カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
今回の京都滞在中も、以前“京都グルメ”通の長女に家内が連れて行ってもらったという先斗町の人気のおばんざいの居酒屋とか、滞在した岡崎に在る老舗の和食店とかにも行ったのですが、今回一番の“京都グルメ”だと感じたのは、ランチで行った奥さま念願の「半兵衛麩」でした。
この「半兵衛麩」は元禄2年(1689年)に初代玉置半兵衛が宮中で覚えた技で麸屋を始めたという麩と湯葉の専門店で、創業330年とか。
因みに元禄時代は第5代将軍“犬公方”綱吉の頃で、“忠臣蔵”の討ち入りが元禄の15年です。
京都では「この前の戦争というと応仁の乱を指す」という、まことしやかな“都市伝説”があり、「たったの100年じゃ京都では老舗とは言えない」そうですが、そんな京都でも流石にこの「半兵衛麩」は間違いなく老舗でしょう。
「半兵衛麩 本店」は鴨川に架かる五条大橋の東南側(住所は東山区問屋町通五条下る) にある近代的なビル。そこの3階にカフェ「ふふふあん」(英語表記が“ Fu Fu Fu and ”とか、なかなか粋ですね)もあって、半兵衛麸の生麸と生湯葉を一緒に食べられるあんかけご飯などがランチで人気なのだそうですが、予約は取らず先着順とのこと。またこちらはカジュアルに生麩をや湯葉を現代風にアレンジして、その利用を広めることが狙いの由。
奥さま的には、「半兵衛麩」でしか食べられない伝統的な生麩料理が食べたいとのこと。そのため、カジュアルな「ふふふあん」ではなく、京町家をリノベーションしたという「茶房」でランチの予約のみ、しかもメニュー一種類という、生麩と湯葉のコース料理の「むし養い」がどうしても食べたいとの仰せ。
「半兵衛麩」のH/Pに由ると、「むし養い」とは京言葉で、「お腹の虫を養う軽い食事」とのこと。そのため奥さまは、数週間前にその「むし養い」をちゃんと予約してありました。
京都名物の生麩を、以前娘が京都からのお土産に買って来てくれて、家での夕食時に一品として、生麩を切って炙り、柚子味噌や自家製の山椒味噌があったので味噌田楽にしていただきましたが、もっちりと柔らかく、弾力のある食感で美味しかった記憶があります。特に女性陣には好評でした。また作る側としても、豆腐田楽の様に“水切り”をしなくても良いので楽でした。
「半兵衛麩」本店ビルは、一階に生麩や湯葉の販売店舗、二階はギャラリー、そして三階にカフェ「ふふあん」があるのですが、「むし養い」を戴く茶房は本店ビルの南隣にあり、築120年という京町家の玄関を潜って二階に上がり、元々店舗として使用していた建物をリノベーションして、昨年茶房としてリニューアルしたのだとか。こちらはランチのみの営業です。
幾つか区切られた趣のある部屋で数組ずつ、ランチ限定の「むし養い」(税込み 4,400円/人)として、懐石料理のコースの様な「京麸・京ゆばづくしの料理」を頂きます。「むし養い」というのは、京都で云う“お腹の虫を養う軽い食事”で「おなかが空いた時に、軽く戴くもの」。
雅な“みやこ”と田舎の信州を比べては失礼かもしれませんが、云わば信州で云う“おこひる”でしょうか。信州では、子供の頃に稲刈りやリンゴ取りなどの一家総出の農作業での休憩時に食べた間食を信州(少なくとも松本地方)の方言で“お小昼”(おこひる)と云いますが、農作業は肉体労働ですから、農家の定番の煮物や漬物、菓子類や時にお焼きなど、一般的な“おやつ”よりも品数も多くヘビーなイメージで、子供の頃に田んぼやリンゴ園で食べた記憶があります。
その懐石料理風の「むし養い」のコース内容。
店舗で販売するだけではなく、「生麩と湯葉料理の奥深さを知ってもらうために」と、一品一品が十二分に吟味された上で「茶房」で提供される様になって35年間。今でもその料理内容は殆ど変わっていないのだそうです。
