カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
欧州にお住まいのお客様が、松本に10日間程滞在されるというので、半日市内観光にお供しました。
午後のご予定まで3時間ほどだったので、今回は遠出を諦めて中町などの街並み観光をしてから、一度お連れしようと思っていた女鳥羽川沿いの喫茶店『珈琲まるも』にご案内しました。老舗旅館「まるも」が私と同じ1956年に併設した喫茶店です。
今風のカフェに比べれば些か薄暗い店内で、板張りの床と使い込まれた松本民芸家具の椅子とテーブル。
客層は、今では観光で来られた方が中心ですが、30年前の独身時代、鶴林堂や遠兵で買って来た本を読みながら、好きなクラシック曲(当事は勿論LPレコードで、その時に流されている曲のジャケットがカウンターに立掛けられていました)をリクエストして、珈琲1杯で(嫌な顔もされずに)半日聴いていたあの頃と店内の雰囲気は全く変わっていません(さすがに、カウンターの中でいつもパイプを燻らせていたマスターはもうおられません・・・)。
そう言えば、高校時代の友人の多くが都会で就職した中で、農家の長男としてUターン就職した独身時代。田舎に戻った自分を卑下しながら、たまたまここで偶然手にした紀行エッセイの松本紹介に、『休日に「まるも」でゆったりと珈琲を飲み、毎日山を仰ぎ見ながら暮らせる松本の人たちは幸せだ。』というような主旨の文章があり、何だかその時の自分に直接云われている気がして、卑屈な心を洗い流してくれるかのように、すーっと胸に沁みていったことを今でも鮮明に憶えています。
私にとって、「ヨシ、この街で頑張ろう!」と前を向かせてくれた喫茶店でもありました。
お客さまも、チーズケーキとモカ系の酸味の効いた濃い目の珈琲を、欧州在住のためか「美味しい」と褒めて下さり、「そうでしょう!」と我が意を得たり。
「こんな喫茶店もあって、松本ってイイ街ですね」
「そうでしょう!・・・山とお城が無ければただの田舎町ですけど、ネ」
店を出ると、女鳥羽川越しに望む北アルプスは、残念ながら夏山らしく雲が掛かっていました。
「本当は、あの方角に常念が見えるんですけど、ネ」