カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 祥伝社文庫の書き下ろしシリーズである野口卓著「軍鶏侍」第5巻。
それまでに比べ、第4作である「水を出る」が残念ながら今一つだった(第835話参照)のですが、ここで出た第5作となる「ふたたびの園瀬」は、前作同様に短編集ながら、第3作までに感じたこのシリーズの特徴であろう暖かさと読後の爽快感が戻った気がしました。
 設定こそ藤沢周平の「海坂藩」に似て、軍鶏侍は「園瀬藩」となっていますが、故郷庄内地方に置いた「海坂藩」の東北らしい凛とした静謐さとは対照的に、やはり著者の出身地である四国徳島に設定したであろう「園瀬藩」(吉野川水系で、徳島市内を流れる一級河川に園瀬川という名称あり。但し、作中では、藩内を流れる川には花房川という名称が付けられている)は、むしろ瀬戸内の穏やかさが登場人物の暖かさをも感じさせてくれる作品となっています(「海坂藩」を連想しても、第835話で取り上げた葉室鱗の「蜩之記」で感じる既視感とは別世界です。因みにこちらは豊後の羽後藩という設定)。

 そして、「飛翔」(第639話)もそうでしたが、「水を出る」や「ふたたびの園瀬」でも、主人公“軍鶏侍”こと岩倉源太夫始め、下僕の権助や妻みつなどを通じて描かれる、少年や若者の成長する姿を見つめる作者自身の目線が柔らかで、中年オヤジとしては「斯く在りたい」と感じさせてくる作品でもありました。次作にも期待大です。

コメント

コメント追加

タイトル
名前
E-mail
Webサイト
本文
情報保存 する  しない
  • 情報保存をすると次回からお名前等を入力する手間が省けます。
  • E-mailは公開されません - このエントリーの新規コメント通知が必要なら記入します。

トラックバック