カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
10月7日、リニューアルなったという池袋の東京芸術劇場での、読売日本交響楽団による後期3大交響曲でのチャイコフスキー・チクルス。
当日のプログラムは、幻想序曲「ロメオとジュリエット」に始まり、イタリア奇想曲と交響曲。大好きな5番を生で聴くのは、昨秋の佐渡裕指揮ベルリンドイツSO(第549話)以来2度目です。
読響名誉指揮者のゲンナジー・ロジェストヴェンスキー(通称ロジェヴェン)は、“ロシア最後の巨匠”と云われ、旧ソ連時代に亡命を危惧した政府が、彼を国内に繋ぎ止めるために国立のオーケストラを結成したと言います(背景は異なりますが、ワルターの録音のためだけに結成されたコロンビアSOを思い起こします)。しかしそのロジェヴェンさんも、もう御歳80歳くらいの筈ですが、十八番(おはこ)のロシアものだけに期待が高まります。長女夫婦も今回は一緒に聴きに行くので、事前に勉強したいというリクエスト(近くのレンタルショップに無かったとのこと)に応えて5番の手持ちのCDを送ってあげました。
当日は新宿行きの高速バスに乗って、先に次女のところに行っていた家内と長女夫婦と池袋で待ち合わせて20分前に会場へ。いつもながら、ロビーからホールに入って行く時の、演奏前の喧騒に心惹かれます。
先ず驚いたこと。それは、ホールロビーで手渡された分厚い演奏会のチラシの束。袋に入って2㎝以上の厚さ。“都会はスゴイなぁ・・・”と、変なところで感心です。都下だけで8つ?のフルオーケストラを抱え、海外からの来日公演もひっきりなし。以前、“東京は世界一の音楽マーケット”という論評を見た記憶がありますが、日本経済がやや失速気味とはいえ、チラシの多さでそれを実感します。しかし、サロネン指揮ニューフィルハーモニア管でのマーラーの1番“巨人”や準・メルクル指揮N響のサンサーンスの3番“オルガン付き”(どうも年を取ると元気になれそうな曲に憧れます)。更にヤンソンス指揮バイエルン放送響のベートーベン・チクルスや、N響ではなくバンベルク響を振るブロムシュテット。また懐かしいところではラフマニノフの「晩祷」全曲演奏会(東京トロイカ合唱団)など。東京に居たら聴きたいコンサートばかりで破産しそうですね。やっぱり松本で良かった・・・と、変な納得。
さて、娘が取ってくれた席は前から4列目の左側。
跳んだり跳ねたり大袈裟な身振り手振りで、汗だくで振る指揮者も決して少なくない中で、“映像”としては初めて見るロジェストヴェンスキーは、少し長めの指揮棒を使って思いの外動作は小さめで、独特のバトンテクニック。近くから指揮振りを見ていると、2曲目までの明るい曲調もありますが、マエストロは時々団員にニコニコ笑いながら、お孫さんと戯れるのが楽しくてたまらないお爺ちゃま、といった雰囲気。
最初のロメオとジュリエットが終わると、「ハイ、おしまい!」とでも言ったのか、何事かつぶやきながらクルリと客先に振り向きました。
最初で暖まっていないのか、ホルンの出だしで乱れた部分があったものの、ロシアの雰囲気が感じられる演奏でした。でも客席は、残念ながら所々に空席がありました。ロジェヴェンのロシアものを以ってしても満席にはならないのでしょうか・・・。
休憩を挟んだメインの5番。クラリネットの奏でるお馴染みの「運命の動機」に始まり、これまで聴き慣れた中でも、かなりゆったりとしたテンポですが決して重たくならず、堂々とドライブしていきます。オケもマエストロの棒に熱演で応えます。演奏中に、今回は次席に座ったコンマスの小森谷さんの弓の毛が4本くらい切れたでしょうか。邪魔になるのか、弾かない時に手でちぎっていましたが、プチンという音が聞こえて来たのはステージ前の席だからこそ。弦の擦れる音や打楽器群などが、ホールの反響版の効果もあるのか、音圧となって体を包み込む感じは初めての体感でした。これまで、コンサートでは音響的に好ましい中段の真ん中の席を出来るだけ確保してきましたが、前列の席もなかなか面白くて病み付きになりそうです。
第4楽章も熱演で、分厚いストリングスと金管の咆哮で圧倒的なコーダで締めくくると、客席からは「ブラボー」の声が飛び交いました。こうやって聴き比べてみると、個人的にもしっかりとロシアの大地の香りがして(と言っても、 その昔出張でモスクワに一度行ったことがあるだけですが)、1年前に初めて生で聴いた佐渡裕指揮のベルリンドイツSOよりも好かった!感動しました。熱演した時の日本のオケも、やるじゃない!と大拍手です。
翌日の最終日を控えてか、満場の拍手に応えて3回目のカーテンコールの時に、マエストロは袖口の時計を見やるような仕草で、コンマス達に「もうイイかなぁ・・・」と困ったような様子。鳴り止まぬ拍手に、もう一度満足そうにカーテンコールに応えてからオケを下がらせました。
何となく、魔法使いのお爺さんか、或いはお年を召した“お茶の水博士”のような風貌と相俟って、そんなお茶目な仕草や指揮振りでのマエストロの笑顔が、何ともチャーミング。いつまでもお元気で振って欲しいものです。
帰られるどのお客さんも皆満足そうな笑顔です。そんな想いと、演奏会後の幸福感に包まれて我々も会場を後にしました。
娘からの、最高のバースデイ・プレゼントでした。