カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
いくら東京滞在とはいえ我々は年金生活者ですし、娘のマンションにはキッチン設備がありますから、滞在中は出来るだけ自分たちで調理して、せめてテイクアウトして食べる(お酒も外で飲むと高いので)くらいにして、せいぜい外食はお得なランチタイム中心で済ませることにしました。
しかし、そうは言ってもせっかくの“美食の街”東京ですから、夕食も含めて何度かは食べに行ったのですが、外食で二人で食べたのは結果的に全てエスニック中心で、しかもAsian Food ばかり(日本食も一応アジアですので・・・)でした(“食の都”シンガポールへの赴任経験が、そこで幼少期を過ごした娘たちも含め、我が家の“食の世界”を拡げてくれました)。
私たちがシンガポールへ赴任したのはちょうど次女が生まれた年でしたが、7年間シンガポール生活を経験した我々家族にとって本当に嬉しいことに、帰任した当時は日本では名前すら存在しなかったシンガポールのローカルフードが、Asian Foodで云えばインド、タイやベトナムと同じ様に、ここ15年くらいの間に“シンガポール料理”という名称で一つの料理ジャンルとして認識され、東京では随分それを名乗る店が増えました。ただタイ料理の様に、信州の様な地方でも食べることが出来る程にはまだポピュラーでは無いので、地方在住者である我々夫婦は上京した時に“シンガポール料理”を楽しむしかありません。
そこで、今回のAsian Foodの先ず一回目は、どこか近間で夕食をと、マンションから程近い麻布台から六本木に向かう道路沿い、六本木の飯倉片町の小さなビルの二階に在る「オリエンタルカフェ&レストラン」というシンガポール料理店です。
この「オリエンタルカフェ」という店は割と新しいお店の様ですが、家内と娘たちは前に行ったことがあるそうで、シンガポール出身のご家族が営むレストランとのこと。
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それだったらと、私メもビールのつまみ用にグリーンチリもと頼んだのですが、説明してもスタッフの皆さんにはなかなか理解されず・・・。暫くすると、奥さんが漸く「アッ、ワカッタヨー!」と言って持って来てくれました。そう、コレコレ!青唐辛子の酢漬けです。このグリーンチリに限らず、オープンエアの屋台やシーフードセンターで汗を拭きながら食べるチリクラブなどの辛い料理が、赤道直下のシンガポールの暑さを忘れさせてくれるのでした。
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残念ながら、日本人の舌に合わせようと工夫すると、逆に現地の味からはどうしても離れてしまいます。日本人向けのエスニック料理としては(日本人のお客さんに食べてもらうためには)これはこれで良いのかもしれませんが・・・。でも、神谷町と比べこの界隈にはレストランが少ないので(麻布台ヒルズが今秋オープンすれば変わるかもしれませんが)、その後三組ほど会社帰りの皆さんが来られたので結構繁盛しているのかもしれません。
でも、「オリエンタルカフェ」の一生懸命工夫して少しアレンジされたシンガポール料理に何だか逆に不満が高じ、どうしても本来の“現地の味”が食べたくなって、私メの今までの記憶の中で一番それに近かった田町の『威南記(ウィー・ナム・キー)』へ、後日ウォーキングがてら麻布台から三田経由で歩いてランチに行くことにしました。
この「ウィー・ナム・キー」は、シンガポールでチキンライスでは今一番の人気店とのこと。1989年に家族経営の小さな店として誕生したそうですが、1987年から7年間赴任していた間には一度も耳にしたことはありませんでしたが、その評判を聞いて7年前に一度次女と三人で食べに行っていました。
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従って、家族で行く時には屋台はちょっと無理なので、専ら「チャターボックス」一択でした。
その後、次女が航空会社に勤めていた時にファミリーチケットで家内と次女が二人でシンガポールに行って、その時にやはりチキンライスが懐かしくてチャターボックスに食べに行ったら、一階から上の階に格上げされ、フロア同様値段も当時より更に上がっていてビックリしたとか。但し、逆に味は昔よりも落ちていて、後で聞いて知ったのは、当時のシェフが独立してしまい、違う料理人に代わったからの由。
当時の赴任先の会社のオフィスがラッフルズ・プレイスのOUBセンターに在ったのですが、その地階の地下鉄MRTの駅に続くショッピングセンターに唯一の「チャターボックス」の支店があり、通常のランチタイムは順番待ちの人気で混むので避けていましたが、会社が半ドンとなる土曜日の午後はオフィス街が閑散となるため空いていたので、午後もオフィスで残業する日本人赴任者だけで土曜日のランチには必ず「チャターボックス」に食べに行きました。名物のチキンライスもですが、日本のカレーライスの様にタイ米のご飯の上に掛けて盛られたチキンカリーもお薦めで、骨付きモモ肉がホロホロで絶品でした(思い出すと、また食べたくなります)。
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12時前だったので、まだそれ程混んではいなくてすぐに座れ、天気も良かったので我々はテラス席をチョイス。ただランチタイムが始まると、あっという間に満席になりました。
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そういえば、わが国で唯一のシンガポール政府公認という「シンガポール・シーフード・リパブリック」というシンガポール料理のレストランが品川に出来たと聞いて、15年ほど前、家族全員でシンガポールを懐かしんで食べに行ったのですが、シンガポールから空輸しているという蟹(マッド・クラブ)がグラム単位の量り売りされていたのにはビックリ。せっかくなので、現地を懐かしんで一応ブラックペッパーなどを食べましたが、現地ではチリクラブなどはホーカーセンターでも食べることが出来ましたから決してそんな高級料理ではありません。
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シンガポールの定番、タイガービール。シンガポールには他にアンカービルというのもあって、こちらがラガーでタイガーはモルトビールだった筈。日本で飲めるのはシンガポール料理店だけですが、イヤ懐かしい!
