カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 信州松本は梅雨の真っただ中の、6月22日土曜日。
翌週に「女性のための登山教室」参加を控えた奥様が、足慣らしをしたいとのことで、兼ねてよりこの時期に行くならと考えていた美ヶ原へ登ることにしました。
 我々の様な初心者は冬山や雪の残る春山は無理ですので、雪の消えた初夏が登山シーズンの解禁です。そしてその6月は、美ヶ原や鉢伏、高ボッチなど、松本から望む東山々系ではレンゲツツジの咲く時期でもあります。
日々更新されている王ヶ頭ホテルのブログ写真では、美ヶ原の頂上付近のレンゲツツジの群落は未だ二分咲き程度とのこと。今年は少し遅れているのかもしれませんが、レンゲツツジではなく翌週の奥様のための足慣らしが主目的で、週末のこの日は母がデイサービス日で昼間不在のため、母を送り出してから三城に向けて出発しました。
他の日を選べなかったので最初から覚悟の上ですが、この日の天気予報は曇りで、しかも午後からは雨。生憎の空模様ですが他の日を選べないので、展望の悪さと場合によっては午後の雨降りも覚悟の上で、私メにとっては(奥様は既に山梨や神奈川の山で行われた登山教室に参加済み)シーズン開幕となる美ヶ原登山です。
途中のコンビニで昼食を購入し、我が家から「三城いこいの森広場」の無料駐車場へは40分足らずで9時45分頃の到着。思い立ったらすぐ行ける、このフットワークの良さが松本からの美ヶ原登山の魅力です。
駐車場には3台ほどしか停車しておらず、週末とはいえ梅雨の最中でこの日の天気予報では登山客も少なかろうと納得。駐車場からは、王ヶ頭のテレビ塔はこの日は雲に隠れて望めません。
駐車場のトイレが壊れていたので、センターハウスのトイレを使わせていただき(勿論、こちらも有料です)、9時55分にいざ出発。今回も百曲がりコースです。

 オートキャンプ場のサイトを抜け、登山道を沢沿いに広小場へ。
暫くはなだらかな道が続くのですが、梅雨で湿度が高いせいか何だかいつもより汗が出ます。そのため下にタイツをはいていて暑かったので、広小場の東屋でスパッツの下半分を外して半ズボンにして、水分補給をしていよいよ百曲がりの急登へ。
この季節の美ヶ原登山は初めてですが、実に緑が濃い。梅雨時で先週も雨が降ったのか登山道は結構湿っていて、場所によっては水溜まりがあってぬかるんでもいます。
梅雨時で多分湿度も高いのでしょうか、予想以上に熱くて汗が出て、何度もタオルで汗を拭います。そのため思いの外バテテしまい、何度か立ち止まって水分補給をしながら樹林帯を抜けると、漸く風が通る様になって体感上も涼しく感じました。それにしても、美ヶ原では今回登るのを初めてキツく感じました。奥様によれば、それも日ごろの鍛錬不足で怠けているせいだからとのこと。
「イヤハヤ、面目無い・・・」と、些かトホホでありました。
そのため百曲がり園地へは、今回は三城の登山道入り口から1時間40分掛かりました。事前の予想通りで、この日は全く展望が利きません。周囲360度全て雲の中です。従って、アルプス展望コースを行っても何も見えないので、園地から塩くれ場を経由して、牧場内を通って王ヶ頭へ向かいました。
既に牛の放牧が開始されていて、塩くれ場にはハイカーの一団が休憩されていましたが、梅雨時のためか週末ですが観光客も疎ら。美ヶ原のシンボル「美しの塔」も霞んでいましたが、歩いている人はあまり見当たりませんでした。
