カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 婿殿が病院当直の日、次女が孫を連れて横浜から東京へ来てくれました。
この日も新幹線で横浜から東京に来て、そこから予約してくれていた“母の日のお祝い”でのランチ会場の麻布十番へタクシーで。聞けば、横浜から東京は10数分とはいえ、ぐずり始めたので、席は確保していたものの結局座らずにデッキであやしていたのだとか。
今回の会場が高級店なので「母の日と父の日を纏めてで、お願い!」という前提で、次女が予約してくれてあったのは“ミシュラン一つ星獲得”という中華料理の名店(後で長女が言うには、コンサル時代でも接待でしか使ったことの無い超有名店だそうです)、麻布十番「中国飯店 富麗華」。
しかも孫が居るので、食事中に騒いでも良い様にわざわざ個室を予約済みとのこと(お陰で、孫娘が飽きて時々走り回っても、皆で代わる代わる相手をしながら安心して食べることが出来ました。また、部屋から眺める外の植え込みスペースに御影石をくり抜いた水槽が置いてあって、孫娘が窓越しに中で泳いでいた金魚を眺めて喜んでいて、お陰で飽きずに過ごすことが出来ました)。

個人的には、次女が羽田勤務で糀谷に住んでいた時に、何度か食べに行った羽根つき餃子で有名な蒲田の中華の美味しかったレバニラが忘れられないので、所謂“町中華”でも十分なのですが・・・、本当にオカタジケです。
 「中國飯店 富麗華」、こちらはお店の説明曰く、「伝統の上海料理と洗練された広東料理の融合」した、ミシュラン獲得の中華料理店とのこと。
もしかすると嫌味に聞こえてしまうかもしれませんが決して自慢では無く、我が家はシンガポールで本当に美味しい中華料理(実際は「中華料理」というジャンルは現地にはなく、広東料理、四川料理と呼ぶ様に、上海、北京を加えた中国四大料理、更には日本ではあまり見掛けませんが、東南アジアへ多く移民した中国人の故郷の福建料理や潮州料理、他にも台湾料理と、それぞれが確立された個別の料理ジャンルです)を食べて来ているので、他にも現地で家族で良く食べたタイやベトナムのアジア料理と中華料理、そして私メの好きな北インド料理に関しては、或る意味不幸なこと(例えば、昔テレ東のグルメ選手権番組で優勝したという松本の評判の良い中華店も現地の味とは比べ物にならず、二度と行きません)に、かなり舌が肥えてしまっています。特に幼少期に本場でそれらを食べて来た娘たちは、それまでそんな料理を食べたことも無かった私たちよりも、その影響は更に顕著かもしれません。
そうかと言って、現地で高級店ばかりで食べていた訳では全くありません。例えば中華では、住んでいたコンドミニアムの近くのニュートン・サーカスに在ったホーカーセンター(屋台街)から蟹、肉、野菜の炒めモノとチャーハンなど毎回4~5品をテイクアウトして来て、家で食べることが多かったのですが、その屋台の店は本当にどれも美味しくてホテルの一流レストランにも決して負けない味でした。
余談ですが、因みにその屋台は40代くらいの中国人男性が一人で切り盛りしていましたが、ちゃんと英語でも注文OK。
しかし、「観光客相手のニュートンのホーカーは二重価格だから気をつけろ!」という噂だったので、初めて買いに行った時に中国語のメニューも見たいと言ったら、「大丈夫、値段は一緒だよ!」と笑いながら見せてくれましたっけ・・・。記憶不確かながら、「〇東記」という風な店名だった様な・・・。あれだけの味でしたので、もしかするとシンガポールのどこかで自身の独立店を構えて、有名レストランになっているかもしれません。
 さて、「富麗華」のランチのコース料理は6千円台から4万円台まである様ですが、個室利用の場合はランチでの一人当たりの最低額が飲み物代を含まず一人1200円と決まっていて、もしそれ以下だった場合は差額がチャージされるとのこと。従って、その金額を超える様に頼んだ方が得策です。
そこで我々のチョイスは、コース料理ではなく食べたいものだけを一品料理のメニューの中から選ぶことにしました。
先ずは、前菜代わりにシンガポールでも定番だったカンコン(空心菜)、トウミャオ(豆菜)のそれぞれオイスターソース炒めとガーリック炒め。そしてランチなので、点心で海老蒸し餃子と店の名物という小籠包に懐かしいチャーシュー包も。
スープは(さすがに現地の様な姿煮は無理ですが)フカヒレと衣笠茸のスープ。更にメインディッシュ風に、「富麗華」の名物(どのコース料理にも必ず入っていました)という北京ダック(半身+1/4身)、それとシンガポールで住んでいたコンドミニアムの近くに在ったニュートン・ホーカーセンターの屋台からチリクラブなどと一緒にテイクアウトして良く食べていたビーフの黒コショウ炒め。そして最後の〆として、ネギの汁蕎麦。デザートには、これまた懐かしいゴマ団子とマンゴプディング・・・という選択です。
本当はシンガポールでは広東料理のコースの定番だったガルーパ(ハタの一種)の「清蒸石班」もメニューにはあったのですが、値段が「時価」だったので怖くて諦めました。
