カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
些か時間が経ってしまいましたが、昨年末の、暮れも押し迫っての12月21日の土曜日にマチネで行われた、ザ・ハーモニーホール(松本市音楽文化ホール。略称“音文”)での、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の松本公演。
今回は、OEKによるベートーヴェンの交響曲全曲演奏の棹尾を飾っての第5番「運命」。音楽監督の井上道義氏が松本でOEKを振るのは初めてで、且つ運命は日頃演奏されない(「好きではない」との由)そうですが、そこを音文の企画ディレクターのNさんが「最後の一曲だから」と何とかマエストロを口説き落としたのだとか。また、カップリングのブラームスの“ダブルコンチェルト”も、ソリスト2名を一曲だけのために揃えるのは不経済なのでしょう。演奏会で取り上げられるのは珍しい曲目です。
30年以上前でしょうか。帝王カラヤンだからこそ実現できたであろうBPOを振ってのベートーヴェンのトリプルコンチェルト。ソリストには、オイストラフ、ロストロポービッチ、リヒテルという当代きっての大物を揃えて大いに話題となりました。これに対抗して、セルが手勢のクリーブランド管で、オイストラフ、ロストロポービッチを迎えて録音したのがブラームスのダブルコンチェルトでした。今回は、OEKのチェロ首席奏者であるチェコ出身のルドヴィート・カンタ氏とそのご友人のヴァイオリニストのエヴァルト・ダネル氏(元スロヴァキア・フィルのコンマス)がソロを務められます。
そのため、レジデンスオーケストラでありながら金沢でも滅多に聴かれない曲目とのことから、今回はOEK会員の40名の方々も団体でわざわざ松本まで山を越えて聴きに来られていました。
待ちに待った二年振りとなるOEK松本公演に、最初の団員の登場から最後一人の退場まで、客席からは暖かな拍手が鳴り止みませんでした。
演奏は、先に“運命”で、休憩を挟み後半に“ダブルコンチェルト”。休憩時間中に、マエストロがマイクを持ってステージに来られ、笑いを誘いながらの軽妙なトークで、OEK会員の方々や曲紹介も。最近の指揮者は、飯盛範親さんも然りでしたが、指揮だけではなく、演奏会全体を盛り上げる工夫や努力をされています。生で井上さんの指揮振りを見るのは初めて。失礼ながら流麗とは言いがたく、意外とギクシャクした棒ですが、力強い棒でありました。その風貌もあって、エンターテナーなマエストロです。休憩中のトークで、「あんまりやらないんだけど、今日の運命は良かった!」と仰っておられましたが、3楽章から間髪入れずにアタッカで入った4楽章まで、メリハリのある小気味良い「運命」でした。
ホールの器とその響きもありますが、木管などは一本なのに、OEKは迫力を感じます。700席の音文には、編成以上にパワーがあり弦も艶やかなOEKはうってつけ。金沢と松本は友好都市でもありますので、毎年の来演を期待します。
ブラームスの最後の管弦楽曲でもあるダブルコンチェルトの後、ソロお二人でのアンコール。日本語で「BBと来たので、3Bのもう一人の曲を・・・」と前置きされて演奏された短い曲。「どこかで聞いた曲だなぁ・・・」
思い出したのは、娘たちがピアノを習っていた頃耳に馴染んだ、バッハの「ミュゼット」でした(何故か、いつものような張り紙でのアンコール曲紹介はありませんでしたが)。
音文らしい、心暖まるコンサートでした。
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