カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
皆様、どこかでこの人形をご覧になられたことはありませんか?
昔の信州の(おそらく日本全国共通の)農村の日常風景が切り取られたかのような、ほのぼのとして愛らしくも何故か懐かしい、そんな人形達。
作者は高橋まゆみという方で、長野市に生まれ奥信濃と呼ばれる飯山に嫁がれて、JA(農協)職員の傍ら、趣味で人形制作を続けられていたとか。
飯山と言えば、高野辰之の「故郷」や「朧月夜」などの舞台。日本の原風景にも似た懐かしさを感ずるのも当然なのでしょうか?
また、私自身が“ジジババっ子”で、幼い頃は毎朝連れられてリンゴ園に一緒に出掛けて、暗くなるまで独り遊びで走り回っていたので、「昔は確かにこうだったよなぁ」と余計親近感を感ずるのかもしれません。
私が初めてこの人形を見たのは、5年ほど前のJA(農協)の営業用のチラシの写真だったような気がします。
『三丁目の夕日』と同じように、昭和を懐かしむ風潮なのか、この高橋まゆみさんの人形も今や大変な人気だそうで、全国各地で巡回展が開かれ、そして地元飯山に2010年4月『高橋まゆみ人形館』が開館。
そこで、お盆休みの最終日。家内への罪滅ぼしで、一日だけ農作業をお休みにして、母とナナも連れてドライブがてら行ってみることにしました。
豊田飯山インターで降りて国道117号線を経由し、途中から飯山市街地に入り、商店街を抜ける一本道。松本の自宅からちょうど100km。近付くと案内板もあって分かり易く、飯山城址と反対側に目指す人形館がありました。
「朧月夜」に合わせた千曲川の河川敷の「菜の花まつり」(アブラナではなく野沢菜です)は大変な人出だそうですし、また飯山地方は豪雪地帯で野沢温泉始め有名なスキー場が点在しています。
その時期以外の飯山は、喧騒のないしっとりと落ち着いた寺の町。ただ有名なお寺は無いので、風情を楽しむ以外には観光的に他に見るべきところが無いのか、『高橋まゆみ人形館』は団体客も押しかけて想像以上の賑わいでした。
家内と母が先に見ている間、私とナナは人形館の「縁側」に座って待ちながら、同じくシュナウザーを連れられたご婦人と暫し犬談義です。
京都伏見から来られて、同じくご主人とお母様が先にご覧になられているそうです。暑い京都を離れ、この時期は毎年信州に来られるのだとか。信州にはペットと一緒に泊まれるホテルや旅館が少なくて、と嘆いておられました。
「うーん、ペンションだと結構あると思いますが?この辺だと斑尾とか・・・」
「でも、ペンションだと皆で集まって歌うたりせんといかんでしょう。若い人はエエかもしれんけど、私ら億劫やし・・・」
「あぁ、それって昔のユースホステルですね。ペンションはプチホテルみたいな感じですけど・・・」
ご主人とお母様が戻られました。
「オトウサン、歌うんはユースホステルやて。ペンションちゃうて・・・」
「あっ、そやったな・・・。」
何でも、数年前に京都高島屋に来た巡回展の時の方が、人形展示は多かったそうです。でもお母様は、館内で放映していた人形の製作過程がとても興味深かったと感激されていました。
こちらも戻った家内と交替し、人形館に入ると意外とこぢんまりとしていて、展示室が2部屋と視聴コーナーで人形の製作過程等を放映していました。見入っている中には母の姿も。こちらも当分動きそうにはありません。
展示は50体ほど(館内撮影禁止)でしょうか、確かに思いの外数が少なかったのですが、ジオラマで再現された昔の風景の中に置かれた、ほのぼのした人形たちに心和みます。デフォルメされた表情が何ともイイ。孫とお小昼を畑で食べるオジイチャンとオバアチャン。遊び疲れた孫を負ぶって夕方畑から帰るオジイチャン。半世紀前の祖父母と自分がまるでそこにいるかのようです。
見ている皆誰もが、おそらく人形の向こうに昭和30年代の自分を、そして自分の家族を投影しているかのような気がします。そして、見ている誰もが皆笑顔です。
見終わってからの昼食。飯山は「オヤマボクチ」というキク科のヤマゴボウに似た葉を繋ぎに使うという富倉集落の蕎麦が有名ですが、残念ながらペット同伴可のお店は無さそうです。
人形館を出た所で、「これじゃナナが暑くて可哀想だから、コンビニ弁当でイイから車で食べヨ!」と家内が言う傍らで、たまたまレストランのチラシを配っていた方が、「ウチにはテラス席もありますので、宜しければ・・・」とのことから、渡りに船とばかりに直ぐ近くの飯山城址入り口にあるというそのお店へ行ってみました(写真は城門の残る飯山城址公園。春は桜の名所とか)。
自家製の野菜を使ったという農家レストラン『心幸食(シンコキュウ・・・命名の苦心が偲ばれますが、チト苦しいか。末尾に送り仮名で「う」を付けた方が読めるかも)』。
日の遮られたテラス席で、自家製のパウンドケーキとカボチャのポタージュスープ、サラダも付いたランチプレート(980円。斑尾高原の湧き水で入れたというコーヒーなどの飲み物付きで1080円)をいただきました。ナナもおやつを食べ、喉が渇いたのでしょう、水を飲み、タオルを敷いて一緒にテラス席でお休みです。
どうやらご家族皆さんでやってらっしゃるようで、結構手間をかけた何品かの料理は素朴ながらも味付けも優しくて、店名に込められた想い通り、確かに食を通じて心が温かくなるような、そんな感じのするお店でした。
車で出る時に、「飯山を是非楽しんでいってください!」と言われながら、(乗っている人間は背で見えないでしょうに)奥様が深々とお辞儀をして私たちを見送っていただいていたのが、バックミラー越しに大変印象的でした。見えないでしょうが、思わずこちらも自然と車の中でバックミラーに向かってお辞儀を返していました。
車の中で母が「良かったネェ」と独り言・・・そう、人形だけではなく、垣間見た飯山は良かった・・・「さてと、帰りますかぁ!」
ほのぼのした人形と共に、奥信濃の人々の優しさも頂いて、心温まって帰宅の途につきました。