カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
「コロナ禍での“すごもり”向き」と、以前にも紹介させていただいた落語。
地方ではただでさえ少ない生で聴く機会がコロナ禍で余計少なくなってしまいましたが、ネットで検索するとYou Tubeの動画や昔の音源なども残されていて、私メの一番好きな噺家である柳家さん喬師匠を始め、現在過去の色々な噺家さんの落語を居ながらにして聞くことが出来ます。
そうした中で、最近聞いて感服したのが古今亭菊之丞師匠の演じた『法事の茶』という演目でした。
古今亭菊之丞という噺家は名門古今亭の今や金看板。名前からして歌舞伎役者染みて艶っぽい江戸落語の噺家であることは以前から知ってはいましたが、奥様がNHKの藤井彩子アナ(女性アナとして初の甲子園実況)というくらいの知識で、何となくわざとらしくも感じられる話し振りで、正直、然程好きな噺家ではありませんでした。
コロナ禍で生落語が聴けないので、柳家さん喬師匠を始め、柳家喬太郎、春風亭一之輔、柳家権太楼、柳亭市場、古今亭志ん朝、立川志の輔といった各師匠のネット上で聴けるネタはもう殆ど全部聴いてしまい、そのため他に無いかとたまたまネット検索していた中にあったのが、菊之丞師匠の演じた「法事の茶」だったのです。しかも今まで一度も聞いたことの無いネタだったので、興味もあり聞いてみました。
「法事の茶」というのは幇間の登場する「幇間噺」の一つでした。幇間は所謂太鼓持ちのことで、幇間噺には、他にも「愛宕山」(古今亭志ん朝師匠の名人芸が動画で見られます)、「鰻の幇間」、「幇間腹」などがあり、特に最初の内容が似ているので若旦那が針を打つ「幇間腹」(このネタを初めて知ったのは、やはり落語家修行を描いた尾瀬あきら氏の傑作「どうらく息子」でした)かと思ったのですがそうではなく、幇間が持っている特別なお茶を焙じて願うと、その場にその会いたい人が現れるという噺。芸達者な噺家ではないと演ずるのが無理そうなネタでした。
因みに、古今亭菊之丞師匠の「法事の茶」で検索すると、音声だけのものと、コロナ禍で無観客での寄席から中継された「デジタル独演会」のYou Tube動画の二つのバージョンが見つかると思いますが、特に有名噺家を演ずる時は、既に鬼籍に入られた名人が多く、その師匠それぞれの出囃子の中を舞台袖から歩き方を含めて真似をされて高座に上り口真似をするので、動画でないと、音声だけではその面白さは半減してしまいます。つまり、声帯模写だけではなく“形態模写”も演じられているのです。
伝説の“黒門町”(八代目文楽)など見たことも無いので何ともコメント出来ませんが、例えば、圓生(5代目円楽の師匠)、正蔵(彦六、大喜利で弟子だった木久扇師匠が良くモノマネをしますが、菊之丞師匠も負けてません)、談志(見た目もそっくり!)、そして現役のさん喬師匠とどれもこれも特徴を見事に捉えた芸達者ぶりに感心するばかりで、思わず画面に向かって「イヨッ、上手い!」と掛け声と共に拍手をしていました。
菊之丞師匠は子供の頃からの落語好きで、中学生の頃には一人で鈴本に通い学校の落語クラブで「芝浜」を演じたというだけあって、さすがでした。
なお、お囃子も現役の噺家だけではなく、昔の師匠方の出囃子を知っていないといけないので、そんなベテランのお囃子さんが舞台袖に控えている時でないと出来ない噺かもしれませんが・・・。それにしても実に上手い。噺自体で沸かせるネタではないとしても、イヤハヤ名人芸でありました。
個人的には柳家さん喬師匠(5代目柳家小さんの弟子。日本舞踊藤間流の名取)の演ずる「掛け取り」が、噺の中で演ずる義太夫や歌舞伎、三河万歳などの古典芸能も実に芸達者で好きなのですが、他には現在落語協会々長を務める柳亭市馬師匠(同じく小さんの弟子で、若い頃剣道を習っていたため、時に小さんには落語ではなく剣道の稽古相手をさせられた由)は歌手としてCDも出す程の美声で、「掛け取り」では本来の歌舞伎や喧嘩などを演じる他に、三橋美智也の歌を何曲か歌うのが定番となっています。
「掛け取り」で演じられるのは市馬師匠を別とすれば本来古典芸能ですが、「法事の茶」は同じ芸達者という意味では声色や物真似が上手くないといけない。落語の中で所謂「音曲噺」というジャンルになりますが、いずれにしても誰でも演じられるというネタではないかもしれません。その意味で、古今亭菊之丞師匠の演ずる「法事の茶」は、今や800人もいるという東西の噺家の中で、師匠しか演じられない唯一無二の演目なのかもしれません。
【注記】
写真は、落語協会及び師匠の公式サイトからお借りしました。