カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 ただ座っているだけの(≒連れて行っていただいて、都心でのコンサートが楽しめる)“極楽気分”に味を占め、3回連続での参加となった、今年の音文(松本市音楽文化ホール)会員向け“ハーモニーメイトバスツアー”が6月21日に行われました。今年の行先は、すみだトリフォニーホールです。
今回は、注目の俊英ダニエル・ハーディング(Music Partner of NJP)指揮の新日フィルの第526回定期演奏会。これまた注目のイザベル・ファウスト独奏でのヴァイオリン協奏曲と交響曲第4番のAll Brahms Vol.2。前日が夜で、今日がマチネですが、チケット完売の由。

 “ブラ4”は、学生時代に、2番目か3番目に(LPを)買った大好きな曲。サガンではありませんが、当時ネクラな学生は、何となく渋いブラームスが好みでした。LP時代に全曲を揃えた交響曲では、ブラームスらしい3番と4番が好みで、とりわけ4番は大好きな曲。最初に買ったLPはカラヤン&BPOで確かに名人芸でしたが、やがて好みはドイツ的なザンデルリンク&SKドレスデンへ。よりブラームスらしい渋い演奏に惹かれていったように思います。
結果、学生時代に揃えたLPは、1番と3番がケンペ&ミュンヘンPO、2番がワルター&コロンビアSO、4番がザンデルリンクとカラヤンでした(CDは、多分シンガポールで買ったオザワ&SKOの海外盤がありました。また、ここでクラシックプレミアムからクライバー&VPO盤が配本)。
ブラームスの魅力は、何と言っても、交響曲第3番の第3楽章や弦楽6重奏曲第1番の第2楽章に代表されるような、晩秋を想わせるメランコリックなメロディーと、一聴でそれと分かる分厚い弦の響き。更に、「ハイドンの主題による変奏曲」に代表される、寄木細工の様に緻密に幾重にも組み合わされた変奏の名人芸・・・でしょうか。

 朝、ハーモニーホールに集合し出発。今回は定員一杯とか。
往路のバスの車内では、恒例の自己紹介と、音文の制作ディレクターNさんからの当日の演奏会プログラムのレクチャー(結構詳しく且つ専門的内容)も大変興味深く、あっと言う間に錦糸町に到着。
今回のソリストを務めるイザベル・ファウスト嬢は、ハーディングとマーラー室内管(MCO)で既に同曲を録音しており、通常のヨアヒム(ブラームスの親友で、完成に向けて助言を行い、ブラームス自身の指揮で彼の独奏により初演)版ではなく、珍しいブゾーニ版でのカデンツァを今回も弾くだろうとのことで、幾つかのカデンツァの聴き比べとMCOとの全曲を車内で聴かせてくれました。参加されたメイトの皆さんはファウスト目当ての方が多かったようで、人気の程が伺えました。
 パガニーニ国際コンクールの優勝者でもある彼女の愛器は、“Sleeping beauty”との愛称を持つストラディヴァリ(ドイツ銀行からの貸与とか)。
一階の前列でしたので、ソロを聴くには恰好の席。
イザベル・ファウストのヴァイオリン。驚くべきは、今まで生で聴いた中では出色と言える音の透明感と音程の確かさでしょうか(娘のように絶対音感は持ち合わせていませんが、私も耳だけは良いようで、ピアノと違って音がふらつくのが嫌で、これまで生ヴァイオリンはあまり聴いていません)。
彼女の演奏は、(モダン楽器ですが)ヴィブラートをあまり掛けず、知的で切れ味の鋭い“エッジの効いた”音なのに決して冷たくはなく、むしろ気品のある暖かな音色。消え入るような弱音も、ぴんと張った糸のように全くふらつくことなく、どんなに早いパッセージも見事な音程で弾き切ります。そして、全く“雑音”が無い。何という透明感(こんなヴァイオリンなら、ずっと聴いていたい!)。
また、初めて聴く、ティンパニーのトレモロが入るブゾーニ版のカデンツァもお見事。Obソロ(主席の古部賢一さん)の甘い旋律を受け継いだ第二楽章も溜息が出るほど美しく、不覚にも目頭が熱くなりました。ハーディング指揮のオケも、弱音部でも彼女のヴァイオリンが浮き出るような息の合ったサポート振り。終了後、ブラヴォーが飛び交うのも当然の見事な演奏でした。鳴り止まない満場の拍手に応えてのアンコールは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番からラルゴ。これまた弱音が、溜息が出るほど美しい・・・。客席も、息をひそめて聴き入ります。休憩中に隣の奥様が、うっとりしながら「ジュリー・アンドリュースみたい」(想像するに、“The Sound of Music”での彼女をイメージして)と呟いたのも、彼女の知的でノーブルなドレス姿と相俟ってのナルホドでした。
なお、第一楽章終了後、おそらく確信犯的(!?)ブラヴォーとそれに釣られての拍手が起き、興醒めした客席のひんしゅくを買いましたが、ファウストとハーディングは顔を見合わせて苦笑いを浮かべていました。感動が分からぬではありませんが、身勝手な振る舞いは厳に慎むべきでしょう。
 休憩後の交響曲第4番。
第3楽章を除き、今まで聴いたこともないような遅めのテンポでした。ただ、全体に緊迫感はあり、また大きなうねりを感じさせるようで、それ程間延びした感じではなかったのですが、アタッカで入った第4楽章など、逆にもっと粘っても良いのにと思えました。またオケも、第2楽章冒頭のホルンも少々危なっかしかったし、ブラームス的には弦にもう少し厚みが欲しかった気がします。ハーディングは、第3楽章辺りから時折唸りながらの熱演。渋さとは無縁の、ブラームスにしては劇的な4番だったでしょうか。いずれにしても、私の趣味ではありませんでした。

 終了後、全員が集合するのを待っていると、ロビーには2階まで続く長蛇の列。ファウストとハーディングのサインを待つ人たちで、お二人の人気の程が伺えました。
Nさんによれば、2016年にイザベル・ファウストを音文に呼び、バッハの無伴奏を演奏してもらう前提で交渉中とか。もし実現したら、是非聴きに行きたいと思います(その前に全曲盤のCD買おうかな?と思いましたが、どうせなら、その時に買ってサインしてもらオ!・・・っと)。