美ヶ原の最高地点となる2034mの王ヶ頭。東側の谷間から雲が流れて来て、半分は雲に隠れていて全く展望が利きませんが、これも梅雨時ならではの景色なのかもしれません。初めて来られた観光客の方々にはこの日の天候は気の毒ですが、いつでも来られる我々の様な地元民にとっては、これはこれでこの時期ならではの風景として楽しむべきなのかもしれません。
しかし“この時期ならでは”である筈のレンゲツツジは、百曲がりの登山道脇に何本か咲いてはいましたが、登山道や塩くれ場からの高原の牧場内には全く見ることはありませんでしたし、小梨(ズミ)の白い花ももう散っていました。
車でビーナスラインを来ると見られるのかどうか分かりませんが、このエリアのレンゲツツジの群落は王ヶ頭より先の自然保護センター周辺とのこと。しかしホテルのブログ情報に拠ると、山頂はまだ二分咲き程度で見頃を迎えてはいないそうです。従って美ヶ原高原のこの展望コースエリアの花の見頃は、高山植物の咲く盛夏からマツムシソウなどが咲く秋口になるのでしょうか。
 王ヶ頭ホテル前の広場に12時半過ぎに到着。少ないとはいえ、観光客の皆さんはホテル内の食堂で、また登山の若いグループの方々は広場のテーブル席でお湯をバーナーで沸かしてカップヌードル等でそれぞれランチ中。
我々も広場に座って、コンビニで買ってきたサンドイッチやオニギリで昼食です。それにしても、前回は二本(1.3リッター弱)持って来て殆ど手付かずだった水が、今回は予想以上の発汗で750㏄入りの水筒はもう殆ど空。そこで、念のためにホテルの自販機でミネラルウォーターを購入して、帰路用に水筒へ補充しました。
昼食を取っている間に雨がパラパラ落ちて来ましたし、この日の天候では王ヶ鼻へ行っても北アルプスの眺望は全く望めないため、午後一からの雨予報だったこともあり、ここ王ヶ頭から早めに引き返すことにして、せっかくですので、帰りはアルプス展望コースで百曲がり園地までのトレッキングを楽しむことにしました。
 尾崎喜八『高原詩抄』に収められた「松本の春の朝」第6編(昭和17年)に、
  『(前略)夜明けに一雨あったらしく、
       空気は気持ちよく湿っている。
       山にかこまれた静かな町と清らかな田園、  
       岩燕が囀(さえず)り、れんげそうの咲く朝を、
       そこらじゅうから春まだ寒い雪の尖峰が顔を出す。
       日本のグリンデンヴァルト、信州松本。(後略)』
果たして、松本の市街地に尾崎喜八の言うイワツバメが舞っているかは定かではありませんが、この王ヶ頭ホテルに巣作りをして群舞する様に飛び交っているのは正しくそのイワツバメでしょう。
生憎この日はコース名の様なアルプスの峰々の展望は全く利きませんでしたが、さすがに美ヶ原でのトレッキングを楽しむ方々は皆さんこのコースを歩かれていて、途中何組もすれ違いました。
烏帽子岩を過ぎてもう少しで園地という所で、先方から歩いてくる30人ほどのグループが見えたので、少し広い場所ですれ違うために我々が待っていました。
登山らしく、スイマセン、コンニチワと思い思いに挨拶を交わしながらすれ違います。我々同様に三城から登って来られたという、若い女性が多いグループでした。すると家内が突然「アッ!」と言って、グループの中に居た女性の方と挨拶を交わしています。そのため、私はてっきり「女性のための登山教室」でこれまでにご一緒された方なのかと思ったのですが、続いて家内が「この前、鈴木さんの講演も山岳フォーラムでお聞きしました!」というので良く見ると、ナント、山好きが高じて東京からご家族で移住されて今松本市の観光大使にも任命されている松本在住の漫画家、鈴木ともこさんではありませんか!
