カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 高山文彦著『あした、次の駅で』(ポプラ文庫)。
失礼ながら著者の方も存じ上げず、通勤で読む本が無くなったので、何となく文庫本の新刊コーナーにあったのを買って、帰りの通勤電車で読みました。

 何だか不思議な、とても魅力のある小説でした。特に懐古趣味に陥りそうな中年男性にとっては・・・。
期待せず読み始めたのに引き込まれてしまい、あっという間に読み終えました。ある日などは、終点の松本に着いたのを気が付かず、車掌さんに教えられたほどでした。
 物語は、宮崎の高千穂峡出身の映像作家?が、高校卒業以来拒んできた故郷に、高校時代の女友達から突然送られてきた、廃業する映画館の最終上映会の入場券を手に、台風被害の後運転再開した高千穂鉄道に乗って戻る道すがらのストーリー。
列車に偶然乗り合わせた地元の人々との不思議な巡り会わせと、高校までの思い出が絡み合いながら物語が進行していきます。

 “神話の故郷”高千穂の山桜咲く谷間の風景と、主人公含め閉館となる思い出の映画館に向かうために1両のトロッコ列車に乗り合わせた素朴で温かな土地の人たち。
空想するに、何だか春霞のベールに包まれたようなパステル色の高千穂の映像と、モチーフとなる最終上映の映画「ひまわり」の画面一杯の黄色の原色の記憶が優しく包み、更に神話の故郷らしく神秘のベールで読み手自身も包み込まれているような、読んでいて何とも不思議な感覚です。
そして、“偶然”乗り合わせた主人公とその人たちとの邂逅の“必然”が、やがてそのベールを一枚ずつ剥がすように明らかにされていきます。

 氏自身が高千穂生まれで、大宅壮一賞を受賞したという元々ノンフィクション作家であり、この小説は「ミラコロ」という不思議な題名を文庫化に当たり改編したものとか。
実際に台風被害で廃線となった故郷の高千穂鉄道を、現実の世界では無理でも小説の中で蘇らせたかった、ということが執筆のキッカケだそうです。

 著者自身の後書きで、氏と高千穂鉄道の巡り会わせを知れば、その必然性にナルホドと合点がいきますが、興味ある方はご自身でご確認ください。

 そして、ここで『澪つくし料理戸帖』の第5巻「小夜しぐれ」が発刊されました。大事に読まなくっちゃ!

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