カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 次女がこの春から社会人となって成田へ引っ越して、新居のワンルームがケーブルTVのため、PCでのTVの視聴ができなくなってしまいました。
長女が貸してくれた小さなワンセグTVしかないというのも可哀想なので、前夜新宿で購入した小型液晶TVと頼まれた節電対策用の扇風機を両手に提げて、早朝6時半に新宿から一人成田へ向かいました(我ながら親バカだなぁ)。

 8時過ぎに到着した成田は、この日がちょうど「成田祇園祭」とか。
表参道には、屋台や商店の出店が両側に立ち並んでいます。おそらく成田山までずっと続いているのでしょう。そして、これから山車を曳きに行くのでしょうか、法被に捻り鉢巻姿のいなせな若い女性たちが駅から新勝寺方面へ表参道を足早に歩いて行きました。賑やかそうで、来年は是非見に来ようかな(家内はねぶたが見たいそうです)。
東北三大祭りだってちゃんとやるんだから、三社祭もやれば良かったのになぁ。日本中元気出さなくっちゃ!・・・と思います。

 さて、我が家では家内がAV担当であることを知っている次女は、「ホントに、一人で大丈夫ぅ?」と訝しがりますが、「まっか(任)せなさぁい!」とマニュアル片手に奮闘すること30分(既に母宅の地デジ化も、6月に残りの2台の対応を経験済みですので余裕です)。
無事両方の組立とTVのセッティングを終わらせて、段ボール箱も潰して紐で縛って片付けて全て完了。ベランダで一息つかせてもらっていると、遠くからヨイショ、ヨイショという掛け声が聞こえてきます。お祭りが始まったのでしょうか?
残念ながら、我々は表参道を成田山に背を向けて、電車で次女と一緒に長女たちと家内との待ち合わせ場所、今度は東京青山の表参道にある「PARIYA」というデリカテッセンの店へ向かいました。
       
 次第に車内が込んで来て、やがて席が一杯になり、途中駅で乗られたオジイちゃんが目の前を通り過ぎて少し離れたところで立っています。乗客は、誰も気にも留めません。

席を譲ってあげようか、どうしようか、5メートルも離れているし・・・、と躊躇していると、隣に座っていた若い女性がすくと立って、オジイちゃんのところまで歩いて行って何か話して、どうやら席を譲ってあげたようです。オジイちゃんはお礼を言って座ります。
「エライなぁ、若いのに・・・。」
そんな風には見えませんでしたが、最近の都会の若者も捨てたモンじゃないですなぁ。
学生時代に好きだった、吉野弘(混声合唱曲「心の四季」や「祝婚歌」などの作詞)の詩が頭に浮かびます。   


   『夕焼け』 吉野弘(詩集『幻・方法』より)
   *行数を減らすために、改行はオリジナルと変えてあります

  いつものことだが 電車は満員だった。
  そして いつものことだが 
  若者と娘が腰をおろし としよりが立っていた。
  うつむいていた娘が立って としよりに席をゆずった。
  そそくさととしよりが坐った。
  礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
  娘は坐った。
  別のとしよりが娘の前に 横あいから押しだされてきた。
  娘はうつむいた。しかし 又立って 席を そのとしよりにゆずった。
  としよりは次の駅で礼を言って降りた。
  娘は坐った。
  二度あることは と言う通り 別のとしよりが娘の前に押し出された。
  可哀想に 娘はうつむいて そして今度は席を立たなかった。
  次の駅も 次の駅も 下唇をキュッと噛んで 身体をこわばらせて―。
  僕は電車を降りた。
  固くなってうつむいて 娘はどこまで行ったろう。
  やさしい心の持ち主は いつでもどこでも われにもあらず受難者となる。
  何故って やさしい心の持ち主は
  他人のつらさを自分のつらさのように 感じるから。
  やさしい心に責められながら 娘はどこまでゆけるだろう。
  下唇を噛んで つらい気持ちで 美しい夕焼けも見ないで。


 結果として席を立たない人間には、3つのタイプがあると思います。
全く意識の中に無い人、気付いても気にしない人、そして気になっても立てない人。
分かってはいても、勇気が無いと人間優しいだけではなかなか立てないもの。でも立てないでいると、今度はそんな自分を責める別の自分が現れます。
そう、立てない方が、時として「どうして自分は立たなかったんだろう?」と、後まで自己嫌悪を引きずる分だけ苦しいんです。弁解がましいですけど・・・。

 そのすくと立った隣の若い勇気ある女性は・・・何と、次女でした。
親としてではなく、勇気が無く「立てなかった人間」として感心した次第。
親としては、いつまでもヒヨコだ、雛だと思っていても、ちゃんと巣立って成長しているんですね。

 じゃあ、TVだなんて親バカで買わなくても良かったなぁ・・・。
ん?それはそれ、コレはコレ?あっそう。