カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>
7年?ほど前の春のことです。
その日は出張で、「あずさ」で新宿へ向かっていました。当時は、まだ喫煙車両がありましたので、喫煙席を取ったのですが、新型あずさで1両だけ連結されているガラスで仕切られた喫煙コーナー付きの車両(たぶん隣に連結している喫煙席の無いグリーン車のお客様用に敢えて設置したのではないかと思います)だったため、自席では吸わずに、そのコーナーに行って吸っていました。
その日は天気も良く、朝、常念・槍・乗鞍に見送られて松本駅を出ると、塩尻周辺の穂高、上諏訪を過ぎると八ヶ岳、小淵沢の甲斐駒、韮崎を過ぎてからは富士山と、やがて車窓には日本を代表する名峰が次々と姿を表します。(因みに、視界が良いと下諏訪駅手前で、遥か諏訪湖の向こうに富士山が見えるのをご存知ですか?)
特に3月下旬から4月中旬は、早春の信濃路から春本番の甲斐路を経て武蔵野へと、僅か200kmの間で季節の違いが一番感じられる時。
サクラであれば小淵沢手前には左側の車窓に八ヶ岳をバックに枝垂れ桜の老木(「神田の枝垂れ桜」)や、新府辺りでは右側には残雪の甲斐駒をバックにした丘陵地の桃畑(「新桃源郷」の看板が車窓からも見えます)や、甲府を過ぎると一宮を中心とした一面ピンクの桃畑の中をあずさは駆け抜けて行きます。やがて甲府盆地を周回するように勝沼まで上がっていくと、眼下には盆地を埋め尽くすかのようにピンクの絨毯が広がっています。それから幾つものトンネルを抜けて、八王子を過ぎ新宿へ到着する前の線路沿いの土手には、ムラサキナバナや菜の花が鮮やかな紫や黄色の帯のように続いています。そして、季節は新緑へ。
その日、喫煙コーナーにずっと佇んでは、時々デジカメで車窓から写真を撮っている中年の男性の方がいました。ジャンパーを着ていましたので、どうやら出張中の会社員ではないようです。
何度か同室?するうちに何となく、お互い「綺麗ですね!」と会話が始まりました。その方は、何と?JR貨物の機関士の方で、首都圏から貨物列車を運転されて来られ、帰路は(通常は復路も貨物列車を運転されて戻るそうですが)たまたまその日は列車が無いため電車で戻られる途中とのことでした。元々は山手線の機関士だったそうですが、「若い頃組合活動を頑張りすぎて、貨物の方に異動しましてね。」と自嘲気味に笑われていました。
その方曰く、「この路線(中央東線沿線)は日本で一番美しい路線だと思いますよ。東京を出て、松本に着くまで、どの季節もそれこそ涙が出るほど美しいと思う瞬間瞬間があります。」と、その景色を思い出すかのように宙に視線を漂わせながら仰っていたのがとても印象的でした。
特急と違い、貨物列車は旅客列車のダイヤの間を縫いながらの運行でしょうから、余計ゆっくりと沿線の四季折々の風景が脳裏に焼き付けられているのでしょう。
出張の時など、新幹線に比べ時間がかかり過ぎる不便さをいつも嘆いているだけに、プロの方からそう言っていただくと余計説得感があり、そんな路線に乗ることが出来る幸せをちょっぴり感じた次第です。
私のお気に入りは、下り線で言うと、韮崎を過ぎた辺り(新府)で左側の車窓からの『残雪の甲斐駒をバックにして広がる桃畑』。空の青と山の白、桃のピンクの鮮やかなコントラストが、それこそ『涙が出るほど美しい中央東線』の中でも「期間限定の」“イチ押し”の風景です。
見られるのは4月上旬。その瞬間まで、もう1ヶ月弱。今年は運良く立ち会えるかどうか・・・?
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