カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 急拡大を続けてきた「いきなりステーキ」が昨年夏辺りから雲行きが怪しくなり、今年度更に悪化して二期連続の赤字見込みとのこと。昨年度の1億円ちょっとの赤字は、素人目にも無謀だと感じた本場NYへの出店に案の定失敗(11店舗中7店舗閉鎖)し、その閉店に伴う特損計上との説明だったのですが、今回は売上高自体が減少しており、明らかに全体の業績不振です。経済記事によれば、
『 いきなり!ステーキ」の運営元「ペッパーフードサービス」は11月14日、業績予想を発表し、2019年12 月期の連結業績予想を大幅に下方修正、株主への期末配当を無配にすることを明らかにした。
その発表によれば、売上高は約665億円と前回の予想からおおよそ100億減となっており、営業利益は約7億円の赤字に転落、純利益も15億の黒字予想から一転して約25億の赤字になる見込みとのこと。
「いきなり!ステーキ」は自社競合、店舗同士の客の“共食い”が起こっていることから、19年の出店計画を210店から115店へと縮小したものの、引き続き自社ブランド同士の競合などの影響が払拭できずに既存店の売上が落ち込んでいて、今後は同店の約10分の1となる44店舗を閉鎖することを決定したと併せて発表し、その特別損失を計上しての赤字である。 』
会社側の発表では、業績悪化の原因を「急激な成長に伴う店舗数の急拡大での自社競合」としていますが・・・。それって、違うと思います。

 松本でも一昨年の「イオンモール」開店に合わせて県内初出店し、即大行列店となり、その後長野、上田、諏訪にも相次いで出店しました。
そこで我々もモノは試しと、落ち着いたであろう一年後の昨年6月(しかも平日、早めの夕刻)にその評判に釣られて一度行ってみたのですが、食べた結果は、
 「もう、ここはイイよね!」・・・。
しかも、ブームに釣られて「肉マイレージ」カードまで手数料を払ってその場で作った(勿論何度も来るだろうという前提)にも拘らず・・・です。
(家内はお義母さんを茅野の公共温泉に毎週連れて行くのですが、当時諏訪の「いきなりステーキ」を結構年輩のオバサンお二人が絶賛していてビックリしたそうです)
その後、(イオンモールには何度も買い物に行って、時々はランチを食べることもあるのですが)「いきなりステーキ」に我々は二度と行くことはありません。
理由は・・・全然美味しくないから・・・です。
二人で5000円以上支払った対価として、肉のクオリティーやソースなどの味付け、更には店としてのサービスも、他では味わえないという程のレベルでは全く無かったから(詳細は第1339話を参照ください)・・・です。
例えば、昔テキサス州のエルパソに出張した時に、地元のメンバーが連れて行ってくれて、食べた大きなTボーンステーキ。シンプルに塩コショウだけ(ブラックペッパーの香りが実に効いていました)の味付けだったと思いますが、本当に美味しかった!!
もしあんなステーキだったら、多少高くても絶対に何度でもまた食べたいと思うのですが・・・。

 その後、「いきなりステーキ」に対抗して、ファミレスなど色んな店でも「いきなりステーキ」の真似をして、似たような価格のステーキをメニューに加える店舗が増えました。例えば、全国チェーンのハンバーグ店ではUSアンガス・ビーフがグラム当たり5.7円(450g時で)の表示で「いきなりステーキ」より安価です。
そういう店でも食べたことはありませんが、そうした他店と如何に差別化(「いきなりステーキ」の独自性としての、味と価格を提供)するのか、大変難しいだろうと思っていました。しかも、ステーキに一点特化しているのですから尚更です(その後、メニューにカキフライなども追加した様ですが、結果として全く効果無し)。
お客さんが外食する、その店、その料理を選ぶという理由には、家庭では或いは自分では作れないから。若しくは、自分で作っても美味しくないから(プロには敵わないから)。例え自分で作れるにしても、工程が大変過ぎる、時間が掛かり過ぎる。更には、自分で作るよりもその店なら遥かに安く食べられるから・・・というのが理由でしょうから、それらに合致して満足出来なければ選んではもらえない・・・ということになります。
そうした“選ばれるべき理由”が、果たして「いきなりステーキ」にはあるのか?・・・。

 経営側も恐らくその真因を分かってはいるのかもしれませんが、もし(真因の打開策がまだ見つからないからこその当座の弁解として)「自社競合」の“共食い”が原因だと本当に思っているのだとしたら(本当にそうであれば、共食い店を閉鎖すれば来期は完全にV字回復している筈)、このままでは再建回復は難しいだろうと思います。
「いきなりステーキ」の原価率は他よりも高い(平均60%)そうですが、一人3000円近く払うとして原価は2000円弱の300gのステーキです。
300gのステーキ用ビーフ(勿論輸入牛肉)をスーパーで買えば、高いモノでもグラム500円程度ですので、半値の1500円。ステーキソースも今では本格派まで色んな種類がスーパーの売り場に並んでいます。仮に全部で2000円掛かったとして、納得出来る1000円の差額を店で食べた時の満足感として “単品のステーキだけで”どうやって提供しうるのか?・・・。
 一時期そうした状況を打開するためだったのか、見る人によっては不遜と取られかねない様な、ただ経営者が登場して社名をアピールするだけの(初めての?)CMが盛んに流れていましたが、販促費の無駄か、経営不振の声と共に消えてしまいました。
この「いきなりステーキ」は、「俺のイタリアン」から始まった「俺の株式会社」が、「いきなりステーキ」の模範とするビジネスモデルなのだそうです。
以前、長女に連れて行ってもらった銀座「俺の割烹」。確かに、味と値段、そのコスパの良さに驚きました。評判になるのも大いに納得でした。客席のテーブル間の狭さと(音楽などの)店内の喧騒には(我々の様な年寄は)些か参りましたが、そこは一等地ゆえと我慢の範囲内でした(むしろ静かだと狭さゆえに隣席の他人の会話が聞こえて気になるので、多分、音楽などで煩くすることで客にそうした不満を言わせないための戦略ではないか、と思いました)。
もし本当に「俺の〇〇」を模範としているとしたら、その割にはコスパとしての満足感は「模範ビジネス」との大きな隔たり、「単品のステーキだけ」でのビジネスモデルとしての限界を感じます。
むしろ、一時期業績不振回復の切り札として、急成長を続けていた頃の「いきなりステーキ」と提携し、既存のラーメン店を「いきなりステーキ」のFC店に転換すると発表した「幸楽苑」。謂わば“他人のふんどしでの相撲”ですが、果たしてその効果がどうだったのかは知りませんが、少なくともその後の「幸楽苑」のTVCMでは期間限定メニューの投入など、(これまでの“安かろう”だけから、質の良い食材を使って単価もアップさせ)ラーメンそのものの美味しさの追及、提供という本質に回帰している印象を受けます。
「いきなりステーキ」も(単品ビジネスでは難しいですが)そうした本質回帰を考えないと、単なる一過性のブーム(ステーキを大衆化したという評価だけ)で終わり、或いはこのままじり貧でとなりかねないのではないかと感じていますが、果たして・・・?。