最初に先附として、お盆の左側に、生麩のしぐれ煮、たっぷりのすりゴマが掛かった焼き麩とキュウリの酢の物、ゆば豆腐。その右側の笹の葉が敷かれた漆器の中に、左から時計回りに生麩の三色の田楽、漬物、ご飯、山椒の味つけの生麩、利久坊、光琳梅、花麩饅頭とのこと。
京都ならではの精進料理にも似て、生麩のしぐれ煮は、まるで佃煮の浅利のしぐれ煮の様ですし、酢の物も味付けが素晴らしい。ご飯のお供にぴったりです。
続いて、汲み上げ湯葉。更に箸休めで、揚げ煎餅の様なゆばの唐揚げの後、生麩と湯葉のみぞれのお椀。そして、よもぎ麩の白味噌仕立。この白味噌仕立が如何にも京都風で、家内は気に入ったそうですが私にはちょっと甘いかな。
最後に、甘味と水菓子として、麩チョコ3種(撮り忘れて写真無し)と京都の水尾名産という柚子を使ったゼリーまで。
麩と湯葉だけでここまで色々多彩な料理になるとは驚きです。「むし養い」という“お小昼”で、しかもランチとしては結構な値段ですが、その満足感は正に“お値段以上”と云っても全く過言ではありませんでした。しかも、心ばかりかお腹も一杯で、イヤ、びっくり。信州の“お小昼”以上のボリュームでした。これも “いけず”と云われる京都流の謙遜なのでしょうか?
本店のカフェの、生麩と湯葉の活用性を拡げるためにと現代風にアレンジされたカジュアルなランチも良いのでしょうが、事前予約のみの「むし養い」は、確かに一見(一食?)の価値あり!
むしろ、「今度京都に来たら、また食べに来よう!」と思わせてくれる、そんな逸品でした。しかも、使われている器も、そして室内を始め館内至る所に置かれた調度品や美術品も歴史と共にそれぞれ味わいがあり、創業三百年を超える老舗の趣が自然と感じられるのです。さすがは京都、奥が深い・・・。
余談ですが、奥さまのOKを得て、ランチに瓶のビールを戴いたのですが、驚いたのはその瓶ビール袴(瓶を入れる漆器)に椿の葉が一枚置かれていたこと。これは瓶を袴に戻す際にカタンという音がしない様に、クッション代わりに敷いているのでしょう。しかもそれがツバキの葉とは・・・。この “単なる葉っぱ”一枚が如何にも京都の老舗らしく、何とも粋で風流な感じがしました。
仲居さんに見送られ茶房を後にして、本店の一階の売り場へ戻り、家内がお世話になった方へのお返しにお送りすべく生麩のセットを注文。併せて、「むし養い」の中での生麩のしぐれ煮、たっぷりのすりゴマが掛かった焼き麩とキュウリの酢の物が美味しかったので、自分たちのお土産にと売り場を探したのですが、しぐれ煮があり日持ちもしそうだったので、三種類あった中から、コースに出たのと同じ生姜味を買って帰りました。
岡崎へ帰る途中、鴨川の川端通りの五条と四条の中間位の所に「ゑびす神社」があるので参拝。京都ゑびす神社は「京のえべっさん」の名で親しまれる「日本三大えびす」の一つ。私は学生時代も含め初めてでしたが、家内は以前長女と一緒にお参りしたことがあるのだとか。決して大きくはなく、京都の花街の中にひっそりと鎮座し、商売繁盛、家運隆盛、旅行安全のご利益で信仰されています。私たちも娘や婿さんたちのビジネスや仕事の成功などをお祈りしました。
そして、境内の二の鳥居を見上げると、ゑびす様の顔と福箕があります。この福箕にお賽銭を投げ入れる事が出来れば願いが叶うと言われているそうなのでトライ。自分と、ちっとも入りそうもない家内の分も合わせて、二枚の硬貨をそれぞれ二回目と六回目の“試技”で、何とか無事に福箕の中にちゃんと載せることが出来ました。
「ヤッタね!!皆にイイことがあります様に!」
「今度来た時に、また半兵衛麩が食べられます様に!」
「ん?・・・」
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