カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 トレーニングも兼ねて、これまでも天気さえ良ければほぼ毎週末に行って来た、自宅から松本の市街地への早朝ウォーキング。

自宅から坂を下り、深志高校から中央図書館経由で松本城公園を通って四柱神社へ参拝。そこから中町を横切り、最後は天神さんの深志神社までの片道4㎞程のコースですが、高台の沢村からは行きはずっと下り坂で、帰りはずっと上り坂です。たまに朝早い時は、松本駅周辺でモーニングセットを食べることもあり、また時間によっては駅周辺でランチを(時には高校生諸君に交じってハンバーガーを)食べてから戻ることもあります。
このルートは、“文武両宝”というキャッチフレーズの旧開智学校と松本城の二つの国宝を見ながらの、更には四季折々の北アルプスの峰々を眺めつつ、春の桜や秋の紅葉などを愛でる“北アルプスの城下町”松本ならではの贅沢なウォーキングコースでもあります。
 松本市民のそんな“贅沢”なコースの、更なる贅沢が「平成の名水百選」に選ばれた“まつもと城下町湧水群”の湧水や井戸が、先ほどのルート上に幾つも点在していることです。
毎回、一番小さなペットボトルを持って、その井戸毎にペットボトルに水を汲んでは各井戸の味を飲み比べながら、旧開智学校や松本城を視界に収めつつ次の場所へと歩いて行くことが出来るのです。
しかも、早朝ウォーキングとはいえ、特に暑い夏に有難いのは、井戸によっても異なりますが、こうした湧水は年間を通じて大体12℃~15℃と一定の水温を保っていること。従って、夏は本当にじっと手を浸していられないくらい冷たくて、更に美味しく感じられるのです。本当に、松本市民ならではの贅沢だと思います。
 松本市のH/Pに依れば、湧水や井戸の水が飲料水として適しているかどうかが定期的にチェックされているので、直近の水質検査結果(令和2年)での各井戸の様々な項目毎の数値が確認出来るのですが、個人的に興味があるのは「硬度」です。
硬度とはミネラル分のマグネシウムとカルシウムの1リットルあたりの含有量で㎎/Lで表示され、通常(複数の基準があるようですが)120より大きいと硬水、小さいと軟水とされます(注)。
所謂「やわらかい水」とか「この水は硬い」という感覚は、この硬度を表しています。因みに、欧州は硬水が多いとされるのに対し、日本では軟水が多く、京都に代表される出汁の文化は軟水ならではとされます(例えば、有名なエビアンは304の硬水ですし、南アルプスの天然水は30の軟水です)。
フードジャーナリストでエッセイストでもある平松洋子女史のエッセイ「水の味」を以前も紹介させていただいた中で、
『「煮る、さらす、浸す、茹でるといった水を中心とした調理法で、微妙な味わいで素材を引き立たせる日本料理は、京都の軟水だからこそ進化した」という件(くだり)でした。その逆で、フランス料理は硬水だからこそソースがミネラルと結合することでしっかりと主張し、切れが出るのだとか。シチューのようにコトコトと煮込む欧州の料理も硬水だからこそ、なのだそうです。また、我国でも関西の軟水と江戸の硬水の違いにより、お米の炊き具合が全く違うのだとか。その結果、硬水で炊くために米が“粒立つ”江戸では、一粒一粒がくっ付かず、空気を含めてフワっとなるからこそ握り寿司が発達し、一方の軟水の関西では米粒が融合し交じり合うことから棒寿司(箱寿司/押寿司)が発達したのだという解説は、まさに目からウロコでした。』
          (松本神社前の井戸)
          (大名小路井戸) 
歩くルートによって、道沿いに在る湧水や井戸は異なりますが、先ずは旧開智学校から松本城公園の途中にある松本神社前の井戸、大名町の「大名小路井戸」、そして四柱神社前の縄手通りの幸橋袂に在る「なわて若がえりの水」、「中町蔵シック館」の手押しポンプの蔵の井戸、天神からの帰り道で緑町に至る「辰巳の御庭」(お城の「辰巳門」と「辰巳御殿」があった場所)という小さな公園にある「辰巳の井戸」、松本城の東側の「葵の井戸」とすぐ近くに「北馬場柳の井戸」、そして駅方面に寄って帰る時のお城の反対側にあるのが西堀公園の井戸。そして、ドリップコーヒー用に隔週で汲みに行っている「源智の井戸」などなど、幾つもの湧水や井戸が各ルート上に点在しています。
