カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 週末ツルヤでの食料品買出しついでに、時々奥様が隣のツタヤでDVDを借りる際、「今日は5本で1000円だから、見たいのがあれば借りてもイイわよ!」との仰せ。然らば・・・と、都度1本、2本と借りる中で、最近観た幾つかの作品。(本当は、「星守る犬」を借りたいのですが、動物が可哀想なのは絶対イヤだと家内は反対しますし、確かに悲し過ぎるかなぁ・・・と躊躇しています)

 先ず「プリンセス・トヨトミ」。ストーリーの発想としては面白い。検査官の松平の祖先が徳川方で、大阪夏の陣で秀頼の子、国松を逃がしたのだろうと最後に想わせる辺りは凝っていますし、実際、真田幸村が秀頼と大阪城を脱出して薩摩の国に下ったという英雄伝説もあります。ただ、奥様が言っていましたが、富士山の裾野の十字架の意味が分かりません。「過去、“大阪国”の軍門に下った検査官の墓標じゃないの?」と言ったら、「じゃ、何で(綾瀬はるか扮する)鳥居も子供の頃見た訳!?」と言下に否定されましたが・・・。

 続いて「蝉しぐれ」。藤沢文学を代表する長編小説に登場する題材を、たった2時間の映像にまとめるのはやっぱり難しいのでしょうね。例えば、蔑む冷たい視線の中を、切腹した父親の遺骸を独り文四郎が大八車に乗せて帰る時に、途中後ろから押すのを手伝ってくれた文四郎を慕う道場の後輩(杉内道蔵)がいたからこそ、ふくは涙を零しながら文四郎と並んで黙々と大八車を曳いた(二人が無言で想いを通わせる重要な場面だと思います)のですが、映画では道蔵は登場せず、ふくは大八車の後ろから押します。そうした映像で観た後よりも、活字の方が読み終えた後の満足感は遥かに高かったように思いますし、映像として心に残る残像(心象風景)も映画よりも鮮やかだったと想います。      
一方、以前借りた同じく藤沢文学の短編を映画化した「たそがれ清兵衛」は、山田洋次監督作品らしく、庄内の海坂藩は斯くもあらんと、時代考証を基にしたセットや映像美は見事でした。しかし、内容は「たそがれ清兵衛」とは題名のみ(あとは時間になるとすぐ帰るところくらい)で、むしろストーリーは同じ短編の「祝い人助八」そのもの。また時代設定も映画では幕末においています。おそらく藤沢周平ファンからすると少々違和感があったのではないかと思いましたが、まだ短編作品の方が原作以上に膨らませられる分だけ映画化はし易いのではないでしょうか。

 そして、「カルテット」。浦安市の市制30周年を記念し、大震災での被災から市民一丸となって撮影を支えた感動の人間ドラマ・・・という触れ込みでしたが、背景はともかく、誇大広告でストーリーに深みが無く、音楽的にも無理があり全くの期待外れ。少なくとも「のだめ」の方が、TV版ですら演奏場面も含めてしっかり作ってありましたが、こちらは役者が演奏する場面は全くの素人で、拡大して実際に演奏する指先は全くの別人と素人目にもすぐに分かってしまいます。また、モチーフとなる家族の崩壊状況も小市民的というかスケールが小さ過ぎて深刻さが全く感じられず、音楽をそれぞれ断念してきた理由も良く分かりません。演奏会のPRのために路上でチェロを演奏(バッハの無伴奏組曲第1番前奏曲)し、ビラ配りをする母親。音大時代の出来ちゃった婚くらいで音楽を諦める必要ないのにと思わせる演奏(実際に弾いているのは勿論プロですが)。しかもすぐ近くに実の両親も健在であれば尚更・・・。また、最後のクライマックス場面で、中学生である主人公が抜擢された(らしい)音大オケの演奏会(第一バイオリンの一員)に出ずに家族との演奏会を選ぶ(勿論そちらは成功して、聴衆はスタンディングオベーション)と、どうして演奏家としての一生を(まだ中学生が)棒に振ることになるのでしょうか?唯一、剛力彩芽の目力だけが印象に残りました。

 些かがっかりした映画が多かった中で、原作も読んだという次女から薦められて然程期待せずに借りた『阪急電車』。いやぁ、これは良かったですね。決して大作ではありませんが、ほのぼのとして、ほっこり温かで。

 学生時代、京都から大阪へ行く時は、四条河原町から阪急電車を専ら利用していましたし、関西学生混声合唱団連盟(通称「関混連」)の合同練習か何かで関学へ行った時に西宮から実際に乗ったでしょうし、阪急電車そのものに学生時代の郷愁を感じることも、その背景にはあったのかもしれませんが・・・。また、自身最近までの電車通勤で、読むモノが無くなると車内での人間観察が趣味だっただけに、エピソードも意外とあるかも・・・と納得し易かったのかもしれません。

 物語は、西宮北口と宝塚を結ぶ僅か15分足らずという阪急今津線を利用する見ず知らずの沿線住民のそれぞれのエピソードが、縦糸と横糸でやがて織り成すように、同じ電車に偶然乗り合わせて、最後には少しずつ絡み合い、そして助けられながら、それぞれが抱える葛藤を乗り越えて行く物語。
実際にはあり得ないかもしれませんが、それぞれの小さな日常が、たった15分という短い路線ならあり得るかもしれないと、納得させてくれます。
配役も、宮本信子が凛として実にイイ味を出しています。宮本信子扮するお節介な老婦人に諭され励まされて新たな一歩を踏み出す中谷美紀、戸田恵梨香が、今度はまた乗り合わせた別の乗客を助ける。
中谷扮するアラサーOLが、イジメに合って一人悩む小学生を小林駅のホームで勇気付ける場面も、凛としてとてもイイ。
      
 確かに、実際にはあり得ないかもしれませんが、あの3.11の時は、お節介にも似た赤の他人への小さな優しさと思いやりがこの国には溢れていただけに、観る側にもデジャブのような既視感があるのかもしれません。