内科・外科・小児科 安曇野市 穂高ハートクリニックのスタッフブログ

HHCブログ

2015/07/13 16:25

◆ヘルパンギーナ(Herpangina )

 ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性発疹を特徴とし、夏期に流行する小児の急性ウイルス性咽頭炎であり、いわゆる夏かぜの代表的疾患である。その大多数はエンテロウイルス属、流行性のものは特にA群コクサッキーウイルスの感染によるものである。

疫 学
 疫学パターンはエンテロウイルス属の特徴に沿う。すなわち熱帯では通年性にみられるが、温
帯では夏と秋に流行がみられる。我が国では毎年5 月頃より増加し始め、6~7月にかけてピーク を形成し、8月に減少、9~10月にかけてほとんど見られなくなる。国内での流行は例年西から東へと推移する。その流行規模はほぼ毎年同様の傾向があるが、1999~2001年の3年間はそのピ ーク時において、定点当たり報告数が例年に比べて高い状況であった。患者の年齢は4歳以下 がほとんどであり、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4、0歳代の順となる。
病原体
 エンテロウイルスとは、ピコルナウイルス科に属する多数のRNA ウイルスの総称であり、ポリオウイルス、A群コクサッキーウイルス(CA)、B群コクサッキーウイルス(CB)、エコーウイルス、エンテロウイルス(68~71 型)など多くを含む。
 ヘルパンギーナに関してはCA が主な病因であり、2、3、4、5、6、10型などの血清型が分離される。なかでもCA4がもっとも多く、CA10、CA6 などが続く。またCB 、エコーウイルスなどが関係することもある。
 エンテロウイルス属の宿主はヒトだけであり、感染経路は接触感染を含む糞口感染と飛沫感染 であり、急性期にもっともウイルスが排泄され感染力が強いが、エンテロウイルス感染としての性格上、回復後にも2 ~4週間の長期にわたり便からウイルスが検出される

臨床症状
 2~4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現する。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴う。発熱については2 ~4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失する。発熱時に熱性けいれ んを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈する ことがあるが、ほとんどは予後良好である。
 エンテロウイルス感染は多彩な病状を示す疾患であり、ヘルパンギーナの場合にもまれには無 菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがある。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきであるが、項部硬直は見られないことも多い。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要である。鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられる。
病原診断
 確定診断には、患者の口腔内拭い液、特に水疱内容を含んだ材料、糞便、髄膜炎を合併した例では髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出する。遺伝子診断(PCR 法や制限酵素切断法など)も可能である。確定診断にはウイルスを分離することが原則である。
 血清学的診断は、急性期と回復期のペア血清を用い、中和反応(NT)、補体結合反応(CF)な どで4倍以上の抗体の有意な上昇を確認することで行われる。しかしながら、エンテロウイルスでのCF は交差反応が多いので、一般には行われない。また、実際には臨床症状による診断で十分なことがほとんどである。
治療・予防
 通常は対症療法のみであり、発熱や頭痛などに対してはアセトアミノフェンなどを用いることもある。
時には脱水に対する治療が必要なこともある。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要であるが、後者の場合には特に循環器専門医による治療が望まれる。
 特異的な予防法はないが、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 ヘルパンギーナは5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの
  1. 突然の高熱での発症
  2. 口蓋垂付近の水疱しんや潰瘍や発赤
 ○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い
 ヘルパンギーナは学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定されてはなく、一律に 「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くなり、授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさ、あるいは合併症の発生などから保護者の間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3 種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈される。
 本症では、主症状から回復した後も、ウイルスは長期にわたって便から排泄されることがあるので、急性期のみの登校登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行阻止効果は期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、登校登園については手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。

2015/07/13 16:21

◆咽頭結膜熱

 咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)は発熱、咽頭炎、眼症状を主とする小児の急性ウイルス性感染症であり、数種の血清型のアデノウイルスによる。季節的に地域で流行することもあり、また小規模アウトブレイクとしても、散発的にも発生する。プールでの感染も多く見られることから本邦ではプール熱とも呼ばれる。

