この時期になると、1年前の松本の看護師さんのニュースが思い起こされます。
ご冥福をお祈りいたします。
発症後1日半で急死、インフルエンザ脳症
まつもと医療センターの看護師
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/291900/
2015年2月5日 橋本佳子(m3.com編集長)
松本病院は、許可病床243床(稼働病床200床)で、7対1入院基本料を算定、平均在院日数は約15日、1日の外来患者数は約350人。地域医療支援病院の承認を受けている、地域の基幹病院だ。
インフルエンザの院内感染の発端となったのは、1月10日に入院した3人の患者だ。うち1人は、血尿治療のために入院した患者で、インフルエンザ様の症状も呈していたため検査したところ、A型と判明。残る2人は、同病院を受診前(1月6日と8日)に、他院でインフルエンザと診断されていた。1人は、肺炎で加療されていたが、改善しないために紹介入院、もう1人は食事が採れないために受診、入院に至った患者だった。
死亡した70代の白血病患者は末期に近く、呼吸状態が悪く、人工透析も受けていた。15日に感染が確認され、17日にインフルエンザ肺炎で死亡した。
結局、1月18日までにインフルエンザA型の陽性が確認されたのは、患者21人、看護師4人に上る。19日から25日まで7日間、新たな発症者がいなかったため、1月26日に終息宣言した。
感染ルートの特定は難しいものの、患者の入院病棟や病室、職員の患者への接触歴などの疫学調査から、院内感染のルートは一つではなく、複数が推定されるという。最初の3人の患者は同じ病棟で、うち2人は同じ病室だった。死亡した看護師は、3人の患者との接触歴があった。外部で感染した患者の入院も否定できないものの、最終的には、4つの病棟からインフルエンザA型の陽性者が出た。
病院到着時、意識レベル低下、JCS200
死亡した看護師は、インフルエンザの予防接種済みで、通院治療中の病気はなかった。1月15日は通常勤務をして、夕方に帰宅。午後6時頃に発熱を自覚し、同日午後9時30分頃には、38.6℃の熱があった。自宅では、アセトアミノフェン含有の市販薬を服用していた。
翌16日の明け方から調子が悪く、「腰が痛くて、起きることができない」といった状態になり、午前10時頃、近隣の診療所を受診。受診の間に、意識レベルが悪化した。
そのため、すぐに松本病院に救急搬送され、午前10時55分に到着。その時点で、瞳孔散大、共同偏視、項部硬直、四肢の麻痺や脱力などが見られ、意識レベルは低く、JCS200、GCS:E4V2M3だった。呼吸状態も悪く、気管挿管を試みたものの、強直性痙攣が重積し、ジアゼパム投与でも挿管が困難だったため、気管切開で気道を確保。MRI、頭部CTなどの検査を実施し、インフルエンザ脳症と診断、ステロイドパルス療法などを実施したが、改善はせず、信州大学医学部附属病院高度救命救急センターに、午後3時に救急搬送した。
同センターへの到着時、さらに意識レベルは低下、JCS300、GCS:E1VtM1だった(挿管のためVt)。ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン療法、アシクロビルやペラミビルの投与などの治療を続けた。血圧低下などから、低体温療法はできなかったという。しかし、治療の甲斐なく、17日の朝6時頃に死亡した。死亡後、病理解剖は実施しなかった。なお、各医療機関のいずれでも、オセルタミビルの投与はしていない。
死亡した看護師については、患者3人と接触歴があるため、労災認定の対象となると考え、国立病院機構本部と相談しているという。
全職員、全入院患者に予防投与
松本病院では、昨年12月から、全職員に毎日、検温を課すほか、発熱や咽頭痛、倦怠感などインフルエンザの疑いがある場合には、医師の受診を促していた。院内感染の判明後は、これらを徹底させるほか、さまざまな感染対策を実施した。
具体的には、(1)職員全員に加えて、患者も対象に、院内でのマスクの着用の徹底、(2)外来入口でのアルコールによる手指消毒、(3)院内の換気の徹底(病棟は1日2回、外来は1日1回など)、(4)面会制限(原則家族のみで短時間に抑えてもらい、体調を面会カードで確認し、体調不良の場合には禁止したり、小児の面会はできるだけ遠慮してもらうなど)、(5)入院患者と外来患者の動線の分離(外来患者で混む午前中は、外来フロアに入院患者ができるだけ行かないようにするなど)、(6)入院患者の外泊はできるだけ避ける――などの対策だ。
抗インフルエンザ薬も、全職員と前入院患者に対し、おおむね8日間から10日間予防投与した。オセルタミビルが基本だが、服用が難しい患者にはザナミビルまたはペラミビルを使用した。