カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
松本市美術館で開催中の特別展「橋本雅邦と幻の四天王」。
嬉しいことに、11月12日の日経の文化面に『画家・孤月の足跡を照らす~大観らと新しい日本画を創造、悲運の生涯をひもとく~』と題して、元松本市美術館館長の佐藤玲子氏が寄稿され、地元市民有志による「孤月会」による孤月作品や資料の“発掘”を中心に大きく紹介されていました。
前回(第1032話)紹介させていただいた春草の「落葉」や、入れ替えで後期展示されている「黒き猫」(いずれも永青文庫蔵の重要文化財)同様に、孤月が東京美術学校助教授時代に制作したという彼の代表作「春暖」(藝大美術館蔵)も、今回生まれ故郷に里帰りをしています。
二度目の鑑賞となる今回は、美術館窓口でのアドバイスで、リピート割引で鑑賞させていただきましたが、11月20日の金曜日の午後行われた学芸員の方による「ギャラリートーク」に合わせて再訪しました。
この企画展のギャラリートークは3回共平日開催で、一応定員20名とのことですが、この日は地元出身故の“孤月人気”か、時間までに50名ほどが集まり、美術館のスタッフの方々もビックリされていました。そのため、通常は無線付きのイヤホンで説明を聞くのですが、数が足りないので、今回はハンドマイクを使って台車に載せた拡声器を展示室毎に移動させながら行われました(スタッフの皆さん、ご苦労様でした)。
説明をされた学芸員のSさんも言われていましたが、どうしても松本出身の孤月贔屓になってしまうという前提で、孤月を中心とした説明。
4人が美術学校時代の習作で描いた中で、孤月の「兎」の毛並みの描写の見事なこと。竹内栖鳳の「斑猫」を彷彿とさせます(否、負けていない!)。これらは廃棄されていた生徒たちの作品の中で、「後年、他の三人は高名だったため良い作品が人手に渡ったのに、孤月は無名だったために残ったか、或いは他のメンバーよりも優れていたのか・・・出来れば後者だったと思いたいですね」とのこと。
そして、美術学校の助教授時代に描いた大作「春暖」(藝大美術館蔵)の素晴らしさ。正に彼の代表作だろうとのこと。
また、「落葉」との入れ替えでの後期展示の目玉、春草の「黒き猫」は、猫を写実的に、背景の黄葉した柏は日本画の伝統に則って装飾的に描かれているのだそうです。その描かれているフワフワした毛並みの黒猫には、何とも言えぬ魅力があります(この絵に感化された夢二は、しばしば黒猫を抱いた美人画を描いています)。映像の世界では“闇夜のカラス”をちゃんと映せるかがポイントだと云いますが、この春草の“黒”は、本当の黒色を出すために裏側からも墨で彩色をしているのだそうです。
そして、最後に孤月の松本市美術館蔵の「台湾風景」(掲載の写真は山種美術館蔵)。
孤月が台湾を訪れた際に、画面中央に小さく書かれた現地の製糖会社の依頼で描かれたものだそうです。学芸員の方に、山種美術館蔵の同名作品との違いをお聞きしました。今のところ、「台湾風景」で確認されているのは2点だそうです。双方構図は似ていますが、左右のヤシの本数や、使われている絵具が異なり、山種蔵の方が少し明るい色調とのこと。そして、知りませんでしたが、何年か前に松本市美術館で開かれた孤月の回顧展では、二点並べて展示をされたそうです。
また、孤月の代名詞とも言える「月下飛鷺」。今回も2点が並べて展示されていました。「朧月夜に寂しげに舞う鷺に、孤月自身を重ねたのではないか」と良く言われますが、説明に由れば現在同名の作品は6点確認されていて、孤月にとっては唯一指定されて注文を取れた作品ではなかったかとのこと。
駆け足で一時間ほどのギャラリートークが終了し、何気なく独り言的に「素晴らしいですね・・・」と漏らすと、隣におられた初老の紳士が「そうですね!」と頷かれ、お聞きすると、春草の「黒き猫」(実物をご覧になるのは40年振りだそうです)を見るために、わざわざ飯田から来られたのだとか。他にも、長野から来られた方もおり、松本だけでなく全県から集まって来られたことを知りました。
ギャラリートークの後、改めてじっくりと鑑賞するために、皆さん展示室に戻って行かれました。
松本市美術館の「橋本雅邦と幻の四天王」展。
師の雅邦と、孤月を含めたこの四人が揃って展示されるのは、松本以外では恐らくないでしょう。その意味で本当に幻なのかもしれません。
今日(27日)午後二時から、最後となる三回目のギャラリートークが予定されている筈です(事前予約不要で、10分前に集合。入場券のみで聴講無料)。そして、この企画展の開催期間は残りあと二日。29日が最終日です。是非ご覧になってください。