カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
人生60年、今まで生で歌舞伎というモノを観たことはありません。松本でも、10年程前から平成中村座のコクーン歌舞伎が2年に一度「まつもと大歌舞伎」としても演じられるようになり大変な人気ですが、我々は一度も行ったことはありませんでした。
今回、たまたま歌舞伎座での観劇のお誘いがあり、奥さまが「一度歌舞伎を見てみたい」とのことから参加することにしました。松本から往復観光バスで歌舞伎座横付け。チケットも昼食も全て用意されているので、初心者も安心です。
今回の「二月大歌舞伎」は、世間でも話題となっている「高麗屋親子孫三代襲名披露公演」です。但し松本からの日帰りのため、三代襲名披露口上などが行われる「夜の部」は無理な事から、11時開演の「昼の部」を観賞。
6時半に松本を出発し、途中SAで休憩し、10時半頃歌舞伎座に到着、観劇終了後の4時頃歌舞伎座を出発し、夜7時半頃松本到着というスケジュールで、参加者は20名程でした。
一、春駒祝高麗
二、一條大蔵譚
三、歌舞伎十八番の内 暫
四、井伊大老
人生“初”観劇故、歌舞伎には疎く全く説明出来ませんので、歌舞伎座の「あらすじ」をそのまま引用させていただくと、
『一、春駒祝高麗(はるこまいわいのこうらい)
初春を迎えた工藤祐経の館に乗り込んだ曽我十郎と五郎の兄弟。春駒売りに身を窶(やつ)し賑やかに踊ってみせる。そして、親の仇である工藤と対面するが…。
襲名の幕開きを祝うに相応しい華やかな舞踏が舞台を彩ります。
工藤祐経を中村梅玉、曽我五郎と十郎の兄弟を中村芝翫、中村錦之助。
二、一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
平家全盛の世、夫源義朝を亡くした常盤御前を妻に迎えた一條大蔵卿は、その阿呆ぶりが世間でも広く知られる。大蔵卿の館に潜り込んでいた源氏方の吉岡鬼次郎は、源氏再興の思いをなくした様子で楊弓に興じてばかりいる常盤を打ち据える。しかし、常盤の振る舞いには訳があり、そこへ大蔵卿が勇ましい姿で現れると…。
義太夫狂言の大役を、新幸四郎が襲名披露狂言にて勤めます。
三、歌舞伎十八番の内 暫(しばらく)
早春の鶴ヶ岡八幡宮、威厳を誇る清原武衡に対して、加茂次郎義綱が不遜な振る舞いを非難すると、武衡は義綱の首を刎ねるよう命じた。そのとき、「しばらく」と大音声がかかると鎌倉権五郎が颯爽と登場し…
権五郎が見せる元禄見得や幕切れの豪快な六方は大きな見どころです。歌舞伎十八番らしい荒事をお楽しみいただきます。
成田屋の十八番に相応しく権五郎に市川海老蔵が扮します。
四、井伊大老(いいたいろう)
時は幕末。開国を決断し、暗殺の危機に晒される大老井伊直弼。雛祭りを控えたある日、直弼の側室お静の方のもとに旧知の仲である仙英禅師が訪れ、直弼に危機が迫っていることを伝える。自らの死すべき運命を覚った直弼は…。
桜田門外の変までの井伊直弼とお静の方との情愛を、繊細な心理描写で描く名作をご堪能いただきます。 直弼は中村吉右衛門。』
とのこと。
当日は、初心者にも分かり易い様に「イヤホンガイド」も用意していただいていました。恐らく事前に録音されていると思うのですが、まるでLIVEのようにドンピシャのタイミングで解説が入ります。また歌舞伎独特の化粧である隈取りで役者の素顔が分かりませんので、登場し初台詞の際に役者名と屋号も紹介してくれます。また見所、例えば海老蔵扮する権五郎のツラネと呼ばれる長台詞(襲名披露のお祝いも交えながら客席を沸かせます)や荒事と呼ばれる見得や花道を退場する際の六方など、邪魔にならぬよう解説が入るので、全く知識が無くても目の前の演目を十分楽しむことが出来ました。
また悪人、善人の衣装の区別など細かい部分まで知ることが出来ました。
草間弥生による襲名披露のお祝い幕も華やかでした(松本で3月から開催される展覧会でこの原画も展示されるそうです)。ただ新作歌舞伎の演目という「井伊大老」で、人間国宝中村吉右衛門が私メにはどうしても鬼平に見えてしまうのは我ながら情けない。
また二幕と三幕の間に3階のレストラン「花篭」に移動して、これぞ正真正銘の幕の内弁当をいただきました。ただ幕間が30分しかないので味わう程の余裕はありません。従って、観劇には銀座のデパ地下などで老舗の料亭のお弁当を買って来るか、或いは一階の桟敷席だけが予約可能なお茶と一緒に用意される幕の内弁当をゆっくり頂くのがここでは一番贅沢だと納得した次第。
初めての歌舞伎。着物で来られるご婦人方も多く、華やいだ雰囲気。お開きになり、賑やかなロビーでは夜の部のご贔屓筋や招待客を出迎えるカウンターで松たか子嬢のお母上でもある松本白鸚夫人が何やら忙しく準備をされていて、大昔まだ染五郎の頃、ご夫婦二人でマンズワインの 確か“♪夫婦でワイン、なんてね~”という CMに出られていたのを突然思い出しました。
最近興味を持っている古典落語にも「淀五郎」や「中村仲蔵」など歌舞伎の人気演目である「仮名手本忠臣蔵」を題材にした演目もありますし、代表的な落語の人情噺の「文七元結」や「芝浜」は歌舞伎の演目になっており、「駱駝」も新作歌舞伎の演目として演じられたこともあるのだとか。落語同様に、江戸庶民の楽しみだった歌舞伎。人情劇や勧善懲悪など、ストーリーそのものは至ってシンプルですが、長唄や義太夫といった歌舞伎音楽、見得や独特の台詞回しなどと相俟って、総合芸能とでも言えそうな歌舞伎舞台。古典芸能観賞もたまには良いモノだと納得した次第。大いに楽しむことが出来ました。