カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 これまで県外のお客様を観光がてら案内したりして、何度か訪れた木曽路の名店「時香忘」(今回掲載の写真は、以前訪問時のモノを流用)。
これまで、オヤマボクチ(注)の蕎麦ばかりだったのですが、こちらには“夜明けそば”と名付けられた、一日10食限定という“変わり蕎麦”があります。
中京方面を中心に、県外からのお客さんが常に順番待ちをしている行列店ですし、その限定数故今まで一度も食べたことはありませんでした。しかも、連休などの繁忙期は提供無しだそうですので、謂わば本当の“幻の蕎麦”でしょうか(因みに、入口の看板にも「幻の蕎麦」とありますが、これは、県内では飯山の富倉地区に伝わる、オヤマボクチの葉脈をツナギに使う珍しいオヤマボクチ蕎麦を称して)。

 シルバーウィークの狭間の平日。たまたま会社からお休みをいただきましたが、その日は前日までの連休中の好天がウソだったかの様な、朝からの雨。外の仕事も出来ませんし、行楽にも生憎の日和です。やることも思い浮かばず、「ホンジャ、日帰り温泉でも行ってみる?」。と、そこで天啓!?
「ん?これなら、もしかすると10食以内に入るかも・・・」
と、話のタネに雨の中を木曽福島まで行ってみることにしました。
松本からは車でほぼ1時間半。開店の10分前に到着すると、20台位停められそうな広い駐車場に車は一台も無く、「えっ、定休日!?」
入口の案内板にはそうした掲示が無かったので、暫し車の中で待っていると時間通りに開店し、「ヤレヤレ」。
いつもの順番待ちがウソの様に、お客さんは我々のみ。何度も来ていますが、初めての経験です。誰も居ない静かな店内は、余計フレンチの様な佇まいに感じます。木曽川に注ぐ、清流黒川沿いの木立を望むベランダ側の席へ。里山の紅葉にはまだ早いのですが、しっとりと濡れたホウノキが目に鮮やかで、雨の木曽路も風情があります。
ところが、この日は“夜明けそば”の提供は無しとのことで、ガッカリ・・・。
結局、いつものオヤマボクチの粗挽き(当然大盛り)にしました(季節的に、新蕎麦は未だですので、寒晒しです)。
最後に供される特製のドロドロのそば湯(これだけで十分に一品になります)も含めて、今回も美味しくいただきました。
 この日はお客さんが少ないので(途中、県外のお客さんが一組来店)、会計の時に珍しくご主人も挨拶に出て来られ、暫し歓談。
何でも、双方十割の黒い田舎と白い更科を二枚重ねて薄く伸ばす“夜明けそば”は、作るのがとても大変で、3回に一度位しか満足いく蕎麦が打てず、その時は店には出さずに捨ててしまうのだそうです。
二つの性質の違う蕎麦を合せるのは、温度や湿度などその日の気候によっても異なり、どちらかに合せると、延ばした時に一方が破れてしまうのだとか。
「本当に大変なんです」と仰る言葉に実感がこもってらっしゃいました。
夏からシルバーウィークまではお客さまで大変だったので、「体力と気力が戻ったらまた打ちますが・・・」とのこと。
元々、「繁忙期には提供出来ません」とメニューにも記載されています。考えてみれば、平日とは言え、未だ繁忙期だったか・・・。

 これから新蕎麦の季節を迎えれば、また混雑していつもの行列店に戻ることでしょう。
いつ頃とも仰らなかったので、ここは気長に、そして運良く食べられる日が来ることを楽しみに待つしかなさそうです。
【注記】
オヤマボクチ(雄山火口) はキク科のヤマボクチ属の多年草。アザミ類であるが、山菜として根が“ヤマゴボウ”と称される。
語源は、茸毛(葉の裏に生える繊維)が火起こし時の火口(ほくち)として用いられたことから(以上Wikipediaより抜粋)