当時、モルト100%ビールの美味しさに嵌まっていて、レストランでは地元のタイガービールでしたが、日系デパートのそごうで月一くらいだったか日本のビールが安く買える日があって、その時だけ買っていたのがサントリー・モルツ(“やってみなはれ”と、「純生」での事業参入当初、店頭販売で自ら先頭に立ったという佐治敬三社長悲願のビール事業。敬三氏亡き後も“苦節40数年”、漸く黒字化の“立役者”となった“プレモル”誕生の萌芽となったオールモルトビール)とサッポロのエビス(我が国のオールモルトビールの先駆者)。
そう云えば、現地のインターナショナルスクールに通っていた娘たちの誕生パーティーのBBQ(私メは専ら肉やソーセージを焼く役でしたが)で、ドイツ人のお母さんから「日本にもこんなに美味しいビールがあるんですか!」と絶賛されたのがエビスビールでした。
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ただ、固めに茹でられた極細麺(ドライミー)と少し甘目のタレ。そうです、この食感、この味です。この麺でワンタンミーやフィッシュボールヌードルも食べたいなぁ・・・。現地なら当時2~3ドルで食べられた様な・・・。帰国後のシンガポール出張で、帰国便搭乗前にチャンギ空港のフードコートでフィッシュボールヌードルを食べたのですが、安くて美味しくて、一緒だったメンバーにとても喜ばれました。
勿論北京ダックやフカヒレなどがウリの高級チャイニーズレストランもありますが、北京ダックは北京料理ですし、フカヒレは広東料理であって、“シンガポール料理”ではありません。また、中華風に調理されるチリクラブやブラックペッパークラブ、更には生きた海老を紹興酒で酔わせてから蒸すDrunken Prawn(要するに「エビの酒蒸し」。もし日本語メニューがあると直訳で「酔っ払いエビ」と書かれていました) などは如何にも南国シンガポールらしい料理なのですが、“シンガポール料理”とは呼ばれてはおらず、単にSea Food と言われていました。
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ホッケンミー、チャー・クイ・ティアオ、フィッシュボール、ワンタンミーも本当に美味しかったのですが、日本ではポピュラーでは無い様で、まだ東京の“シンガポール料理”店で見掛けません。他にも、プラウンミーや熱々のクレイポット(土鍋料理)、そして屋台でしか食べられなかったオイスターオムレツもお薦めです。
中にはペーパーチキン(正しくは、というかメニューの英語表記はPaper Rapped Chicken)も今では外国人の間でもかなり有名になったらしく、日本でもその中に含めて紹介する旅行記事がありますが、これは嘗てポール・ボキューズが絶賛したという「ヒルマン」とその姉妹店「マンヒル」オリジナルの名物料理(他店ではメニューで見掛けたことはありません)で、もし他で真似していても他店のモノはホンモノではありません。
当時、会社で借りていた港の倉庫の近くに「マンヒル」があって、定期的なStock Check (棚卸)作業の後、ローカルのスタッフが連れて行ってくれて皆で食べて感激し、以降毎回作業後には「マンヒル」でPaper Rapped Chickenやクレイポットなどを食べるのが楽しみになりました。エアコンも無い庶民的な店でしたが、壁にはコック姿のポール・ボキューズのサイン入りのポスターが誇らし気に飾ってありました。しかし、当時は我々以外の日本人客は一度も見たことはありませんでした。因みに本店の「ヒルマン」にも赴任中に一二度ローカルのスタッフと一緒に行ったことがありますが、その時の我々以外の日本人客はJALのクルーの皆さんで、さすがは“現地通”と感心した次第。
クーラーも無いオープンエアのホーカーセンターなどの屋台で食べる、安くて美味しいローカルフードこそが本来の“シンガポール料理”の特徴なのです。
もしこうした現地のローカルフードが日本でも(安く)食べられるようになったら、その時が本当に“シンガポール料理”というジャンルが日本でも定着したと言えるのかもしれません。
それまでは、ここ「ウィー・キム・キー」でこのミー(麺)を食べて、現地の味を思い出すしかなさそうです・・・。