カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 仮にブルーボトルコーヒーを新しいカフェの代表格とすれば、片や昔ながらの昭和レトロの喫茶店という意味では、京都には古き良き喫茶店がたくさんあります。
多分それは、伝統をしっかりと守りながら一方では新しもの好きの京都人にとって・・・という意味で、大正ロマンの頃から町衆の旦那さんが近所の“純喫茶”で朝その日の新聞を読みながらコーヒーを飲んだり、戦後はお金の無い大学生が100円玉数個を持って名曲喫茶やジャズ喫茶に入り浸ったり・・・といった喫茶店文化がこの街には良く似合ったからではないでしょうか。

 個人的には、40数年前の京都での学生時代、時々行ったのは出町柳に在った名曲喫茶でした。下宿のジャズ好きの先輩からジャズの良さをいくら説かれても(曰く、「クラシックは誰が弾いても同じメロディーだが、ジャズはアドリブが命。即興性こそ、そのミュージシャンのCreativityであり、個性である云々・・・」)、当時はまだジャズが理解出来ずにクラシックばかりを聞いていました。年を取ってからスタンダードから始め、漸くジャズも聞くようになりました。
それ故に、学生時代に名前は知りながら一度も入ったことの無かった河原町の荒神口のジャズ喫茶「シアンクレール」。女性の顔を描いたマッチだけは、何故か記憶に残っています。当時のどの喫茶店もタバコの煙が当たり前で、もしかすると特にジャズ喫茶の店内は紫煙に煙っていたのかもしれません。その京都のジャズ喫茶の代表格が「シアンクレール」であり、高野悦子著「二十歳の原点」にも登場する、或る意味伝説のジャズ喫茶なのですが、前回京都に来て下賀茂神社に参拝した帰りだったか、懐かしくて河原町を丸太町まで歩いた時に、当時ブルマンブレンドのコーヒー豆が格安で買えた「出町輸入食品」はあった(随分店舗が大きくなっていました)のですが、立命館の広小路学舎が既に無いのは当然としても、外観が赤レンガ造りだった記憶のある荒神口の「シアンクレール」もその時は見つけられませんでした。そこで今回もし行けたらと思って調べてみると、残念ながら90年代には既に閉店してしまったとのことでした。(下は偶然日経9月5日文化欄に掲載の「二十歳の原点」に関する記事)

 数ある京都の古い喫茶店の中で、今回行ったのは二条城近くの押小路通に在る「喫茶マドラグ」でした。ここは私メではなく、奥さまたっての希望。というのも、京都名物の“玉子サンド”の有名店で、事前に予約して当初は長女と一緒に行く筈だったのが、娘はオンラインミーティングが入ってしまい行けなくなったため、予約済みなのでどうしても一緒に行って欲しいとのこと。そこで本来はその時間に一人でラーメン店に行く筈だったのを、泣く泣く諦めて同行することにしました。
ただ「マドラグ」そのものは古くからの店ではなく、元々は同じ場所で半世紀以上営業していた「喫茶セブン」から、今のオーナー夫妻が建物をそのまま引き継ぎ2011年にオープンした店で、2012年に高齢により止む無く閉店した洋食店「コロナ」の店主が「喫茶セブンの味を受け継いでいる方に是非お願いしたい」と、当時御年98歳だったご主人自ら店を訪ね、玉子サンドの作り方を伝授したのだそうです。
 開店時間の11:30前に既に5組ほど並んでいて、予約順に名前を呼ばれ入店。我々が最終組でした。並ばれていた中で、予約の無いお客さんは次に回である1時間後12:30の予約をされて戻って行かれました。
店内は経営を引き継いだ昔の喫茶店の内装を活かした、昭和レトロな雰囲気。お店のスタッフも若くてハキハキしていて親しみ易く、大変気持ちの良い雰囲気です。
皆さんも名物の玉子サンドを事前に予約済みの様で、既に調理された湯気の立った出来立ての玉子サンドが次々と運ばれて行きます。
その名物の玉子サンドは、卵4個と牛乳をたっぷりと使ってふっくら蒸し焼きにしたという、甘くは無い京都らしいだし巻き卵風ですが、驚くべきはその厚さ。この厚さがたった4個の卵で作れるとは信じられません。一人前4切れですが、一切れに4個使ったと云われても信じてしまう程の厚さで、一人では食べきれない程のボリュームです。挟む食パンもしっとりと滑らかで、片側がコクのあるデミグラスソースに、反対側はマスタードソースが塗られていて味の変化が楽しめます。
この厚さを一体どうやって食べるのか?と悩むところですが、各テーブルに食べ方を説明した如何にも昭和レトロな古びたパネルが置いてあり、尖った部分から徐々に食べるか、ナイフで半分に切って食べるのがおススメとか。
ラーメンを諦めての昼食に二人で一人前の玉子サンドだけではと思い、鉄板ナポリタンも追加したのですが、これが(年寄り夫婦にとっては)間違いの元でした。こちらのナポリタンもそのボリュームたるや、普通の店の少なくとも倍以上はあります。しかも、熱い鉄板プレートに卵焼きが敷かれ、その上にアルデンテ気味の細麺がしっかりとケチャップで味付けされていて、間違いなくこれぞナポリタン!という感じ。
これで、玉子サンドが830円、鉄板ナポリタンが940円というのですから、そのコスパもハンパありません。
個人的には、玉子サンドはともかく、自分で頼んだナポリタンは残さぬ様に何とか食べ切ろうと思ったのですが、山になったスパゲッティー(決してパスタではない、これぞ昭和のスパゲッティー!)食べても食べてもなかなか減らず、最後1/3程残したところで遂にギブアップ。若いスタッフに謝ると、持ち帰れるとのことで、同じく残っていた玉子サンドの一切れとナポリタンをそれぞれ容器に入れてもらって持ち帰ることにしました。
名物の玉子サンドを食べきれずか、或いは敢えて記念にか、残して持ち帰るお客さんが多いのか、持ち手の付いた厚紙製の専用の容器が用意されている様で、我々には一切れ用の紙パックに入れてくれました。因みに、ナポリタンはスーパーのお惣菜売り場にある様な、普通のプラ製容器でした。
尚、途中何組かお客さんが来られましたが、玉子サンドの調理に時間が必要なのか1時間毎に予約を入れる様で、12:30が無理な場合は諦めて帰られていきましたので、名物の玉子サンドを食べたい場合は出来るだけ事前予約するのがおススメの様です。もしくは、行って予約した上ですぐ近くの二条城を見学して来るか・・・。
 余談ですが、この喫茶「マドラグ」の近くに、金色の鳥居など黄金色に飾られた「御金神社」があるそうで、我が家に一番縁の無いモノなので、せっかくですからお参りしていくことにしました。
「御金神社」は街中のビルの間に佇む様な小さな神社で、金色の鳥居が目印。鈴緒も金色で、周囲の迷惑にならぬ様に鈴は金色の袋で覆われて音は出ない様になっています。
祭神は、金属の神様である金山毘古命(かなやまひこのみこと)をお祀りしていることから、お金の神様として親しまれるようになり、今では金運アップを願って多くの参拝者が訪れるのだそうです。
境内も狭い小さな神社ですが、この日も6人程お参りに来られていました。元々は個人の屋敷内に在った邸内社として建てられ、祀られていたのが、金属にゆかりのある祭神ということで参拝を願う人々が絶えなかっため、明治16年に現在地に移転して現在の社殿が建立されたのだそうです。その後も金運を願う人が参拝に訪れ、本殿裏のご神木であるイチョウ型の絵馬がたくさん奉納されていました。