          (なわて若がえりの水)
          (中町蔵の井戸)
松本市が管理している「まつもと城下町湧水群」の井戸や湧水は20ヶ所あるそうです(源智の井戸の様に江戸時代には既に“当国一”という評判を得ていた昔からの井戸もあれば、中には平成になってからの整備事業で新たに掘られた井戸もあります)が、その半分近くをいつものウォーキングの中で楽しむことが出来ます。
          (源智の井戸)
          (辰巳の井戸)
 その各井戸の硬度は、「松本神社前の井戸」が硬度7という謂わば超軟水(日本には基準が無く、世界基準で40~50以下を超軟水と呼ぶことがある)です。
「大名小路井戸」は74、「なわて若がえりの水」が93、「中町蔵の井戸」が82、「辰巳の井戸」83、「北馬場柳の井戸」は50、「西堀公園の井戸」96、最後に「源智の井戸」が150で唯一の硬水です。
松本の湧水は殆どが軟水なのですが、その中でも松本神社の硬度7は突出していますし、また源智の井戸も唯一の硬水。複合扇状地と云われる松本は同じ様なエリアでも少し離れると湧水や井戸の硬度が違っていて、地下に様々な水脈が走っていることが分かります。
          (葵の井戸)
          (北馬場柳の井戸)
          (北馬場柳の井戸)
 この中では、個人的には源智の井戸が一番好きなのですが、松本神社前の井戸は確かに柔らかいと感じますし、縄手の「若がえりの水」も美味しいと思います(気分の問題でしょうが、奥様のイチオシ)。また以前ローカルTVだったか、湧水群の取材での案内役をされていた市の水道課の職員の方が「個人的な嗜好ですが」と前置きされた上で、「西堀公園の井戸」が一番美味しいと云われていました。
          (西堀公園の井戸)
単純に云うなら、シチューには硬水の「源智の井戸」を使い、お吸い物など出汁を採る時は軟水の「松本神社前の井戸」を使うのがお薦め・・・なのでしょうか。ただ味は水に限らず、自分の舌の好き嫌いで選ぶべきなのは言うまでもありません。
という意味で、コーヒーに私メの舌が選んだのは、西堀公園でも松本神社でもハタマタ「若返りの水」でもなく、やはり源智の井戸の水でした。
          (源智の井戸)
【注記】
世界保健機関 (WHO) の基準(日本でも多く使われているアメリカ硬度)では、
・軟水:0 - 60未満
・中程度の軟水(中硬水):60 - 120未満
・硬水:120 - 180未満
・非常な硬水:180以上
また、Wikipediaの「水の硬度」の説明に依ると、
『軟水は赤ちゃんのミルク作り、お茶やだし汁などに適している。硬水はミネラルウォーターの名の通り、ミネラル分の補給、また灰汁(あく)を析出しやすいため、昆布のグルタミン酸や鰹節のイノシン酸の抽出を阻害するので和食には適さず、灰汁の出る料理に適している。酒造では醸造過程で硬水を使用するとミネラルが酵母の働きを活発にしてアルコール発酵すなわち糖の分解が速く進むので硬水で造れば醗酵の進んだ辛口の酒になり、逆に軟水を使用するとミネラルが少ないため酵母の働きが低調になり発酵がなかなか進まないので醗酵の緩い甘口の酒に仕上がる。醤油の醸造には軟水の方が適する。また、硬水は石鹸の泡立ちを抑えてしまう。特にアルカリ性の石鹸は成分が結合・凝固して増粘するため、すすぎで非常に苦労する。
また、中硬水は中軟水とも表記される場合がある。』
【注記その2】
掲載した写真は、最近だけではなく、過去も含め(例えば旧開智学校が写っている真っ赤なドウダンツツジは、中央図書館前の昨年秋の紅葉です)、四季折々の早朝ウォーキングの中で(水の味を確かめながら)撮影したモノです。

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