カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 毎年正月に一ヶ月公演として行われているという『志の輔らくご in PARCO』。渋谷のパルコ劇場が3年間掛けて改装されるのに伴い、“in NIPPON”と称して一ヶ月で全国12ヶ所を回ることになり、初年度の2017年に師匠の故郷を皮切りとする4番目の公演先に松本も選ばれました。

 今の落語界で一番集客力があると云われる立川志の輔ですので、聞きに行くことにしました。ここ数年、志の輔師匠は松本に毎年来られているそうですが、私メは生で聞くのは初めてです。
何度も紹介させていただいているビッコミ・オリジナル連載の尾瀬あきら氏の最高傑作!「どうらく息子」に感化され、コミックに登場する古典落語をちゃんと知ろうと思い、市立図書館のライブラリーの落語コーナーにあるCDを借りて勉強しつつ、どうしても生で聞きたくなって5年前に聞いた、生まれて初めての“生落語”(第605話参照)。それも同じまつもと市民芸術館でした。以来、「松本落語会」や「まつぶん新人寄席」などで何回か聞いていますが、チケット入手も難しいという当代きっての人気落語家でもありますし、評判を呼んでいる「志の輔らくご in PARCO」の謂わば“引っ越し公演”が、この松本でも聞けるので、聞きに行くことにしたもの(奥さまは落語には全く興味なし故、今回も独りです)。
 「13日の金曜日・・・?、ま、イイかぁ」
会場の市民芸術館は駐車場が少ないので、18時の開場に合わせて家内に送ってもらいます。3階席以上と両脇のバルコニーは使わずに、階段状の1・2階席のみの解放ですが満席の様で流石です。
開演時間になりお囃子が流れ、緞帳が上がるとステージには高座が設えられ、両脇に立川流の定紋「左三蓋松」が屏風風に置かれています。
出囃子に乗り志の輔師匠の登場。一席目は、正月公演らしく紋付羽織袴姿。お弟子さんはおられましたが、前座噺無しに仲入りを挟み、三席ともご自分で演じるとのこと。
 前半に師匠自身の創作落語ニ題、「質屋暦」と「モモリン」。
質屋暦は2017年元旦の8時59分60秒の「うるう秒」に因み、明治5年12月3日から明治6年元旦に変更されたという、明治政府の太陽暦導入に伴う市井のドタバタを因業な質屋を舞台に題材としたもの。そして、モモリンはとある市の人気ユルキャラのお噺。そして「お仲入り~♪」を挟み、トリに古典落語から「紺屋高尾」という演目でした。三席の間に、獅子舞いや三味線演奏、お目出度いという三番叟の様な「酉踊り」などもあって正月公演らしい雰囲気です。
 枕噺もなく、いきなり師匠の口から「久蔵が・・・」という言葉を聞いて、「おっ、紺屋高尾だ!」
想えば、5年前に初めて聞いた生落語のトリも歌丸師匠の紺屋高尾でした。また、「どうらく息子」に登場した前座時代の「惜春亭銅ら壱」やCDでは「紺屋高尾」と云えば十八番と云われたと云う六代目圓生でしょうか。どちらも良かった。立川談志も定評あったそうですから、当然志の輔師匠も弟子の頃に師匠の談志から直接稽古を付けてもらったのでしょう。
「次はいつ来てくんなますか?」との高尾太夫の問い掛けに、遂に嘘を付いていたことを詫びる染物職人久蔵の誠実さは良く出ていたと思いますが、年季明けの高尾が久蔵の所に本当に嫁入りして来る段は何となくあっさりしていて少し物足りない気がしました(その点、お玉ヶ池の桜吹雪の中をかごに乗って来る高尾の姿を見事に描いた「どうらく息子」での銅ら壱の紺屋高尾は良かったなぁ・・・)。しかし、“滑稽話から人情噺まで。創作噺も”という「志の輔らくご」の評判の一端に触れた感じはしました。
 個人的には、以前CDで聞いた、師匠の「八五郎出世(妾馬)」の滑稽な中にも涙ながらの“悲しみのおかしみ”は本当に良かっただけに「八五郎出世」を生で聞いてみたかった気がしました。また、一ヶ月で全国12公演とのことですので、高座から降りて袖に下がられる師匠の姿がお疲れの様子で些か心配ではありました。

 最後鳴り止まぬ拍手に応えて緞帳がまた上げられ、志の輔師匠の三本締めでお開きとなりました。
 「やっぱり、落語も“生”がイイなぁ・・・」