カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
7月2日、松本ザ・ハーモニーホール(松本市音楽文化ホール。略称“音文”)でのマチネで、服部百音のヴァイオリン・リサイタルを聴きに行ってきました。
服部百音嬢は曾祖父が服部良一、祖父が服部克久、お父上は服部隆之、お母様もヴァイオリニストという音楽一家に生まれ、幼少期から数々の国外コンクールでの受賞歴がある天才ヴァイオリニスト。しかし、お父上は彼女の留学費用を工面するために、今の様に売れっ子作曲家となる前はお給料の前借をして彼女を支えたと云います。決して、服部家という音楽一家の七光りだけで恵まれて育ったお嬢さまではありません。
彼女の演奏は、「題名のない音楽会」などで聴いたこともありましたが、本格的に聴いたのはYouTubeでパーヴォ・ヤルヴィ指揮のN響公演のチャイコンのソリストとして登場したコンサートを聴いたのが初めてでしょうか。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、LPやCDの“音だけ”ならこれまでも名演と云われた色んな演奏を何度も聴いていますが、映像と音で聴いたチャイコンでこれ程までに圧倒された演奏は初めてでした。
彼女の凄まじい迄の気迫と超絶技巧。それがいくら天才少女とはいえ、演奏当時うら若きまだ21歳という、見るからにか弱い女性の細腕から奏でられているというのが、聴いていて(視ていて)信じられない程に圧倒されたのです。
その彼女が松本の音文でリサイタルをすると知り、ハーモニーメイトの先行販売でチケットを購入した次第。
当日のプログラムは、前半に、C. A. de ベリオ「バレエの情景 Op. 100」、C. フランク「ヴァイオリン・ソナタ イ長調 FWV 8」、休憩を挟んで、後半に、M. de ファリャ「歌劇『はかなき人生』第2幕 より スペイン舞曲 第1番」、I. ストラヴィンスキー「バレエ音楽『妖精の口づけ』より ディヴェルティメント」、そして最後にM. ラヴェル「ツィガーヌ」という構成。
どちらかというと、管弦楽中心で、器楽演奏もピアノは小菅優さんやメジューエワさんが好きなので何度か生で聴いていますが、ヴァイオリンは音文でのヒラリー・ハーンとイザベル・ファウストのリサイタルを聴いたことがあるだけ。しかもその時はバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティ―タ」がメインだったので、どちらもピアノ伴奏無し。今回は、これまでも何度も頼んでいるという三又瑛子女史がピアノ伴奏で、フランクの有名なソナタ(と言っても聞いたことがあるのは第4楽章のみですが)と管弦楽作品でもあるラヴェル「ツィガーヌ」以外は全く馴染みのない曲ばかり。
パンフレットに記載された彼女からのメッセージに由ると、
『今回の演目は、レッスンに来てくれた子供たちの年齢的に、“分かり易くて”楽しめるものとも考えましたが・・・(中略)そんな配慮は愚の骨頂と思い、正直に私の思う素晴らしく美しく魅力ある曲たちを演奏することに決めました。』
とのこと。とはいえ、前日、オーディションで選抜された子供たちとのマスタークラスが行われていて、この日の会場にも才能教育の本拠地らしく小さな子供たちがたくさん来ていましたので、そうしたこともこの日のプログラム選曲の背景に(潜在的には)あったのかもしれません。
2021年のN響との定期での共演は、海外からのソリスト入国が難しかったコロナ禍だった3年前で、彼女の21歳の時。24歳になった今も、桐朋学園のディプロマ在学中という謂わばまだ大学院に在学している“女子大生”です。超絶技巧はそのままに、折れそうなくらい華奢な姿からは想像出来ない様な時に激しさもあり、また彼女のメイク故か、妖艶さすら漂わせての演奏は、例えばフランクのヴァイオリンソナタの有名なあの甘く美しいメロディーの第4楽章の旋律など、特別に貸与されているという名器グァルネリもあってか、とりわけ高音の透明感が実に印象的でした。
アンコールは、管弦楽作品としても有名なプロコフィエフの「3つのオレンジへの恋」から行進曲。
カーテンコールも簡単に、この時ばかりは若い女性らしく最後舞台袖から顔だけ出して、お茶目にバイバイをしながら手を振られてこの日のコンサートを終えられました。