内科・外科・小児科 安曇野市 穂高ハートクリニックのスタッフブログ
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◆手足口病(国立感染症研究所感染症情報センター)
手足口病(hand, foot and mouth disease:HFMD)は、その名が示すとおり、口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス感染症で、幼児を中心に夏季に流行が見られる。1950年代後半に認識された比較的歴史の新しいウイルス性発疹症であり、我が国では1967年頃からその存在が明らかになった。本疾患はコクサッキーA16(CA16)、CA10、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルスによりおこり、基本的に予後は良好な疾患である。
しかし、急性髄膜炎の合併が時に見られ、稀であるが急性脳炎を生ずることもあり、なかでもEV71は中枢神経系合併症の発生率が他のウイルスより高いことが知られている。
疫 学
本症は4歳位までの幼児を中心とした疾患であり、2歳以下が半数を占めるが、学童でも流行的発生がみられることがある。また、学童以上の年齢層の大半は既にこれらのウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いので、成人での発症はあまり多くない。
感染症発生動向調査によると、国内における手足口病流行のピークは夏季であるが、秋から冬にかけても多少の発生が見られる(「グラフ総覧」参照)。最近では、1985年、1990年、1995年、2000年と5年おきに比較的大きな流行がみられており、それぞれの年に検出されたウイルスをみると、85年はCA16、90年はEV71、CA16、CA10の混合流行、95年はCA16、2000年は EV71がそれぞれ流行の主流となっている。
最近数年間にアジア地域では死亡例を伴った比較的大きな流行が見られ、注目を浴びた。1997年4~6月にマレーシア・サラワクではHFMDの大流行が見られ、急速な経過で死亡する例が30例以上報告された。この間、エンテロウイルスを初めとする複数のウイルスが検出されたが、死亡例からは咽頭、便などからEV71が分離されている。また剖検が行われた少数例では、中枢神経系に浮腫、炎症像がみられ、脳幹脳炎が1例に見られた。1997年大阪においては、HFMDの発生状況は例年をやや下回る程度であったが、HFMDあるいはEV71感染と関連が濃厚な小児の死亡例が3例報告された。3例ともに急性脳炎と肺水腫が認められた。その後、台湾においては1998年2月頃よりHFMDが増加し、5月をピークとする大流行となった。HFMDに関連する髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis:AFP)などが相次ぎ、EV71が分離され、12月までに台湾全土で死亡が78例と報告された。2000年6~8月に兵庫県で脳炎による死亡例を含むHFMDの流行がみられ、EV71が検出されている(IASR2001年6月号参照)。
病原体
CA16、CA10、EV71などのエンテロウイルスが病因となる。ヒト-ヒト伝播は主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染でおこるが、便中に排泄されたウイルスによる経口感染、水疱内容物からの感染などがありうる。便中へのウイルスの排泄は長期間にわたり、症状が消失した患者も2~4週間にわたり感染源になりうる。腸管で増殖したウイルスが血行性に中枢神経系(特にEV71)、心臓(特にCA16)などに到達すると、それらの臓器の症状を起こしうる。いちどHFMDを発病すると、その病因ウイルスに対しての免疫は成立するが、他のウイルスによるHFMDを起こすことは免れない。
臨床症状
3~5日の潜伏期をおいて、口腔粘膜、手掌、足底や足背などの四肢末端に2~3mmの水疱性発疹が出現する(図)。時に肘、膝、臀部などにも出現することもある。
口腔粘膜では小潰瘍を形成することもある。発熱は約1/3に見られるが軽度であり、38℃以下のことがほとんどである。通常は3~7日の経過で消退し、水疱が痂皮を形成することはない。
稀には髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系合併症の他、心筋炎、AFPなどを生ずることもある。特に、EV71による場合には、中枢神経系合併症に注意する必要がある。
図.手足口病における水疱性発疹
病原診断
通常は臨床的になされることが多く、水疱性発疹の性状、分布が重要であり、季節や周囲での流行状況などが参考となる。鑑別診断としては、口腔内水疱についてはヘルパンギーナ、ヘルペスウイルスによる歯肉口内炎、アフタ性口内炎などが挙げられる。手足の発疹に関しては、水痘の初期疹、ストロフルス、伝染性軟疣腫(水いぼ)などが鑑別の対象となる。
病原診断としてはウイルス分離が重要である。その場合、臨床材料として水疱内容物、咽頭拭い液、便、直腸拭い液などが用いられる。血清診断は補助的であるが、行う場合には、エンテロウイルス間での交差反応がない中和抗体の測定が勧められる。急性期と回復期の血清で4倍以上の抗体価上昇により診断する。
治療・予防
特別な治療を要しないことがほとんどである。発疹にかゆみなどを伴うことは稀であり、抗ヒスタミン剤の塗布を行うことはあるが、副腎皮質ステロイド剤などの必要はない。口腔内病変に対しては、刺激にならないよう柔かめで薄味の食べ物を勧めるが、何よりも水分不足にならないようにすることが最も重要である。薄いお茶類、スポーツ飲料などで水分を少量頻回に与えるよう努める。ときには経静脈的補液も必要となる。
発熱に対しては通常解熱剤なしで経過観察が可能である。抗生剤の投与は意味がない。しかし、元気がない、頭痛、嘔吐、高熱、2日以上続く発熱などの場合には髄膜炎、脳炎などへの進展を注意する。合併症を生じた場合の特異的な治療法は確立されていない。
予防としては患者に近づかない、手洗いの励行などである。患者あるいは回復者に対しても、特に排便後の手洗いを徹底させる。手足口病の原因ウイルスに対するワクチンは開発されていない。
感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの。
1. 手のひら、足底または足背、口腔粘膜に出現する2~5mm程度の水疱
2. 水疱は痂皮を形成せずに治癒
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。
学校保健法での取り扱い
手足口病は、学校で予防すべき伝染病1~3種に含まれていない。本文中に示した通り、主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されることがあるので、急性期のみ登校登園停止を行って、学校・幼稚園・保育園などでの流行阻止をねらっても、効果はあまり期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、脱水および合併症、ことに髄膜炎・脳炎などについて注意がおよんでいれば、集団としての問題は少ないため、発疹だけの患児に長期の欠席を強いる必要はなく、また現実的ではない。
通常の流行状況での登校登園の問題については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すればよいと考えられる。
(国立感染症研究所感染症情報センター)
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