カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 どちらかと言うと、これまで“聴かず嫌い”だったシューベルト。
せいぜい「魔王」に始まり「未完成」といった音楽の授業程度だったのが、小学館のクラシックプレミアムでベーム指揮SKDの「ザ・グレイト」の名演に触れ、また音文(松本ハーモニーホール)でのアファナシエフのピアノリサイタルで彼の後期ソナタを聴き、歌曲だけではない彼の曲の奥深さを知りました。
特に「ザ・グレイト」と呼ばれる交響曲第8番(昔は9番)は、決してブラームスの第1番まで待たずとも、またその間のシューマンやメンデルスゾーンだけではなく、シューベルトもまた交響曲においてベートーヴェンを引き継ぐ系譜に繋がっていたことを改めて教えてくれた楽曲として(やや単調ですが、彼らしいメロディアスな旋律に溢れていて)、是非一度生で聴きたいと願っていました。

 今年の演奏会の予定を見ていた中で、「グレイト」をプログラムに取り上げられていたのが、気が付いただけで3つ(都内での演奏会は日帰り可能なマチネが大前提で)。
先ず長野市民芸術館でのオープニングシリーズの中での井上道義指揮OEK。そしてインバル指揮都響とカンブラン指揮読響。2管編成の曲ですのでOEKでも十分ですが、井上さんは個人的に趣味ではないので除外。読響がモーツァルトのPf.協奏曲第15番に対し、エルガーのVc.協奏曲との組み合わせで振るインバルと都響の定期をチョイス(エルガーは前回の音文での“耳直し”の意味もあります。因みに交響曲8番は、都響は「グレート」と長音表記でしたので、以下それに従います)。インバル&都響コンビは、熱狂に包まれたマーラー・ツィクルスでの5番が印象に残ります。
 当日の東京芸術劇場コンサートホールは反響板が取り付けられ、日本最大級のパイプオルガンは隠れていました。
マエストロの80歳と都響デビュー25周年を記念しての第813回の定期演奏会(Cシリーズ)。3階席前列のほぼ中央の席。さすがは、評判の高いコンビに満席の活況。前半のエルガーのチェロ協奏曲。生で聴くのは3回目ですが、演奏はともかく、2管の小編成ゆえに?音が全く飛んで来なかった最悪のNHKホール。音響は素晴らしいのですが、ソロががっかりだった前回の音文。そして、三度目の正直か、音響も演奏も申し分なし。ドイツ・カンマーフィルの首席も務めるというソリストのターニャ・テツラフ。遠目にはケネディ駐日大使に似て、深紅のロングドレスがステージに良く映えます。決して派手さはありませんでしたが、哀愁溢れるエルガーには渋く滋味のある彼女の演奏が似合いました。インバルは決してサポートに徹するのではなく、時に対峙しながら緊張感ある伴奏。生のエルガーを始めて堪能しました。カーテンコールに応え、バッハの無伴奏組曲第3番から第4曲サラバンド。
 休憩をはさみ、お目当てのシューベルトの交響曲第8番ハ長調「ザ・グレート」。同じ調性の6番と区別すべく「大」ハ長調としての「グレート」と云われますが、“Great!”そのものの意味でも良いのでは?と思えるほど壮大なシンフォニーでもあります。
シューベルトがウィーン楽友教会にこの曲を送り(1826年)、協会はパート譜まで起こしながら何故か演奏されずに埋もれてしまったこの交響曲。シューベルトの死後、シューマンが彼の遺品の中から譜面を発見し、盟友だったメンデルスゾーンが指揮者を務めていたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管で初演されたという伝説のシンフォニー。その第4楽章には、後年 “第10交響曲”と称されるブラームスの第1番(1876年完成)よりも50年前に、ベートーヴェンの第九の第4楽章の主題を連想させるメロディーが登場します。
前半のエルガーと同じ2管編成ながら、ホルンが4本、木管も各4本と増強(倍管)されています。そのホルン2本の特徴ある序奏で始まる第1楽章。第2楽章のオーボエソロが実に柔らかく美しい。
全体的に意外とゆったりしたテンポでしたが、緊張感に溢れ、またベーム&SKDのライブ録音もそうでしたが、失礼ながらマエストロも80歳という年齢を全く感じさせない実に瑞々しい演奏でした。また3階席から眺めると、コンマス矢部達哉氏率いるオケも、前のめり気味に切れ味鋭くマエストロのタクトに全身全霊で応えているのが良く分かります。しかも、驚いたことに第4楽章ではマーラーの「巨人」張りに木管のベルアップ奏法も・・・。マエストロの指示なのでしょう、きっと。
この緊張感、真摯な演奏が、インバル&都響をして近年名コンビとして評価される所以なのでしょうね。この日も“インバル信者”が多かったのでしょう。多くのブラヴォーが掛かり、カーテンコールが繰り返されて、マエストロがコンマスに退場を促して、拍手の内にお開きに。
 初めて生で聴いたザ・グレート。「うん、良かった!」
インバル&都響コンビに大いに満足でした。
【追記】
翌11日は、後輩から誘われて「冬の旅」全曲演奏会で安曇野へ。
思いがけず、シューベルト三昧の二日間となりました。