カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 東京滞在中、唯一自由時間が取れた10月3日。
コンサート、落語と都内のイベントスケジュールを調べてみましたが、平日でしたので余り興味を惹かれるモノはなく、では美術展は・・・?
この夏トウハクに火焔土器や国宝土偶が全て集結して人気だった縄文展は既に終わっていますし、我が国での開催としては過去最大というフェルメール展は残念ながら5日の開幕。山種は名作揃いではありましたが、今回目玉の御舟「名樹散椿」は後半展示でしたし、既に同館で観賞済み。そこで今回唯一興味を持ったのは、サントリー美術館で開催中の「京都・醍醐寺-真言密教の宇宙」展でした。

 大学受験で国立大学を落ちてから遅れて探した下宿が“洛中”には見つからず、結局大学一回生の時に住んだのが大学からも遠い山科でした。
秀吉晩年の「醍醐の花見」でも知られる醍醐寺は、住所は伏見区ですが京都の山科盆地の南側に位置し、その山科でも醍醐寺へは最寄の京阪と隣接するJRの山科駅から更にバスで30分程乗らねばならず、行くには結構不便でしたので京都の学生時代にも一度も拝観したことはありませんでした。

 今回のサントリー美術館は東京ミッドタウンにあるので、家内の用事のある表参道からも至近です。六本木の地下鉄大江戸線改札で待ち合わせてミッドタウンへ。
サントリー美術館へは数年前に「若冲・蕪村展」で来ています。3階の受付から入場。平日のせいもあるのか、或いは地味なのか然程混んではおらず、お陰でじっくりと閲覧観賞することが出来ました。
 京都醍醐寺は真言宗醍醐派の総本山。中国唐で修業し、真言密教をもたらした弘法大師空海の孫弟子にあたる聖宝が874年に開山。醍醐天皇の庇護を受けて拡大発展。応仁の乱の戦乱で荒廃しますが、秀吉等の帰依を受けて再興されて今日の姿になったそうです。
醍醐寺は真言密教の一大拠点として、その教えを守り続け、2016年に本家にあたる中国上海と西安で醍醐寺に伝わる寺宝の大規模な“里帰り”展を開催し、80万以上もの現地の方々が来場して大成功を収めたのだそうで、今回の特別展はそれを記念しての開催とのこと。
今回の特別展では、3mを越える薬師堂本尊の国宝薬師如来坐像をメインに、不動明王を始めとする国宝五大尊像、真言密教のポイントをメモ書きしたという空海直筆の国宝大日経開題など、国宝39点、重文58店を含む122件が展示されています。
特に4階の展示会場から3階の会場へ下る階段正面に安置展示されている薬師如来は展示のハイライトであり、薬師如来さまのその神々しいお姿に自然と合掌しながら拝観をしました。また空海直筆の国宝大日経開題は、びっしりと書かれた文字から、先進知識を貪欲に吸収し自国に持ち帰ろうとする“熱き意欲”がほとばしる様な、そんな熱気が感じられました。
遣唐使として、この国のために、進んだ技術や知識を“先進国”に学び持ち帰ろうと正に命を掛けて海を渡って行った青年たち。我が国のそうした若者のほとばしる様な意欲が熱く高揚したのは、遣唐使と敗戦後のフルブライト留学生の二つだけだったのでしょうか。
以前、アジアからの留学生向けの奨学生面接をしていた時に、将来の自身の夢や成功を熱く語る中国人を中心とした若者が多かった中で、例外無く誰もが「遅れている自分の国の発展のために」と留学の目的を必ず語っていたベトナムからの留学生達を思い出しました。

 我が国の密教文化に触れて、阿修羅や弥勒といった仏像の様な人気や華やかさとは無縁な、しかしその深い精神性を感じ、少しは密教文化の世界を理解出来た展覧会でした。