カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 我々、生粋の“松本っ子”が当たり前と思っていても、県外から来られると、驚いたり意外だったりすることも多いようです。そんな話題としてお送りします。題して「信州松本“ぶったまゲーション”」。

 会社の同期の友人が、昔良く文句を言っていました。
『東北の人たちは、自分達が方言をしゃべっていると認識して申し訳なさそうに話しているから許せるけど、信州人は標準語だと信じて方言をしゃべるから許せない!』(斯く言う彼は関西弁)

 確かに、私も県外に出るまで方言と知らず、標準語(正しくは共通語)だと思って使って恥をかいたことがありました。
長野県は、全体のイントネーションが共通語と余り変わらないため、自分達の言葉そのものが共通語だと勘違いしてしまうようです。
   
 曰く「ずく、つもい、てきない、うつかる、ぶちゃる、まえで、おつくべ」・・・などなど。お分かりになりませんよね・・・?(注記)
さすがに、「・・・でしょう」とか「・・・だろう」というのを「・・・ずら」とか、「・・・だよ」を「・・・だじ」と言うのは、信州人も方言と認識していると思います。
学生時代、京都から帰省して来て松本駅のホームに降り立って、赤いほっぺの女子高生たちが「うそずらぁ」と話しているのを聞くと、「あぁ、松本に帰って来たなぁ!」と感じたものでした。
(ただ、最近の若い人たちは殆ど共通語で、あまり方言を使っていないような気もします)

 昔、採用担当をしていた頃、体育館でのその年の入社式のリハーサルでのこと。総務の先輩が県外出身者の方が多かった新入社員たちに向かって、「皆さん、もう少し“前で”に来てください!」
すると、新入社員諸君がザワザワと・・・。
「おい、“マエデ”って何だ?」
「多分、前に出ろってことじゃない?」
後ろで黙って聞いていて、「うん、なかなかイイ線!」
その先輩は、勿論“前で”が方言とは知らずに使ったのは言うまでもありません。
 また、その昔新製品が誕生し、そのテクニカルマニュアルを作って専門業者に翻訳に出したら、担当者が「ネジがキツイ」場合のことを「つもい」と書いてあったため、外部の翻訳者が専門用語だと勘違いをしてそのままアルファベットで「TSUMOI」と訳した、という笑い話もありました。

 日本の共通語は、明治新政府がそれまでの都だった京言葉や、首都となった東京の江戸弁(下町言葉)などではなく、いちばんクセの無い山の手の中流武士の言葉を当時の標準語として採用した、というのが通説のようですが・・・。

 昔、明治政府がクセの少ない信州弁を標準語に採用したという話を真(まこと)しやかに聞きました。それが証拠に昔NHKのアナウンサーには長野県出身者が多かった、などと・・・どうやら違うようです。
【注記】
ずく=億劫がらずにすること(例えば、ちょっとしたことをするのに「小ずくがある」とか、逆に面倒臭がる人のことを「ずく無し」とか)、
つもい=きつい、てきない=疲れた、うつかる=(壁などに)もたれる、ぶちゃる=捨てる、まえで=前、おつくべ=正座、おざざ=うどん、もうらしい=惨めったらしい、まてい=丁寧、・・・などなど。
語尾の「ずら」は隣県の静岡県と共通。また走ることを「とぶ」と言うのも静岡県と同様です。例えば、信州では「かけっこ」のことを「とびっくら」とも。
県外からの転校生が、先生から「とべ!」と言われて、その場でピョンピョン飛び跳ねた、という可哀想な笑い話は恐らく枚挙にいとまがないでしょう。
但し、信州は盆地が多くそれぞれが独立しているため、地方により方言も異なるようです。例えば、語尾に「に」や「ね」が残る伊那谷は、平家の落人の「平安ことば」の名残とも言われています。