その一行は、鈴木さんの山好きのお仲間か、彼女を中心とするトレッキンググループでした(後で調べると、トレッキング雑誌主催のイベント中での「鈴木ともこさんと行く美ヶ原トレッキング」だった由)。
続いて百曲がり園地では、我々よりも遥かに年配の方々の男女のパーティーが、やはり百曲がりコースを登って来られました。「今日はどうでした?」という質問に、コースの様子をお話ししました。お話によれば、先頭におられた(失礼ながら80才位のお歳とお見受けしました)年輩の女性の方が、この美ヶ原でナント百座目なのだとか。「日本百名山全山登頂達成!」となる最後100座目が、この美ヶ原なのだそうです。そこで思わず、
 「おめでとうございます!」。
お話によれば、(車で来る?)他の方々と山本小屋(美ヶ原高原ホテル)で合流してから(?)頂上となる王ヶ頭へ記念登頂されるのだとか。そこで、きっと百座達成記念のバナー(横断幕)を掲げて、記念写真を撮影されるのでしょう。
それにしても、体力のあるお若い頃に槍や穂高などは登頂されたのでしょうが、80歳近くになって百座登頂達成されるとは凄い!の一言。(山好きの方々の中では、決して珍しいことではないのかもしれませんが、我々初心者にとっては夢の様な)偉業達成の機会に遭遇させていただいたことに感激し感謝でありました。
 ご挨拶をして、我々は帰りも百曲がりコースを下ります。
暫くすると男性の方が登って来られ、道を譲るべく待っていると、ポツポツと遂に雨が振り出しました。
 「午後は雨予報だったので、我々は王ヶ鼻も行かずにこれから下るところです。」
と言うと、その男性も、
 「ヨシ、私も引き返します!今日はもう行かない方が良さそうだ・・・。」
と、もう少しで百曲がり園地だというのに、さっと踵を返して一緒に下り始めました。こういう判断(≒引き返す勇気)が山登りではきっと重要なのでしょう。
その方の下山しながらのお話によると、この日は燕岳に登るつもりで早朝中房温泉に行くと、既に夏山シーズンか第一駐車場は満車だったそうですが、ラジオが雷の電波を拾ったようなバリバリという雑音がしたために西山への登山は諦めて、逆側である東山の美ヶ原に来たのだとか。
美ヶ原登山はどれ位標高差があるのかという質問にお答えすると、片道2時間弱で三城の登山口から王ヶ頭まで500m程の美ヶ原に対して、“北アルプスの女王”2763mの燕岳は、中房温泉の登山口から燕山荘(2712m)まで片道5時間で標高差1260mとのこと(高さも登山時間も2.5倍です)。
この日は足慣らしのトレーニングと言われるこの男性。お聞きすると、地元在住のお医者様で、登山が趣味のため、地元だけでなく松本エリアの東筑の中学校から依頼されて、学校登山に学校医として毎年何校も同行されるのだとか。この日も、近く燕岳への学校登山に同行するための予行演習として日帰りで燕岳へ登る予定だったのを、登山口で雷雨を予想して断念し、反対側の美ヶ原へ(休診日である週末での)トレーニングへ来られたのだとか。
「北アルプス3大急登」とも言われるキツイ燕岳への学校登山が最近は減って(最近の若い先生は登山未経験でもあり)、代わりに、例えば山頂近くまでバスで行ける乗鞍岳やロープウェイで行ける木曽駒などへ登る学校もあるが、どちらも3000m級の山であり、いきなり2500m地点から開始する登山は逆に高山病への注意が必要とのお話に、ナルホド!と、登山が趣味の先生らしい、色々医学的な興味深いお話をお聞きしながら一緒に山を下りました。
そこで、この日の天候でバテタことや、昨年唐松でへばったことをお話しすると、こまめな水分補給が不可欠とのことで、この日も先生は習慣で水2リットルを持参されているとか・・・。
 「ちょっと重いんですけど・・・ネ」
ナルホドと、この日美ヶ原なら・・・と750㏄しか持参しなかった私メは大いに反省することしきりでした。
雨が本降りになったため、カッパを着るべく、我々は先生とは別れリュックから雨具を取り出しました。この日の雨は、山沿いのためか(松本地方の)予報以上の本降りでしたが、三城の駐車場に着く頃になって漸く小振りになりました。
 残念ながら天候が悪く、展望は全く利かぬ様な悪条件での美ヶ原登山でしたが、地元在住とはいえ、漫画家の鈴木ともこさん、百名山達成記念の方、そして学校登山に毎年同行される学校医の先生・・・。今回多くの山好きの方々にお会いして、パワーや山好きの方々の気持ちの一端に触れさせていただいて、風景への感動とはまた一味違った清々しい山の良さが感じられた、そんな素敵な山旅でした。