒師匠という脂の乗った実力派真打と、私の大好きな噺家である柳家さん喬師匠と一緒に松本落語へも来演されて生で何度か聴いている重鎮権太楼師匠が登場されるから。
柳家三三師匠は、私メが落語に嵌まるきっかけとなった噺家修行を描いたコミック、尾瀬あきら作「どうらく息子」の落語監修を担当された噺家さんです。人間国宝小三治師匠の弟子で、若手だった当時から正統派の古典落語を演ずる芸達者として評判も高く、ずっと生で聴きたいと思っていた噺家の一人でした。今回初めて生で聴いたのですが、しかも「お血脈」という善光寺も登場する初めて聴く泥棒ネタでしたが、イヤさすがに上手い。短めの枕から客席を沸かせます。そして、前回初めて聴いた桃月庵白酒師匠。今回のネタはこれまた初めて聴いた「笊屋(米揚げ笊)」。この噺家さんは声が大きくて張りがあって、それだけでも聴き応えがしますし実際に上手い。
仲入り前に柳家権太楼師匠の「無精床」。師匠が出て来られるだけで雰囲気があり、 “顔芸”ではありませんが、さすがは“爆笑王”と異名を取る権太楼師匠。顔を見ているだけで何だか笑ってしまいます。いつか同門のさん喬師匠と権太楼師匠お二人のそれぞれの滑稽噺と人情噺を二席ずつ、「二人会」で一度聴いてみたいものです。例えば、さん喬師匠の「棒鱈」と「文七元結」、笑い過ぎて、片やホロリとして、どっちも涙が出て来ます。
因みに、上野鈴本の8月下席での夜の部は、二人会ではありませんが、仲入り後に両師匠が交代でトリを務めるということで、そのネタも例えばお盆前の12日が権太楼師匠が「ちりとてちん」、さん喬師匠がトリで「文七元結」。そして18日も同じ順番で「短命」と「芝浜」と、10日間下席で掛けるネタが事前に特別に発表されています。イイなぁ!東京に居ればそうした機会に恵まれるのになぁ・・・(と、寄席に限りませんが、この時ばかりは地方との文化格差を否が応でも認識させられてしまいます)。
さて、仲入り後の中では春風亭正朝師匠。
春風亭一門の柳朝門下で、一朝、小朝と兄弟弟子の正朝師匠ですが、なかなか味がありました。こういう落語、好きだなぁ。また、落語ではありませんが、ロケット団の漫才も毒舌でのスキャンダルなどの風刺ネタを盛り込んで、大いに客席を沸かせていたことを付け加えておきます。
この日のトリは初めて聴くネタ、「尿瓶(しびん)」という古典落語でした。11代目の馬生師匠を聴くのは初めてでしたが、師匠となる10代目金原亭馬生はご存じ志ん生の長男であり、弟が当代随一の売れっ子だった志ん朝。ともすれば地味と言われた10代目の馬生師匠を、弟子であったこの11代目がその大名跡を継いだ理由が素人ながら何となく分かった気がしました。
端正というか、地味ながらも品があって、例えが相応しいかどうかは分かりませんが、昔の“江戸っ子”に通ずるかの様にピンと一本“筋”が通っている感じがします。確かに同じ江戸っ子でも、それは志ん朝の気風の良さでは無く、師匠10代目馬生の粋に通ず。いずれにせよ、馬生という歴史ある名跡を継ぐに相応しい、江戸落語の継承者といった雰囲気でした。
落語は「“見立て”の芸」と云われますが、この「尿瓶」というネタの中で、江戸詰めを終えて肥後に帰る武士が、江戸の土産にと道具屋で直前に古い花器と勘違いして買い求めてしまった尿瓶を、家に帰り試しに花器としてそこに菊の花を生ける時に、花鋏に見立てた扇子を少し開いてから勢い良く閉じて、パチンと音を立ててハサミで菊の茎を切る場面を演じたのですが、それが実に粋でナルホド!という所作・・・お見事でした。
「うーん、さすが!・・・伊達に11代目じゃないなぁ・・・。」
と(誠に失礼ながら・・・)、予定通り16時15分に閉幕。
前座さんたちの「ありがとうございましたぁー!」の声と共に追い出し太鼓が鳴り、幕が下りた後も暫し客席で独り唸っておりました。