疫 学
 本疾患の原因であるアデノウイルスは、特に季節特異性がなく年間を通じて分離される。しかしながら、疾患としての咽頭結膜熱は通常夏期に地域全体で流行し、6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月にピークを形成する。本邦の感染症発生動向調査からみると、過去は夏期に流行の山がみられ、数年おきに流行規模が大小していたが、1999 年より秋と春にも小さな山がみられるようになっている。小規模アウトブレイクとして起こる場合には、季節を問わず、多くはプールを介した発生であるが、病院や施設、デイケアセンターなどでも報告されている。季節性流行の場合は、学童年齢の罹患が主であるとされているが、感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が約6 割を占めている。
 感染経路は、プールを介した場合には、汚染した水から結膜への直接侵入と考えられている。
 また、プールでのアウトブレイクの調査結果からは、タオルを共用したことが感染のリスクを高めたとの報告もある。それ以外では通常飛沫感染、あるいは手指を介した接触感染であり、結膜あるいは上気道からの感染である。

病原体
 アデノウイルスは正20面体構造をとるDNA ウイルスであり、エンベロープを有しない。51種類の血清型が知られており、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こす。咽頭結膜熱の流行をおこすのは多くは3型、あるいは4型、7型、また2型、11型、14型もみられる。散発例としては、1~8 型、14、19,13/30型の報告がある。逆に、これらの血清型のアデノウイルスが感染しても、必ずしも咽頭結膜熱の症状を来すとも限らない。乳幼児の急性気道感染症の10%前後がアデノウイルス感染症と言われ、アデノウイルスは小児で重要な病原体である。

臨床症状
 発熱で発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎による咽頭痛、結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂を訴え、3~5日間程度持続する。眼症状は一般的に片方から始まり、その後他方にも出現する。また、結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされる。眼に永続的な障害を残すことはない。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがある。潜伏期は5~7日とされている
 アデノウイルスの血清型のうち、7型は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となり、呼吸障害が進行したり、さらに細菌の二次感染も併発しやすいことがある。検査所見として特徴的なことは、血清LDH の異常高値、血球減少傾向、ならびに高サイトカイン血症である。高サイトカイン血症を示唆するフェリチン、β2 ミクログロブリンなどの上昇を伴う場合には、ステロイド剤の適応を含め、早急な対応が必要である。

病原診断
 確定診断には、患者の鼻汁、唾液、喀痰、糞便、拭い液や洗浄液、胸水、髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出する。最近、ラテックス凝集(LA)反応や酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され、早期診断に使用されているが、血清型別の判定はできない。しかしながら、近年遺伝子診断(PCR 法や制限酵素切断法など)が可能となり、迅速診断に有用で、簡便かつ型別判定が可能である。
 血清学的診断では急性期と回復期のペア血清を用い、赤血球凝集阻止反応(HI)、補体結合反応(CF)、中和反応(NT)などが行われる。CFは感度の点でやや劣り、しかも血清型の特定はできない。NT およびHI などは型特異的な測定法であるとされるが、実際には交叉反応があり、型の特定が困難なこともある。

治療・予防
 特異的治療法はなく、対症療法が中心となる。眼症状が強い場合には、眼科的治療が必要になることもある。
 また、造血幹細胞移植後を含む免疫抑制状態にある患者での重症アデノウイルス感染症の際に、抗ウイルス剤のリバビリンが有効であったという報告があるが、一方無効であったとの報告も散見され、一定の見解は得られていない。2001年のClin. Infect. Dis. にBordigoni らが、造血幹細胞移植後303名のレトロスペクティブ調査の結果を報告しているが、35名のアデノウイルス感染症で、治療として用いたリバビリンとビダラビンには効果がなく、シドフォビルあるいはドナーの白血球輸注を早期に試みる方法を報告している。しかし、リバビリンとシドフォビルは我が国では入手が困難な状況である。
 予防としては、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである。消毒法に関しては、手指に対しては流水と石鹸による手洗い、および90%エタノ-ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用いる。ただし、エンベロープを持たないアデノウイルスにおいては、消毒用エタノールの消毒効果はエンベロープを持つウイルス(たとえば、ヘルペスウイルスなど)に比較すると弱いとされる。逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要する。7型による感染症では、心肺機能に基礎疾患を有する小児で重症化の危険性が高く、特に院内感染対策上重要である。
 プールを介しての流行に対しては、水泳前後のシャワーなど一般的な予防方法の励行が大切であるが、ときにはプールを一時的に閉鎖する必要もある。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 咽頭結膜熱は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準をすべてを満たすもの
 1. 発熱・咽頭発赤
 2. 結膜充血
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法における取り扱い
 学校保健法では、第二種伝染病に位置づけられており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではない。

プロフィール
医療法人泉会
穂高ハートクリニック
診療科目:内科、外科、小児科
診察内容:
心臓血管病、ワーファリンケア、
生活習慣病、メタボリックシンドローム
(高血圧,高脂血症,糖尿病,高尿酸血症)
特定検診
予防接種

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