カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
話が前後しますが、11月18日火曜日の夕刻6時半。
市内高砂通り(人形町)にある瑞松寺というお寺さんで、「松本落語会」の11月例会として「二つ目会」が開かれ、柳亭小痴楽さんが登場するとのこと。例会は平日開催なので、普段だと間に合いませんが、この週は特別休暇を頂いていたので、初めて松本落語会を聞きに行くことにしました。
奥さまは「落語には全く興味無し!」との即答につき、生憎の本降りの雨の中を送ってもらって、独りで行くことに。
生落語は、松本に歌丸さんと円楽さんが二人会で来られ、市民芸術館へ聞きに行ったのが唯一。そこで、歌丸師匠が「どうらく息子」にも登場する「紺屋高尾」を演じられ、初めて生で聞くことが出来ました。そこで、落語は「音」だけではなく、音の無い「間」や噺家の「表情」を含めた、総合芸術としての話芸なのだと改めて認識した次第(「音」でしか知らない、小さん師匠の「禁酒番屋」や志ん朝さんの「愛宕山」などは、その好例なのでしょう)。
調べて見ると、松本落語会は地方の落語会の草分け的存在とか。数年前に他界された先代の会長さんが勧進元となって、オイルショックの時に「街を明るくしたい」と1973年に創設され、時には私財を投げ打って40年以上も毎月例会を開催し続けて来られたのだそうで、落語界では有名な存在なのだとか。しかも演目は古典落語が中心とのこと。知りませんでした。東京に行かなければ聞けないと思っていた生落語を、毎月松本でも聞くことが出来ます。市民としては有難いことです。
落語会の会場となる、瑞松寺は源智の井戸のすぐ横。落語会の開かれる日だけは、“骨の髄から笑ってもらう寺”として、粋に「髄笑寺」と記載されています。この日の例会が、実に数えて第478回の由(再来年には500回!)。
柳亭小痴楽さんは、「どうらく息子」でも取り上げられている「NHK新人落語大賞」(“二ツ目”の中から東西の予選を勝ち抜いた5名が本選に出場)の今年の準優勝者で、優勝者とは僅か1点差。たまたまその放送を視て、彼の話し振りに感心し興味を持ちました。しかも、五代目柳亭痴楽の息子さんで、高校を中退し16歳で父親の元に弟子入りした直後に師匠が倒れ、その後別の師匠に預けられますが、前座時代に寝坊癖でナント破門。別の師匠の元に移ったのだとか。そんな紹介通りに、今風の、謂わば“チャラ男”風の、パーマ頭のイケメンが登場。しかし、演じたのがコテコテの古典落語「真田小僧」(持ち時間は各自11分のため、前半のみ)。その見た目とのギャップに驚くと共に、“ちゃんと”古典を演じるその姿に感動すら覚え、「おお、この噺家、ホンモノだぁ・・・!」。
父上の五代目痴楽師匠も、この松本落語会に出られたことがあるのだそうで、後でHPのネタ帳で確認をしたら、ナント第一回目に「小痴楽」の名で登場されていました。
前置きが長くなりましたが、例会では噺家(今回は二ツ目さん)が二人登場し、二題ずつ本寸法(注)で演じられるとのこと。木戸銭二千五百円を払うと、受付におられた事務局の方がリタイアされた会社の先輩で、お互いビックリ。本降りの雨のせいか、60人位は入れそうなお寺の広間に40人程でしょうか。やはりお客さんはお年寄りの方が多く、後方には足の悪い方のために椅子席も設けられていました。若い方は5人くらいしか見掛けませんでしたが、落研なのか高校生や若いOLの方たちも(頼もしい!)。
最初に、開会の挨拶で登場された会長さんもNHKの新人落語大賞(毎年、東京と大阪で交互に開催)に触れられ、「飽くまで私見ですが、もし今年が東京開催だったら、小痴楽さんが優勝していたのではないか」とのこと。
寄席らしく金屏風を背に作られた高座に、出囃子が流れる中、この日は最初に小痴楽さん。演目はお馴染みの「一目上がり」。まくらで、先程の生い立ちや前座時代の失敗談を話されてから本題へ。声に張りがあり、江戸弁はテンポが良くキレがあります。正統派の古典落語で、見た目とは大違い(まくらを含め、ちゃんと最後のサゲの「九(句)」まで40分の熱演でした)。
もう一人の二ツ目は、林家一門のはな平さん。大学の落研出身とか。31歳だそうですが、小痴楽さんの方が27・8歳でも先輩(兄さん)とのこと。
演目は、これも古典の「茶の湯」。CDでは聞いたことがありますが、ご隠居さんが点てたとんでもない茶を飲まされた時の表情は、やはり生ならでは。それにしても、一見“おとぼけ”顔のはな平さんの風貌が“与太郎”にお似合いで味があります(演目では小僧の定吉ですが)。「牛ほめ」なんかピッタリで、噺家向きでしょう。
寄席らしく、「お仲入り~」(注2)の声が掛かり、休憩中に出演されたお二人の色紙の抽選(残念ながら当らず)。
後半は、はな平さんが先ず「林家一門得意の地噺を」と「紀州」という演目で話され、トリに小痴楽さんが大ネタの「大工調べ」。全部演じられるかと期待しましたが、やはり時間の関係で前半(上)のみ。やはり、独演会でもないと上下全部を演じるのは無理なのでしょう。
この噺は、大家相手に大工の棟梁政五郎が切る江戸弁の啖呵が一番の聞かせ処で、早口で威勢良く延々とまくし立てる口調の見事なこと。啖呵が終わると、期せずして拍手が起こりました。イヤ、この人、ホンモノだぁ!
いずれは真打になられ、痴楽の名跡を継がれることでしょう。そして、師匠となって、また松本で演じられるのを楽しみにしています。
そして、毎月一回開催される松本落語会。平日開催なので、リタイアするまでは毎回は無理ですが、また機会を見つけて、“骨の髄から笑って”ストレス発散するためにも参加させていただこうと思います。
さて、今回の特別休暇。遠出の旅行は出来なかったものの、文学館、古典落語、美術館と、文化密度の大変濃い充実した一週間で、大いに英気を養うことが出来ました。
【注記】
「本寸法」(ほんすんぽう)・・・落語から出た言葉で、本来の寸法という意味から、省略せずにキチンと演じること。そこから発展して「本格派」の意味でも使われるとのこと。
「仲入り」・・・休憩時間。大相撲では「中入り」と書くが、寄席や落語会では「仲入り」。客席にお客さんがたくさんいるように、縁起を担いで「ニンベン」を入れるとのこと。