カネヤマ果樹園 雑記帳<三代目のブログ>

 「故郷・松本には上手いものが無い」。これは松本出身の太田和彦教授(専門のデザインより、むしろ居酒屋評論家としての方が有名)の「居酒屋放浪記」・「立志編」で松本の項に冒頭自虐的に書かれている内容。(因みに今も変わらぬ深志高校生の思いが、数行の中に凝縮されています)でも、決して何も無いわけではなく、独善的お薦めを幾つか。
 お蕎麦では、蔵の街「中町」から南へ一本入ったところの「野麦」。十人も入れば一杯の小さなお蕎麦屋さん。以前はおばあちゃんが一人で切り盛りされていましたが、今は息子さんが代わられたとか。「もり」のみ。しかも、一枚千円(最近ご無沙汰していたのでH/Pで調べたら、今は1100円の表示が・・・)と決してお安くありませんが、背筋が伸びる「いい店」です(「・・・でした」でないことを祈ります)。小盛もあり。同じく蕎麦では郊外(岡田六助)の「月の蕎麦」が良心的。同じメニューが、蕎麦殻入りの黒い田舎と白い更科から選べます(どうも更科の方が早く終わってしまうようです。
 ラーメン屋「札幌」。今は娘さんが場所を移して(野麦の横?)守ってらっしゃるとか。その昔、縄手通りの「中劇」の横の路地にあって、高校時代、友達(男二人と女生徒の三人で)と(多分映画を見た後で)入ったら、頑固なおやじさんから「女の子を(デートで)こんなところに連れてきちゃ駄目だ!」と「暖かく」怒られた店。
 焼きそばの「たけしや」。その昔は高校生御用達。信州蕎麦かと見まごう黒く太い麺にギトギトの甘めのソース。汚かった店が、今は同じ場所(駅から北へ、女鳥羽川を渡り2本目の通りを右折し北の角。徒歩5分)で建て替えられて営業中。肉無しだと、一人前500円。普通の中華麺(太めは相変わらず)になっても、懐かしい味です。
 喫茶では「まるも」。女鳥羽川沿いで、縄手通りと川を挟んだ対岸。旅館を併設しています。最近はご無沙汰ですが、少し濃い目のコーヒー(ブレンド)も美味しくて、一日中クラシック音楽を流していた店。確か昔はリクエストにも応えてくれたような・・・。貧乏学生が、コーヒー一杯で長時間粘っていても決して嫌な顔をされなかった店でした。


 最後に居酒屋「草枕」。太田和彦氏が、「塩イカ」(ゆでた塩味のイカと輪切りのキュウリを醤油で和えたものが正統派)が食べたくて、どこにもなく、最後諦めて締めにぶらりと入って偶然「塩イカ」に出会えた店。お通しを一気に平らげてお代わりをしたら、黙って山盛りにしてまた出してくれたとか。そんな「居酒屋放浪記」記述通りの「無愛想な」おばあちゃんが、今でも時々お通しに出してくれます。駅前を左、ステーション・ホテルの斜め対面の小さな居酒屋。「本に出てましたよ。」と言っても、「そうらしいね。」の一言でチョン。でも、「今日もあるよ。」と言って、その塩イカを出してくれました。
 勿論、もっと有名な蕎麦屋とかフランス料理店とか他にも「名店」はありますが、太田和彦氏の「いい居酒屋」基準で言うところの、『いい酒、いい人、いい肴』。客に変に愛想良く迎合するのではなく、また有名店になったからと言って「イヤなら出て行け」的な傲慢で高圧的な応対でもない、信州人ぽく最初はとっつきにくくても、どこか松本的な情緒を感じられるようなお店が、それなりにあるような気がします。