(この魚料理は、ガルーパの淡白な白身も勿論美味なのですが、この汁を掛けて食べる“猫マンマ”がとにかく絶品!・・・でした)
 サーブ順をお願いした通り、先ずは野菜料理から。
こちらでは、シンガポールの様に大皿で運ばれて来てその場で取り分けるのではなく、最初から各人向けに小皿に盛られて出て来ます。そのため最初の分量が掴めないのが視覚的(目でも食べる)には少々残念でした。
特に北京ダックは、シンガポールだとその場でローストされたダックをスタッフがナイフで薄皮に削って大皿に盛って行き、その後、各人が自分で薄皮にダックの皮と細切りにされたネギとキュウリを載せて、そこに甘目のタレを付けてクルクル巻いて食べるのですが、こちらでは一応オーダーしたダックをお皿に載せて客人に見せてからまた厨房に持ち帰り、全て調理して食べるばかりにしてからサーブしてくれます。
味は変わらずとも目でも味わうという意味では、目の前で薄皮を削る(肉を付けて厚く削る方が楽ですが、パリパリする食感を楽しむために、皮だけを如何に薄く削るかもその店の腕の見せ処)パフォーマンスや、手慣れたスタッフの方に比べれば些か不格好ではあっても、自分で包むという楽しみ(面倒に感じる人もいるかもしれませんが)が感じられずに勿体無いなぁ・・・と感じた次第。勿論、味はさすが!ではありましたが・・・。因みに、シンガポールでは北京ダックの肉をどうするかを客に聞いてくれるので、焼きそばの具にしてもらってコースの締めに焼きそば(炒麺)で食べていました(勿論、お好みで炒飯にしてもらうことも可能でした)。そうでないと勿体無い!炒麺の場合、具は勿論北京ダックの身(肉)だけではなく、黄ニラと組み合わせる店が多かった様に記憶しています。
 さて、話は前後しますが、野菜はどれも優しい味付け(但し味付けは、現地に比べると日本人向けでしたが・・・)。海老蒸し餃子もプッリプリ!小籠包も皮が破れずスープもたっぷりで、次女は今まで食べた小籠包の中では最高!と絶賛していました。
フカヒレがたっぷり入ったスープも、決してスープの主張が尖らずに優しい味。懐かしいビーフの黒コショウ炒めも、さすがは和牛の柔らかさ。
ニュートン・ホーカーセンターの屋台からテイクアウト(最初の頃、一度ホーカーセンターでも食べたのですが、オープンエアの蚊に皆閉口し、以来屋台で食べるのは拒否されました)していたあの味を思い出しました。
〆のデザートまで含めて、シンガポールを思い出すようなどれも本格的な味でした(但し、当時のシンガポールの中華のレストランでは、広東料理の本場香港からシェフを招聘していることを自慢している店や、香港の有名店のシンガポール店もありましたので、その意味で確かに“食は広州に在り”なのかもしれません)。
 少なくとも信州の中華料理店では食べられない本格中華。と云うのも、地元松本にも、例えば嘗て池波正太郎が絶賛した中華料理店の味を引き継いだ人気店などもあるのですが、残念ながらどこも日本人向けにアレンジされた味付けになってしまっています。
ただ、嘗て自宅から近い深志高校裏(というバス停のすぐ近く)に在り、松本で唯一現地の味に近くて家族皆が大好きだった「チャイナ・スパイス」(香港へ赴任経験のある会社の同僚たちも、“同窓会”として現地の味を懐かしんで、わざわざ諏訪や塩尻からも食べに来ていました)という中国人のご夫婦が営む薬膳中華の店があったのですが、残念ながら閉店してしまいました(その後再開した店も再度移転して、現在は春巻きと中華おこわ二品だけでのテイクアウト専門店とのこと)。
ですので、コース風に本格的な中華料理を食べるのは、もしかするとシンガポール以来なのかもしれません。しかしそのシンガポールでは、さすがに点心(飲茶)だけは庶民的な大衆店もある香港とは異なり、当時はグッドウッドパークなどのホテルの一流レストランでないと食べられませんでしたが、中華のコース料理ではなく一品料理であれば、必ずしも当時一番人気だった広東料理のレイガーデンやシャンパレスの様な高級店でなくても、所謂“ピンキリ”での選択肢があって、さすがに干しアワビやフカヒレなどの高級食材の入るコース料理は無理でも、“この料理に限れば”・・・ですが、現地のホーカーの屋台でも食べることが出来た本場の味でした。
しかしそんな現地の味は、日本ではやはり値段次第でしか味わうことが出来ないのかもしれません。
次女曰く、「予算上、今年は“母の日+父の日=富麗華”でご勘弁」とのことですが、結果、支払い額は個室利用の最低限度額×人数分を軽く(遥かに)超えたらしいのです・・・。

 おかげで、三人して皆口々に、「こんな本格的で美味しい中華、本当にシンガポール以来だったね!」。
味は勿論ですが、スタッフの皆さん(主に我々を担当してくれたのは、若い中国人の笑顔が優しい男性スタッフでした)のサービス、接遇や応対も、入店した時から店を出るまで、さすがは“ミシュラン”獲得店でした。
いくら“母の日+父の日”とはいえ、本当にオカタジケで恐縮至極。ごちそうさまでした。