カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 国民的盛り上がりを見せた、ラグビーワールドカップ2019日本大会。
日本チームがその時点のランキングで世界一位だったアイルランドを倒し、台風禍の中、全回負けたスコットランドに勝って遂に念願のベスト8に初進出。残念ながら準々決勝では今回は南アフリカに完敗ではありましたが、日本中に“にわかファン”が溢れたのも、そうしたホスト国である日本チームの快進撃があったことは間違いありません。それにしても何故これ程までに今回ラグビーが日本中で盛り上がったのか?・・・。

 そのヒントを見つけました。それは、サッカーのワールドカップのFIFAやオリンピックでのIOC同様に、大会の公式画像として、ラグビー中継などで必ず最初に放映されるラグビーの国際競技連盟であるワールド・ラグビー(World Rugby)が作成したW杯用の公式タイトルVideo。
日本大会をシンボライズした富士山から躍動するラガーマンに変わるCG 映像。その画像の中に「品位、規律」などと書かれた漢字が現れるのですが、これが「ラグビー憲章」です。
それは、品位(Integrity)、情熱(Passion)、結束(Solidarity)、規律(Discipline)、尊重(Respect)の五つで構成されていて、それぞれの定義は、
品位:「品位とはゲームの構造の核を成すものであり、誠実さとフェアプレーによって生み出される。」
情熱:「ラグビーに関わる人々は、ゲームに対する情熱的な熱意を持っている。ラグビーは、興奮を呼び、愛着を誘い、グローバルなラグビーファミリーへの帰属意識を生む。」
結束:「ラグビーは、生涯続く友情、絆、チームワーク、そして、文化的、地理的、政治的、宗教的な相違を超えた忠誠心へとつながる一体的な精神をもたらす。」
規律:「規律とはフィールドの内外においてゲームに不可欠なものであり、競技規則、競技に関する規定、そして、ラグビーのコアバリューを順守することによって表現される。」
尊重:「チームメイト、相手、マッチオフィシャル、そして、ゲームに参加する人を尊重することは、最も重要である。」
 更にもう一つ。それは、ラグビーを象徴する“ノーサイド”と“One for all. All for one”。これは、日本だけで有名な“ラグビー・ワード”なのだそうです。日本にラグビーを根付かせるにあたって、先人がラグビー文化を象徴する言葉として用いたのが広まったのだそうです。
ラグビーにおける試合終了を意味したNo sideは、今ではFull timeと言い、ノーサイドを使っているのは今や日本だけで、1970年代以降、本国英国に限らず他の国では最早死語なのだとか。
またラグビーの献身性や犠牲的精神を指す“One for all. All for one”は、フランスのデュマの小説「三銃士」の中に出て来る一節で、ラグビー精神を表すのに相応しい言葉として日本で使われたのだとか(因みに、大元は保険の意義を表現するための言葉であり、その方が理解しやすいかもしれませんが・・・)。
こうしたことから窺い知れるのは、例えば「規律」や「尊重」、そして全員での「結束」といったラグビー精神が、日本人の精神構造に実に素直に馴染むからではないか?・・・ということです。

 自分を犠牲にして勇敢に相手にぶつかっていくタックルに見る自己犠牲。どんなに“傷んでも”(大学ラグビーでは)ヤカンの水を掛けただけでピッチに戻っていく忍耐力・・・etc。
翻って、ファウルを取らんがためにイミテーションと取られかねない程に大げさに倒れ込み、時に相手への尊厳など微塵も感じれぬ程に大袈裟なゴールパフォーマンスを繰り返すサッカー。
同じ英国で生まれた競技なのに、“紳士のスポーツ”と片や“野蛮人のスポーツ”と云われる程に、どうしてこうも違うのか。
勿論スポーツの人気は、やはり強いこと、勝つことであり、ましてや過去の日本代表の様に国の代表チームが連戦連敗では、いくら競技の魅力を説いても何の意味も持ちません。やはり勝つことで注目を集め人気も高まり、競技人口が増えることで、裾野が広がり競技レベルもまた高まっていく・・・。
サッカー人気はワールドカップ出場と日韓W杯開催によって高まったでしょうし、女子サッカーもW杯優勝が大きく貢献しました(その後の成績低迷により、宮下選手らの“ブームで終わらせてはいけない”という危惧が残念ながら当たってしまっていますが)。

 10年程前の次女の学生時代。彼女の大学には、何とPTAの様な父兄会が組織化されていて、大学側の支援により県毎に支部が置かれて活動する中で、長野支部は(役員中心ですが)夏に菅平で合宿をするラグビー部の練習試合に合わせて毎年応援しに行って県産の果物や野菜ジュースなどの差し入れを行っていました。帝京や早稲田といった強豪校との練習試合。天然芝のラグビーコート(菅平には、ナント60面のラグビーコートがあるそうです)にはスタンドは無いので、それこそ目の前でタックルなどの肉弾戦が繰り広げられるのですが、そのガシッ、ゴツッといった肉体がぶつかる音の迫力はまさに息を飲むほどでした。
ですから、生で観る国の誇りを賭けた代表戦で観客が興奮するのは当然です。しかしラグビーの良い所は、フリーガンを生んだ同じ国発祥のスポーツとは思えないのですが、選手のノーサイド同様に、敵味方の区別なく同じ席で入り混じって応援し、且つお互いを尊重して諍いや中傷などが全く見られないこと。応援する側にもお互いをリスペクトするラグビー精神がしっかりと根付いていることが、ラグビーの素晴らしい点ではないでしょうか。

 それにしても、日本チームの敗退により、まだW杯は続いているのですが、何となく日本中に桜のジャージに対するロスムードが拡がっています。
“桜の勇者”たちの戦いぶりは素晴らしかったし、どの代表チームもラグビー精神を発揮した姿勢はさすがでした。オールブラックスから海外チームに広まっていった、ノーサイド後の観客の皆さんへの日本流のお辞儀も印象的でした。
そして、選手の皆さんだけではなく、キャンプ地や試合会場で迎えた観客の態度も世界中に発信されたことで、日本大会の盛り上がりに拍車をかけました。それは2020東京オリンピックに向けたプレ大会の様な雰囲気で、十分に日本流の“おもてなし”の試金石にもなったと思います。

 最後に余談ですが、大会中に配信された報道の中で、個人的に印象的だったのが、準々決勝南ア戦を前にした英国インディペンデント紙でした。曰く、
「この惑星の南アフリカ人以外のラグビーサポーターは日曜日、日本を応援することになる。彼らはルールブックを書き換えている。見るのは至福。大きな声では言えないが、日本代表は我々の目の前でラグビーの救世主となりえるのだ。“柔よく剛を制す”を体現し、美しく勇敢な戦いぶりで観衆を魅了している日本代表。」
日本だけでなく世界中で、今回の桜の勇者たちの繰り広げたスピードと創造性溢れるラグビーに対しての賞賛が拡がっていました。