カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 日本在住のロシア人ピアニスト、イリーナ・メジューエワさん。
楽譜に込められた作曲家の意図を正しく伝えるために、(勿論暗譜もした上でだと思います)必ず譜面を見て演奏するという、その生真面目な人柄と、深い精神性が感じられる演奏に惹かれ(第721話)、一度是非生演奏を聴きたいと思っていました(小菅優さんも然りですが、華麗な技巧派よりも、むしろ内省的なピアノに惹かれます)が、これまで松本では聴く機会がありませんでした。
 彼女は演奏家としてだけではなく、2012年からは京都市芸大で講師として教えているらしく、何と偶然にも京都での研修が終わった日の夜、地元でコンサートがあると知り、もしこれを逃すと生で聴く機会も無いと思い、事前に予約をしておきました。場所は上賀茂にある京都コンサートホールの小ホール。北山の府立植物園に隣接する郊外ですが、京都駅から地下鉄で15分足らずでしょうか。最寄りの北山駅からも徒歩3分で、生憎の雨の中でしたが、屋根があるアプローチで濡れずにアクセス出来ました。パイプオルガンを備えるという大ホールは京響の拠点ですが、学生時代の京都には岡崎の京都会館くらいしかありませんでしたので、立派なホールが出来ました。

 10月31日に行われたピアノリサイタルは、「第18回京都の秋音楽祭」の一環とか。
プログラムは、モーツアルトの幻想曲(K396)と10番のソナタ、ショパンのト短調のノクターンとバラード(第3番)。休憩を挟み、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とソナチネ、そしてラフマニノフの前奏曲から5曲という多彩な構成。衣装も派手なロングドレスではなく、地味なスーツ姿で、むしろ清楚で(個人的には)好感が持てます。

 最初の幻想曲こそ、緊張か、ミスタッチも目立ちましたが、その後は情感豊かな音が紡がれていきます。楽譜の指示通りということですが、他のピアニストの暗譜での演奏よりも、むしろディナーミクもアゴーギクも、その変化がより豊かに感じられます。“ロシアの妖精”とも評された(今でも十分お綺麗です)華奢な体のどこに?と思えるような、時に力強いタッチもありながら、ロシアピア二ズムの系譜に連なる彼女のピアノは、一音一音に意図が込められ、精神的で、まるで指先に作曲者の精神と魂が宿っているかのようにさえ感じられます。そして、良く聴き慣れた曲も、もっと大きな構造物であったことに気付かされます。特に、ラヴェルとラフマニノフは感動的でした。
我々は前から二列目の左側で、514席という小ホールはほぼ満席の盛況。後ろの席で、京都市芸大の教え子の皆さんなのでしょう、女学生さんが「レッスンの時とは、先生の弾き方が全然違う・・・」と唸っておられました。

 鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコールに4曲も弾いてくれました。
ラフマニノフの「リラの花」、ラヴェル「プレリュード」、ショパン「マズルカop67‐4」、最後にラヴェル「かなしい鳥」。
休憩時間に、折角なのでサインを貰えたらとCDを探したのですが、録音が古いためか、欲しかったシューマンやシューベルトが無く断念。
やはり地元では人気で、終演後40人近い方がサイン待ちの列を作っていました(いつか、松本の音文にも来てくれると嬉しいのですが・・・)。

 奥さまは、昨年思いがけずも茅野市民館で聴けた(サインもしてもらった)、これまた内省的な小菅優さんのピアノ(第788話)の方が良かったそうです。
でも、研修で京都に来た最終日に、これまた思いがけずも京都で、念願のイリーナ・メジューエワさんの生演奏を聴くことが出来たので大感激。
日本人の旦那さまと結婚されて、97年から日本に住まわれ、我々日本人以上に能楽や歌舞伎などの日本の古典文化にも造詣が深いというイリーナさん。
こんな素敵なピアニストが、日本を拠点に活躍されていることに感謝した夜でした。