カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
どの世界でも、人一倍の努力をし、名を成した人の言は一聴に値するにしても、尚且つ名文家というのはそうは多くないもの。しかも、物書きとはある意味対極にあるスポーツ界では尚更ではないでしょうか(全く競技経験も無いのに、訳知り顔でエラそうに書く某スポーツライターのことではありません)。
そんなスポーツ界にあって、以前から「名文家だなぁ」と個人的に感心させられていたのが豊田泰光さんです。ご存知の通り、水戸商業から当時の西鉄に入団し、稲尾、中西等と共に知将三原監督の元、ライオンズの黄金時代を担った一員。
その氏が、週刊ベースボールに10数年に亘って掲載した見開きのコラム(『豊田泰光のオレが許さん』)に、以前毎号掲載していた記事を時々拝読し、その筆力にいつも感心していたのですが、最近では、日本経済新聞のスポーツ欄に週一回のコラム『チェンジアップ』を執筆されいきました。そして、今年79歳になられるのを機に、足掛け16年に亘ったというその執筆を「筆を折る」こととし、12月末を以ってライターとしても引退されました。
豊田さんは、野球選手や引退後のコーチ(確か当時のサンケイ)を辞められた後で、新聞社のスポーツ紙に野球評論家として執筆することになり、最初は新聞社の担当の方々に真っ赤になるほど原稿を添削され、自身の野球以外の無知を恥じ、その後本を漁る様に読んだり必死に勉強をされたりしたのだとか。元々文才をお持ちだったのでしょうが、そんな努力もあってか、なかなかの文筆家でした。特に感心させられたのは、文章の「起承転結」の中でも、そのスポーツで超一流の人ならではの、事実としての経験に裏打ちされた「転」の面白さ(意外性)と「結」の説得力。
また、決してご自身の専門であるスポーツのことに留まらず、そのスポーツを通じながらも、普遍的な躾や子育て、ビジネス(プロとして金を稼ぐ)や経営、学校教育など多方面に渡り示唆に富むことが(但し、随分頑固そうですし、その発言から過去も色々舌禍もあったようですが)書かれていて、「なるほどなぁ」と納得し、「上手いなぁ」と感嘆しきりでした。
どんなジャンルであっても、その道で一流を極めた 人の言は、その道を通じての一流の教育論であったり、経営論であったり、そして人生論までも拡がっています。その根底に流れていたのは、最後の12月26日のコラムに記されていた「野球には品格と気骨が必要」という件(くだり)同様に、氏自身も「品格と気骨の人」であったような気がします。日経も最後のコラム(豊田さんへのインタビュー記事)に寄せて、『(豊田氏の)辛口評論は野球界への愛情の裏返しだった。』とその序文で結んでいました。
スポーツ界では、もう一人感心したのが、四年ほど前だったでしょうか、同じく日経の『私の履歴書』に連載されたゴルフの青木功氏。
私自身はゴルフはやりませんので技術的なことは皆目分かりませんが、日本のゴルフ界で初めて海外に飛び出した「世界の青木」の一面、内面が垣間見えた気がしました。書くことにあまり慣れておられないのか、文章は先述の豊田さんほどこなれてはいませんでしたが、内容はこれまた一流の教育論であったり、経営論であったり、そしてまた人生論でありました。
因みに、例えば日経新聞『私の履歴書』への執筆者で言えば、失礼ながらその後の、例えば最近政界で再びお名前が出た細川護熙元総理よりも遥かに面白く読ませていただきました(記憶の範囲ですが、「私の履歴書」でこれまで一番面白かったのは、読売新聞主筆のナベツネさんこと渡辺恒雄氏。また感動したのは、味の素会長の故江頭邦雄氏。そして、頭に来て途中で読むのを止めたのは作家の渡辺淳一氏でした)。
豊田さん、長い間お疲れ様でした。またどこかで、スポットでの辛口評論を読ませていただけることを期待しています。