カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 (前回に引き続き小布施の話題から)
 小布施に来たら、どうしても行ってみたいところがありました。
それは、町立の『おぶせミュージアム・中島千波館』。小布施出身の日本画家、中島千波の作品を展示する美術館です。

1945年に疎開先だった小布施に生まれた中島千波は、日本画家中島清之を父に持ち、母校の東京芸大の教授(今年3月に退官し、現在は名誉教授)も務めた現役の日本画家。“桜の千波”と称されるように、桜花図で知られ、時々新聞にも複製画の頒布広告が掲載される人気画家です。

 1992年に町立美術館として開設された「おぶせミュージアム」の目玉として、画家本人から寄贈されたというデッサンなども含む1000点の作品が収蔵され、企画展で都度内容を変えながら常設展示されています。この日は、始めて訪れる私には好都合なことに、「中島千波の全貌~花鳥画、挿絵、版画から人物画まで」と題した特別展がちょうど開催されていました(10月11日より12月10日まで。入館料500円)。
 シュールレアリスムなど洋画の技法なども意欲的に取り入れた、挑戦的な日本画家であるというプロフィールにあるような、人物を描いた抽象的な作品などもありましたが、やはり個人的に魅了されたのは、桜、牡丹、紅葉、花菖蒲などの花鳥画。とりわけ、画伯の代名詞でもある桜は、四曲一双の屏風から額に入った絵画など5点が展示されていました。
代表作と云われる「素桜神社の神代桜」、「樹霊淡墨桜」、「坪井の枝垂桜」などなど。また特別展のチラシを飾る「信濃の秋」は、地元紙信濃毎日新聞社創刊140周年記念の扉絵とか。それと、太い下仁田ネギのようでしたが、瑞々しさと力強さに溢れた「御葱」(写真は、ショップにあった桜の全作品。今回は「滝桜」の展示は無し)。
テーマ毎に部屋を分けた展示室には、そう言えば見たことがある「文芸春秋」やNHKの「きょうの料理」や「趣味の園芸」などの表紙絵の原画の数々も。
 休日だというのに、鑑賞中館内には10人ほどでしょうか。お陰で、じっくり、ゆっくりと見られたものの、町の中心部からは少し歩くので、“北斎と栗の町”での観光バスの見学ルートには入っていないのか、或いは“知る人ぞ知る”なのか、何とも勿体無い気がしました。

 見終わってから、何だか呼び戻されているようで、もう一度最初の展示室の桜の屏風の前へ。薄墨を流したようなバックに浮かび上がる名木「淡墨桜」(岐阜県根尾谷の樹齢1500年というエドヒガン。今回展示の無かった福島県三春の「滝桜」、山梨県武川の「山高神代桜」と共に、日本三大桜と云われる国の天然記念物)や、隣接する高山村(“シダレザクラの郷”として知られるそうです)にある老木「坪井の枝垂桜」(樹齢650年とか)。そして、長野市にあるという「素桜神社の神代桜」(同天然記念物。樹齢1200年というエドヒガンの古木)。
我々人間の小さな悩みなどあざ笑うかのような、まさに風雪に耐えた老木の太い幹の存在感。一方で、画面を覆う一面の桜花の中に、そっと見え隠れする鮮やかな緑の若葉。樹齢千年の老木の見せる若々しい生命感。人間の小さな煩悩など吹き飛ばしてくれるような、そんな圧倒的な存在感です。
執念ともいえる細緻な点描にも似た、一枚一枚丹念に描かれた数千にも及ぶ花びらが、姿形だけではなく神が宿るような生命感までをも描き取った気がして、動けずに暫し絵の前で独り佇んでいると、自然と涙が浮かんでくるのを禁じ得ませんでした。この感動、山種で見た東山魁夷「年暮る」(第503話)以来かもしれません。
 美術館の方でしょうか、自然豊かな周囲の庭園の落葉を、我々が来た時からずっと掃除されていたご婦人に、「どうも、ありがとうございました」とご挨拶すると、「どうでしたか?」と問われ、自然と「はい、やっぱり桜の絵がとても良かったです。涙が出るほど感動しました!」。「あぁ、それは良かったです!」。

 一見の価値あり。この絵を見ただけでも、小布施に来た甲斐がありました。

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