カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 10月5日。すみだトリフォニーホールでの新日フィルの名曲シリーズ、「クラシックの扉」コンサート。今回は十束尚宏さんが振られるので、14時開演のマチネで日帰りも可能なことから、松本から聴きに行きました。安価で名曲を聴けるように、という趣旨だそうですが、今回は菊池洋子さんをソリストに迎えてのショパンの「ピアノ協奏曲第1番」と休憩を挟んでのチャイコフスキーの「交響曲第4番」というプログラム。       

 朝8時過ぎの高速バスに乗るため、松本ICに駐車(高速バス利用者は一日300円です)しましたが、この時間で既に広い駐車場もあと数台を残してほぼ満杯。立川停車のため普通のあずさが3時間近く掛かり、一方高速バスが3時間10分と所用時間にあまり大差が無くなったので、料金差を考えると、渋滞遅延のリスクのある大型連休や年末年始等を除けば、バス利用客が増えているのも当然かもしれません。今や高速バスがバス会社のドル箱とか。

 都内に近づくに連れて小雨模様になりました。ほぼ定刻通りに新宿駅西口に到着し、錦糸町に移動。すみだトリフォニーホールへは、駅ビル内などを通り、殆ど濡れずにアクセスできました。スカイツリー眺望で人気という東武ホテルが隣接。
窓口で予約してあったチケットを受け取り、入り口で都会の演奏会での(お上りさんの私メにとっては)楽しみでもある分厚い演奏会チラシ(信州まで持って帰ります!)を受け取り、一階席へ。席は、ステージ正面前寄りやや右手の通路側。ここからなら、十束さんの指揮振りも良く見られそうです(以上手配は全て奥さま)。
1800席の大ホールは、パイプオルガンを備えた3階席までのシューボックス型コンサートホール。内装に木が使われ、見た目にも響きが柔らかそうな印象。確か、ここは新日フィルと初めてのフランチャイズ契約で、以前話題になった記憶があります。そして、あの“3.11のマーラー”の舞台でもあります。
 2・3階席は見えませんが、(勝手に)心配した入りも1階席は殆ど埋まっており(確か、前日は平日だったのにA席は完売とのこと)、所々空席が目立つ程度。6月でしたか、新国立劇場での新作オペラ「夜叉ヶ池」の指揮を除けば、定期ではなく名曲シリーズのような演奏会とはいえ、現在ウィーン在住のマエストロ十束さんの国内メジャー・オケの指揮は久し振りの筈ですので、期待するファンもきっと多いのでしょう。斯く言う私メは、昨年のSKFのガラ・コンサートで振られた序曲を除けば、生でお聴きするのはシンガポール赴任中に客演されたSSO(Singapore Symphony Orchestra)以来、実に20数年振り。

 最初のショパン。この曲は、どうしても「のだめ」の楽壇デビューを思い出してしまいます(映画館で、上映開始まで第一楽章が流れていて、映画を見てその理由が分かりました)。
ソリストの菊池洋子さんは、腰まである長い髪と鮮やかな白のロングドレスが印象的。この細身の体のどこに?と思えるほどにパワーもあり、ショパンらしい旋律を紡いでいきます。確か彼女は、個性的なピアニストがその学校出身だと知り、高校卒業後の留学先に決めたというイタリアの片田舎に在るイモラ音楽院出身の筈(現在はドイツ在住)。僅か10歳で単身ドイツに渡った小菅さんといい、菊池さんといい、最近注目の日本の若手女性ピアニストたちの逞しさに敬服します。個人的には、オケ伴奏とソロリサイタルの違いはありますが、内省的な小菅さんの音の方が好み。この日はカーテンコールのみで、アンコールは無し。出来れば、生のピアノソロでのショパンも聴きたかったのですが、残念でした。ま、結構ショパンの1番は長いですし(特に第一楽章は或る意味冗長。この日は結構ミスタッチもあったし・・・。菊池さんを呼ぶならモーツアルトにすれば良かったのに)。
余談ですが、第一楽章が終わった後、十束さんがコンマスの方を何度か確認しながら、暫くしてコンマスからの合図で漸く第2楽章を振り始めました。「どうしたんだろう?」と、後で分かったこと。この日は、序曲などの演奏がなく、いきなりコンチェルト。しかもこの曲の第1楽章は長いので、終わってから遅刻された方々が入場し、席に着かれるのをコンマスが確認されていたようです(指揮者は客席に背を向けています。ナルホドと合点がいきました)。
      
 休憩を挟んで、お待ち兼ねのチャイコフスキーの4番。
久し振りの十束さんの指揮振りに酔いしれた、幸せな40分間でした。素人目にも的確で見事なバトン・テクニックによる、引き締まった演奏と圧倒的なディナーミク。
冒頭のホルンパートにやや不安定な部分こそあったものの、金管のファンファーレの迫力と重厚さの第1楽章に始まり、ロシアの香りを感じさせる第2楽章の深い叙情性と、ピチカート奏法の第3楽章でのシャープなリズム感。そして何より、第3楽章から間髪入れずに突入し、疾風怒濤とでも形容したい程に圧倒的な迫力とテンポで颯爽と駆け抜けた熱狂の第4楽章。
タクトが降ろされるや否や、ブラヴォーというよりむしろ「ウォー!」という叫びにも似た歓声と拍手でホールが包まれました。私も、オーケストラ演奏では久し振りに第一楽章から視界が曇っていました。
何度かのカーテンコールの後、アンコールは熱くなった会場を冷ますかのような「G線上のアリア」。個人的には、アンコール無しで良いので、あの興奮のままずっとマエストロを称えるべく拍手していたかった気もします。暫しの静寂に包まれたアンコールの後も、鳴り止まぬ拍手にカーテンコールが繰り返され、最後はオケの皆さんがコンマス以下客席にお辞儀をされて、お互いを労ってのお開きとなりました(この日のコンマスは崔文洙さん)。

 いやぁ、良かった。スカッとした!
やっぱり、イイなぁ!十束さんの指揮は・・・。
そりゃ確かに、オペラを振れなきゃ指揮者は一人前じゃないかも知れないけど、もっと日本で聴きたいヨなぁ!またどこかのメジャー・オケで十束さんを呼んでくれないかなぁ・・・。マーラーの1番振って欲しいなぁ!

 5番を生で聴きたくて行った、2年前の佐渡裕指揮ベルリン・ドイツ交響楽団(第549話)のチャイコフスキーよりも、個人的には良かったと思います。
さすがにお若かった20数年前と比べれば、普段の謙虚な人柄とはまるで別人のようにオケを鳴らし歌わせる音楽への一途な情熱はそのままに、更にそこに深さや重みが加わったように思います。でも、まだ指揮者としては50代半ばという若さ。人生の深みが音として表されるのは、むしろこれからでしょう。
 どうしてもその想いをマエストロに伝えたくて、無理やり楽屋へ押し掛けましたが、お知り合いの方々や他にもお客様が詰め掛けておられました。    
 地方から来るハンディを補って余りある感動に胸一杯で、二人黙って錦糸町を後にしました。途中、家内がボソッと、
「来て良かったね!」
「うん、・・・良かった・・・。」